クリスマスの夢を見た。 家族と過ごしていた頃の温かな夢だ。 懐かしい夢で、ついふらりと夜空を眺めて皆が何をしているのかを、考えたくなった。 夜中に寝台を抜け出して、花は夜空を見上げる。 冬の空を見上げると、とても澄んでいて麗しい。 向こうの世界にいた頃、冬は楽しいイベントが多くて大好きだった。 お正月、大晦日、そしてクリスマス。 大晦日とお正月はこちらでもお祝いをするから、懐かしく恋しく思うのはクリスマス。 花がいた日本では、クリスマスというよりはクリスマスイヴが盛り上がっていたけれども、家族みんなで過ごしたイヴのことは忘れない。 美味しいローストチキン、サラダ、シチューに、甘いクリスマスケーキ、ショートブレッド。 美味しいご馳走と、そして楽しい団欒。 子どもの頃は、サンタクロースがくれるプレゼントが楽しみで、楽しみでしょうがなかったことを思い出す。 セオリー通りに靴下を枕元に置いて、欲しいものを一生懸命願った。 ある日、サンタクロースは両親であることに気が付いて、切ない気分になったのを覚えている。 あんなにも空しい気分はなかった。 がっかりもした。 それから、両親はサンタクロースの真似事を止めて、堂々とプレゼントをくれるようになった。 サンタクロースは信じるひとの心の中にいるからと言われて、それを信じることにした。 だけど優しくて楽しい想い出。 この世界の愛するひととも、一緒にクリスマスを過ごしたいと思う。 花はそう思いながら、冬の夜空を見上げていた。 「花、どうしたのですか? こんな夜中に外に出るなんて」 やはり公瑾は、花が寝台から抜け出したことを、直ぐに気付いて、こうして迎えに来てくれた。 それが嬉しくてしょうがなかった。 「全くあなたは…。風邪を引きますよ。…今は大事な時期なんですからね」 公瑾は花に釘を刺すように言うと、背後から包み込むように抱き締めてくれた。 温かくて気持ちが良くて、花は思わず目を閉じる。 公瑾の温もりは花にとっては最高の幸せをもたらしてくれる。 「有り難うございます、公瑾さん」 「全くあなたは…」 呆れ返るように言いながらも、公瑾は更にしっかりと抱き締めてくれる。 その強さに、花はつい酔い痴れてしまう。 「あちらの世界のちょっとした行事を思い出して、懐かしく思っていたんですよ」 「あちらの世界の行事…ですか…」 花が寂しがっているのかと思ってくれたのだろう。公瑾の声が僅かに揺れる。 「こちらでもその行事が出来ないかなあっと思っていたんですよ。ロマンティックだから良いなあって思っていたんですよ」 「ろまんてぃっく…? ですか」 「きっとこちらでも盛り上がりますよ。緑葉樹に飾り付けをして、美味しいお菓子とご馳走でお祝いをするんですよ。元々は神様の誕生日をお祝いするものなんですけれど、ちょっとお祭みたいになってしまっているんですよ。それで楽しいだろうと思って、やりたいなあって思っていました」 「お祭気分ですか。あなたが楽しいのであれば、勿論、やっても構わないですが、この状態で大丈夫なのですか…?」 公瑾は心配しながら、花のお腹を何度も撫で付けてくる。 確かに今はお腹に子供がいるから、無理は出来ないけれども、それでもクリスマスを大好きなひとたちと過ごしたいと思う。 それに今回が、最初で最後のふたりだけのクリスマスなのだから。 花はその意味あいもあり、今年はロマンティックなクリスマスをしたいと思った。 愛するひとと過ごすクリスマスは、女の子の憧れでもあるのだから。 「公瑾さんと一緒に、クリスマスというお祝いをして過ごしたいです」 花が何も考えずに無邪気に言うと、公瑾はギュッと抱き締めてくる。 「しょうがないひとですね…。あなたは…」 公瑾は溜め息を吐きながら言うが、その腕には愛情が籠っている。 花がその手をギュッと握り締めると、公瑾は花を更に自分に引き寄せてくる。 「ずっと大好きなひとと過ごすクリスマスが私には夢だったんです。公瑾さんと過ごせるなんて嬉しいですよ」 「…花…」 公瑾の優しい声を聞いていると、花は心の奥が温かくなるのを感じた。 「…花…、そろそろ中にも入りましょうか…。このままだと本当に風邪を引いてしまいますからね」 「はい」 「あなたが風邪を引いたら大変です…。あなたひとりだけの躰ではないですから」 「そうですね…。赤ちゃんが寒いといって震えているかもしれませんぬ」 花がくすりと笑いながら言うと、公瑾は溜め息を大きく吐いた。 「ですから…、中に入りましょう。しょうがないですから、あなたと冷えたお腹の中の子供は、私が責任を持って温めますから」 「はい。お願いします」 花が素直に言うと、公瑾は微笑んで、花の手をしっかりと握ってくれた。 「…では行きましょう」 「はいっ!」 花が素直に返事をすると、公瑾は一瞬、恥ずかしそうにする。 「どうされたんですか?」 「…いいや、何でもありませんよ…」 公瑾が恥ずかしそうにするのは妙に可愛くて、花はつい笑顔になる。 「公瑾さん、本当にどうされたんですか?」 花が訊いてみると、いきなり抱き締められる。 そして公瑾は小さな声で囁く。 「…あなたには敵わないと思っていたんですよ…」 公瑾の満更でもない声に、花もまたくすりと笑う。 「…公瑾さん…、私もあなたには敵わないんですよ」 花は甘く呟くと、公瑾を抱き返した。 都督府でもクリスマスをすることになり、盆栽のような木に、花は布でオーナメントを作って飾る。 来年は家族が増えるから、もっと楽しいものになるだろう。 来年も子供と一緒にツリーもどきにオーナメントを飾ることが出来ますように。 そんな想いを込めて、花は丁寧に作った。 勿論、都督府にいる使用人なども手伝ってくれる。 だが余り職務に影響がないようにと、花は気遣った。 皆の協力のお陰で温かなオーナメントの数々が作られた。 星は勿論だが、公瑾人形に花人形、しかも生まれてくる子供のものまであり、花は感謝せずにはいられなかった。 花は温かい気持ちになりながら、仲の良い使用人たちとクリスマスツリーに飾り付ける。 仕事から帰ってくる公瑾をおどろかせたかった。 「完成!」 「きっとご主人様も喜ばれますよ」 「そうだと良いなあ」 花はつくづくそう思いながら、いつまでもツリーを眺めていた。 公瑾が帰ってきたと報告があり、花は直ぐに迎えにいった。 「公瑾さん!」 花は迎えにゆくなり、逸る心をどうすることも出来なくて、直ぐに公瑾の手を取った。 「何なんですか、あなたは…」 公瑾が怒るのも構わずに、かなではしっかりと手を握ったまま、クリスマスツリーの前に向かう。 「花、あなたはどうして…」 小言を言おうとして、公瑾はツリーを見て押し黙る。 「公瑾さんには、一番にお見せしたかったんです!」 花が笑顔で言うと、公瑾は呆れたとばかりの顔をする。 だが、次の瞬間、思い切り抱きすくめられた。 「あなたは全く…」 悪態を吐きながら、公瑾は花を抱き締め、そのまま唇を奪った。 キスの後、花は夢見心地の気分で、公瑾を見た。 「…公瑾さん、ご存じだったんですか? クリスマスツリーの前でキスをしたふたりは永遠に一緒だということを」 花の言葉に公瑾はふと笑みを浮かべる。 「だったら…まだまだしなければなりませんね」 公瑾はフッと柔らかな笑みを浮かべると、花にキスをする。 クリスマスの最高のキスがプレゼントになった。
|