*かけがえのない贈り物*


 花のお腹も随分と目立ち、流石に漢服がゆったりと着こなせなくなってきた。

 公瑾の助手の仕事もしていたが、それも今は休んで、妻としての仕事のみになっている。

 公瑾の子どもは、既に結婚させる甘い約束を交わしているから、たくさん産もうとは思っている。

 尚香や仲謀の子ども、更には大喬や小喬の子どもなど、将来、結婚させようとみんなで言い合っている。様々な大切なひとと結び合う約束。

 本人たち次第ではあるけれども、やはり結婚してくれると嬉しいと、そんなことをほんのりと思っていた。

 

 花が朝、公瑾を見送りに行くと、じっとお腹を見つめられた。

「花、随分と、お腹が大きくなってきましたね。その服は随分とキツいのではないですか?」

「漢服はゆったりとしているから大丈夫ですよ? ですが、もう少し大きくなってきたら、辛いかもしれませんが」

「そうですか……。だったら、早急に、お腹が大きくなった時の物を用意しなければならないですね」

 公瑾はそっと花のお腹に手のひらを宛てる。すると不思議なことにとても落ち着いた気持ちになる。

 きっとお腹の中の赤ちゃんが、父親に触れられていることを解っているからだろう。

 花はそう思いながら、くすぐったい幸せを感じていた。

「花、妊婦用の衣服は直ぐに準備をしますから。女性の使用人に訊けば、分かるでしょうから」

「有り難うございます」

 花は、本当に公瑾に大切にされているとひしひしと感じながら、笑顔で頷いた。

「では改めて。いってらっしゃい、公瑾さん」

「行って参ります」

 公瑾を見送りながら、花は我が夫ながら、とても素敵だとうっとりとしてしまい、つい見ているだけで幸せな気持ちになった。

 公瑾が見えなくなるまで見送った後、花は漢字の勉強をする為に、書斎へと向かった。

 

 公瑾が休日の朝、花はいきなり声を掛けられた。

「花、今日は町から反物の業者が来ます。あなたに新しい衣服を仕立てますから」

「仕立てるって、今の服で充分ですよ。沢山ありますから」

 花はそんな勿体ないことなんて出来ないと思いながら、公瑾を見た。

「花、お腹がこれからどんどん大きくなって行くんですから、この衣服だとそろそろ限界に来てしまいますよ? あなたも先日、そのようなことを言ったではありませんか……」

 自分が言ったことすらも忘れたのかとばかりに、公瑾は溜め息を吐いた。

「勿体ないですから、ギリギリで良いかと思ったんですよ。短時間しか着ないものですから」

 花が笑顔で素直な気持ちを告げると、公瑾は益々呆れ返るとばかりに溜め息を吐いた。

「全く……あなたは……。欲がないというか……」

「お洋服を作って頂けるのはとっても嬉しいです。けれども期間限定なので……」

「期間限定というわけではないかもしれないですよ。あなたは色々な方々と、子どもたちを結婚させると約束をされているようですからね」

「あ……」

 確かに公瑾の言う通りではあるのだが。

「……花、これからも必要なものですから、遠慮されませんように。次は今回作った服を、また、着れば良いのですから」

「そうですね。解りました。次の赤ちゃんの時はそうしますね。だけど、産まれていない前から、次の赤ちゃんのことを気にするなんて、赤ちゃんが笑いますね」

「確かにそうかもしれませんね」

 公瑾も苦笑いを浮かべながら、それを認めた。

 

 暫くして、都督府に、反物業者がやってきてくれた。

 花の体型を色々な角度から測られる。

「お腹と胸は余裕を持って大きくしておきますね。そして、授乳がしやすいように配慮しておきますね」

「有り難うございます」

 花はきめ細かい配慮が嬉しくてつい笑顔になってしまう。

「奥様がやはりお洒落がしやすいような感じで仕上げますね」

 花はセレブリティな雰囲気に仕上がることを楽しみにしてしまう

「では、生地を選んで頂きましょうか」

 業者は、沢山の生地を丁寧に花に見せてくれる。

 どれも素晴らしくて、花は夢中になって見つめた。

「この薄い青の生地がとても綺麗ですね……」

 花にとって、薄い青は、公瑾のイメージがある。

 だからこそ大好きなひとと同じイメージの衣服を着たい。

 これを身に纏っていると、公瑾に抱き締められているみたいで、一つになっているみたいで嬉しいと思った。

「公瑾さん、この生地が気に入りました」

「見せて下さい」

 公瑾は花に寄り添って生地を見つめている。

 公瑾のイメージで選んだことを解っているからか、何処か笑顔になっているような気がした。

「良いですね。この生地はあなたらしい」

「はい。私もそう思います」

「後、これなんていかがですか? あなたにはピッタリだと思いますよ」

 薄紅色の生地を公瑾が手に取って見せてくれる。

 白い生地に薄紅色が虹のように施された生地は、本当にうっとりとしてしまうぐらいに美しかった。

「こちらも良い生地ですね。つい、うっとりとしてしまいます」

「どちらともで服を作ると良いですね。あなたはいつも遠慮をし過ぎてしまうんですよ。本当に遠慮なんてしなくても構わないんですから」

「はい、有り難うございます」

 公瑾に選んで貰った生地と自分で選んだものとで、きっと最高のマタニティ用の衣服が作れるのではないかと、花は思う。

「有り難うございます。公瑾さん」

「出来上がるのが楽しみですね」

 公瑾は、こちらがうっとりとしてしまうぐらいに甘い笑みを浮かべた。

「ではこの生地で丹精込めて、作りますから。楽しみになさっていて下さい」

「はい、楽しみにしていますから。有り難うございます」

 花はしっかりと笑顔を向けたあと、深々と頭を下げる。

 反物業者が帰った後、花は公瑾を見上げながら、笑顔になった。

「公瑾さん、良い物が本当に出来そうなので、物凄く嬉しいです」

「そうですね。楽しみにしておきましょうか」

「はい」

 どんなに素晴らしいマタニティドレスが出来るのが、想像しただけで、花は嬉しくてしょうがなかった。

 

 次の休みに、花の妊婦用の漢服が届けられてきた。

 かなりゆったりとしたデザインだが、何処となく優美だ。

 しかも高貴にも見える。

 花がうっとりとしていると、公瑾が寄り添って一緒に漢服を眺める。

「悪くはないのではないですか? 一度、お召しになると良いですよ。あなたの躰に合うのか、ちゃんと見る必要がありますから」

「そうですね。では着替えてきます」

「そうされて下さい」

 花は、出来たての漢服に着替えにゆく。

 お腹が随分と大きくなってきているので、花が着替えるのを使用人が手伝ってくれた。

「まあ! 花様、とってもお似合いですわ! 公瑾様もお喜びになりますわ!」

「有り難う」

「是非、公瑾様にお見せ致しましょう」

 花は使用人に連れられて、公瑾の前にゆく。

 だが公瑾は花を見ても、相変わらずの無表情だった。

「窮屈ではありませんか?」

「はい、大丈夫です」

「なら良かったです。あなたが窮屈なのは困りますからね」

「そうですね……」

 いつもと変わらない公瑾に花が苦笑いをしていると、さり気なく手を握り締められる。

 そこから熱い想いが伝わってきた。

 反物業者がこちらを恐る恐る見つめている。

「妻も私も気に入っています。有り難うございます」

 公瑾の言葉に反物業者はホッとしたかのような表情になった。

 

 ふたりきりになると、公瑾が抱き締めてくる。

「……花……、悪くありませんよ……」

 公瑾は花にフッと微笑むと、更に強く抱き締めた。

 



Top