*大みそか*


 いよいよ今年も最後の日を迎えた。

 やはりお正月が一番の行事ということもあり、誰もが忙しくしている。

 花も、都督の妻として、色々と準備をすることも多いのだ。

 公瑾の着物や、正月の城と都督府での宴の準備をしなければならない。

 だが、多くの使用人が手伝ってくれるから、バタバタと忙しいというわけではないのだが、気分的に忙しくなるのだ。

 花が正月準備の最終的な確認をしていると、公瑾がやってきた。

 都督という任務にいる以上、公瑾は花以上には忙しいというのに、こうしてきちんと花を気遣っていてくれる。

 その優しさが嬉しかった。

「花、準備は如何ですか?」

「後少しです」

「あなたには都督府を仕切って頂かなければなりませんから、しっかりとお願いしますよ」

 都督という立場からか、公瑾は厳しい口調で花に言う。

 以前から仕事に対してはかなり厳しいから、当然と言えば、当然なのだが。

「解りました。頑張りますね」

「あなたの仕事ですから」

「はい」

 クールにきつく言われると、流石の花も苦笑いを浮かべるしかない。

 だが、それは公瑾が期待してくれていることの裏返しなのだ。

 花はそれが解っているから、笑顔で頷いた。

「ではこの後も頑張って下さい。宜しくは何とかあなたと共に過ごせると思いますから」

「楽しみにしています」

 花が公瑾に笑顔を向けると、僅かに微笑んでくれた。

「公瑾さんもお仕事、しっかりと頑張って下さいね」

「はい」

 公瑾を見送った後、花は自分の仕事に集中する。

 公瑾の手助けに少しでもなればと思わずにはいられなかった。

 

 花の正月の段取りは終わったが、公瑾はまだ帰っては来ない。

 城でも様々な準備をしなければならないため仕方がないのだ。

 花は、自分の世界流の年越をするために、そばを打つことにした。

 そばと言っても、和そばではなく、所謂、中華そばというものだ。

 美味しいスープを作って、それで食べて欲しいと花は思った。

 肉や野菜も入れて、お腹がいっぱいになるようにする。

 久しぶりに公瑾の為に食事を作ることが出来るのは、花にとっては嬉しくてしょうがないことだった。

 食事の準備をして、後は公瑾が帰って来るのを待つ。

 やはり、美味しく温かな食事で迎えたいと花は思う。

 それだけ公瑾は仕事を頑張ってくれているのだから。

 花は公瑾が帰ってくるまでは、のんびりと待つことにした。

 本当の意味での年越しそばで構わなかった。

 

「ご主人様が戻られました!」

 都督府にこだまする嬉しい声に、花はいそいそと玄関に向かった。

 玄関に到着したタイミングで、公瑾が帰ってくる。

「おかえりなさい公瑾さん」

「ただいま、花」

 公瑾は今年の仕事が終わったとばかりに、ホッとした笑みを僅かに向けてくれる。

 その笑みが可愛かった。

「公瑾さん、私の故郷の年越し料理を作ります。召し上がりませんか?」

 花はドキドキしながら公瑾に訊いてみる。

 もし断られたら、料理人に食事を作って貰おうと思っていた。

「頂きましょう」

 公瑾がスムーズに頷いてくれたので、花はホッとした。

 ふたりだけでふたりの室に向かう。

「あなたが作って下さるのは嬉しいんですが、無理はされていませんか?」

 ふたりきりだからだろう。公瑾は優しく甘く訊いてくれた。

「大丈夫ですよ。下拵えは全部出来ていますから。後は温めるだけなんですよ。だから手間はかかりません。それに、公瑾さんにお料理を作るのが好きなんですよ」

 愛するひとに手料理を食べさせたい。

 花が心から思っていることだ。

「有り難うございます。余り無理をされませんように」

「大丈夫ですよ。有り難うございます」

 花は食事を温める為に、室から近い台所に向かう。

 簡単な食事なら作れる台所を、近くに作って貰ったのだ。

 花は手早く中華そばを茹でて、野菜と肉が入ったスープと合わせた。

 下拵えをしていたお陰で、料理は直ぐに終わった。

「公瑾さん、お待たせしました」

 花は温かな中華そばを公瑾に出す。

「有り難う、花」

 公瑾の前に年越しのそばを置く。

「私の世界では、年を越す時に、そばを食べるならわしがあるんです。いつまでも健康でいられるようにと、祈りながら食べるんですよ。そばを食べるとこの一年は健康でいられるんですよ」

「それは良い風習ですね」

 公瑾は静かに言うと、手を合わせて食事を始める。

 花もそばをしっかりと味わいながら、幸せな気分になる。

 幼い頃から、愛するひとと一緒に年越しそばを食べるのが夢だったのだ。

 美味しいそばに、花は我ながら笑顔になった。

「…まあまあ悪くはないのではないですか?」

「有り難うございます」

 まあまあ悪くない。

 それが褒め言葉であることは、花には解っている。

「毎年、これからもずっとこうして年越しそばを食べられたら良いですね」

「ふたりきりなのは今年だけでしょうが、家族が増えても、こういう時間を取ることが出来たら良いですね」

「はい」

 ふたりきりもロマンティックで素敵ではあるが、家族とわいわいと仲良くやるのもまた悪くない。

 温かなひとときを家族と過ごすことが出来るのは、本当に幸せなことなのだ。

 食事を終えて片付けると、公瑾がしっかりと抱き締めてくれた。

「今日は色々と有り難うございました。あなたとこうしてのんびりと過ごしているだけでも嬉しいですよ」

「…私も嬉しいですよ」

 花がはにかみながら公瑾を見ると、唇を重ねてきた。

 公瑾のキスは魔法だ。

 花はキスに酔い痴れながら、公瑾をしっかりと抱き締める。

「…年越しの瞬間は、やはりあなたと幸せに過ごしたいものですから」

「私もですよ」

 来たる幸せを感じながら花が呟くと、公瑾は花を抱き上げた。

「新年を迎える瞬間はあなたの一番近いところにいたいですから」

 公瑾は掠る程に甘く官能的な声で囁くと、花を寝台へと導いてゆく。

 緊張と同時に満たされた気持ちが心を満たしてくる。

 花は幸せで呼吸出来なくなる。

 寝台に寝かされると、そのまま愛に総てを任せて行く。

 幸せでしょうがなかった。

 

 愛し合った後、ふたりは気怠くも満たされた幸せに漂いながら、しっかりと抱き合っていた。

「…あなたとこうして一緒に過ごせると思うだけで、私は嬉しいです…。今年は最高の年越しですね」

 公瑾は甘く囁きながら、花の頬を撫でる。

「正月は何かと忙しいですから、あなたにはいつも以上の苦労をお掛けすることになりますが、一日だけあなたとずっと一緒にいられる時間が取れますから、その時はあなたのご希望にそいましょう」

「…私は公瑾さんと一緒にいたいだけですよ…。ふたりきりでのんびりとしたいんです」

「解りました…。私もそう思っていました。ですが、あなたは、わがままを言っても構わないんですよ?」

「それが私のわがままですから」

 花が笑顔で言うと、公瑾は思い切り抱き締めてきた。

「…間も無く年が変わるようです…。…公瑾さん」

「そうですね…。あなたの世界ではそうなのですね。では改めて、去年はお世話になりました。あなたがいたから素晴らしい年になりましたよ。今年も宜しくお願いします」

「私こそ、公瑾さんがいたからこそ素晴らしい年になりました。有り難うございます。あけましておめでとうございます。今年もこれからもずっと宜しくお願いします」

「…花…」

 公瑾と花は唇を重ね合わせる。

 ずっと宜しくの想いを込めて。

 



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