丞相の妻として何が出来るのだろうか。 花は常に考え手しまう。 今、自分で出来ることと言えば、そんなにも多くはない。 孟徳にリラックス出来る、安らかな空間を用意してあげることぐらいだ。 だから、いつでもリラックスして貰う為に、花は、孟徳の帰りが遅くなってしまった時にも、せめてきちんと挨拶をしようと思っている。 おかえりなさいの挨拶は、基本の中の基本だ。 花は、毎晩のように忙しくしている孟徳を出迎えて、その笑顔を貰うことをいつでも楽しみにしている。 そんなチャンスがあるというのに、ひとりで眠るのは勿体ないとすら思った。 だからこうして、遅くても起きているのだ。 それが楽しみでもあった。 随分と仕事が立て込んでいて、忙しい日々を送っている。 ギリギリまで忙しくなると、忙しいことすら気付かなくなる。 それぐらいの多忙さだった。 ヘトヘトになるまでしっかりと仕事をした後、孟徳はようやく執務室を後にした。 花が待っている自室に戻るのが待遠しい。 花が出迎えてくれるのが、何よりものエネルギーになるのだから。 花と一緒に過ごす僅かな時間こそが、孟徳の最も大切な時間だ。 早く花に逢いたい。 孟徳は足早に家路に急いだ。 花は、仕事で疲れているだろう孟徳の為に、軽い食事を用意している。 丞相府で働く人々に訊いてきたとっておきのレシピで、花は一生懸命用意したのだ。 料理はそんなに得意なほうではないのだが、孟徳にだけは何とかしたかった。 孟徳に手料理を食べて貰い、リラックスして貰うことが、花が出来ることのひとつだと思うのだ。 ふと孟徳が帰ってくる気配を感じた。 孟徳が帰ってくる雰囲気には、直ぐに反応してしまう。 愛するひとだからこそ分かるのだろうと、花は常々思っていた。 花は孟徳を出迎える為に、部屋の扉の前に立った。 大好きなひとを出迎えることが出来るなんて、こんなに幸せなことはない。 扉が開く。 その瞬間は本当に嬉しいものだ。 花は笑顔で孟徳を迎えた。 「おかえりなさい!」 花が出迎えると、孟徳は少し驚いたような甘い笑顔を向ける。 それが花にはとても嬉しかった。 「ただいま、花」 「おかえりなさい、孟徳さん!」 花がもう一度言うと、孟徳は本当に嬉しそうに笑みを浮かべた。 「本当にいつも有り難う」 孟徳は花をギュッと抱き締めてくる。 その抱擁が力強くて、甘さを運んでくれる。 花は嬉しくて、甘く微笑んだ。 「花、ただいま」 もう一度甘く囁いた後、孟徳は花に甘い甘いキスをする。 蕩けるようなキスに、花は溺れてしまいそうだった。 ロマンティックな想いをさせてくれる孟徳が、花にとっては最高の相手だ。 「起きていてくれて、有り難う、花。いつも待ってくれていると思うから、俺は安心して仕事が出来るんだよ」 「それは嬉しいですよ。孟徳さんがお仕事を一生懸命して下さることが、私には何よりも嬉しいことですから」 花はにっこりと微笑むと、孟徳に抱き着いた。 「孟徳さん、軽い夜食を作りました。お腹が空き過ぎると眠れないでしょう?」 「有り難う、花」 孟徳は花の額に甘いキスをくれた後、まるで少年のように可愛く笑った。 孟徳は名残惜しそうに花から抱擁を解くと、食卓へと向かった。 「こうして君が可愛いから、夜は可愛がってしまうんだ」 孟徳の言葉が甘過ぎて、花は思わず真っ赤になってしまう。 孟徳を見つめているだけで、花は幸せな気分になった。 花がこうしていつでも自分を癒してくれる。 花が待ってくれている。 それだけで孟徳がどれほど癒されて、どれほど幸せなのか、花は知らないかもしれない。 孟徳にとっては、今や花が総ての原動力になっていた。 ずっと独り占め出来ることがどれほど幸せかを、花は知らないだろう。 花とふたりきりの時間がこれからどれぐらい持てるかは分からない。 予感ではあるが、花が子供たちを次々と身籠もるのは、時間の問題だろうから。 それはそれで嬉しいことではあるのだが。 「孟徳さん、消化の良い野菜スープですよ。料理人の方に教わったんです」 「料理人に作らせても良かったのに」 「いいえ。孟徳さんへのお料理だから、たまには私で作りたかったんです。いつも作って貰ってばかりだから…」 花は幸せを滲ませながら呟く。 本当に可愛い。 こんなにも可愛い女性は他にはいないのではないかと、孟徳は思わずにはいられない。 信頼することが出来る上に、最高に可愛い女性。 こんなにも愛せる女性に出会ったことはないと、孟徳は思った。 「…花、有り難う」 このまま思い切り抱き締めて寝台に連れ込みたい。 間も無くそうするつもりではあるが、せめて野菜スープを食べてからにしようと、孟徳は思った。 これほどまでに誰かを求めたのは、花が初めてだ。 花とならば気兼ねなく一緒に眠ることすら出来るのだ。 今までなら横に女性がいると、しっかりと眠ることは出来なかったというのに。 花が作ってくれた野菜スープは、真心が入っているからか、本当に美味しかった。 これならばぐっすりと眠ることが出来る。 最も、花を愛するつもりでいるから、このまま眠るなんて気はさらさらないのではあるが。 「…花…」 孟徳は愛する女性の名前を甘く囁く。 すると花は飛び切りの幸せそうな表情を浮かべる。 「美味しいよ、有り難う」 孟徳の言葉に、花はまるで子供のように愛らしく笑った。 孟徳が美味しそうに野菜スープを食べてくれていることが、花には何よりも嬉しかった。 しかも「美味しい」と言ってくれたのだから、余計に嬉しかった。 「孟徳さん、しっかり召し上がって下さいね」 「うん、有り難う。花、味見をしてみる? 本当に美味しいから」 「はい。では少しだけ」 「あーん」 孟徳はまるで母親のように蓮華を花の口許に持ってくる。 少し恥ずかしかったけれども、花は口を開けた。 「あ、本当に美味しい」 味見をした時よりも美味しいと感じるのは、孟徳と一緒に食べているからだろう。 それは確実だ。 ふたりでスープを食べていると、あっという間になくなってしまった。 「美味しかったよ、ご馳走さま」 「私も美味しかったです」 花は手早く食卓を片付ける。 片付けた後、室に戻ると、いきなり孟徳に背後から抱き締められた。 「捕まえた」 「…孟徳さん」 恥ずかしさと幸せで、花はつい笑顔になる。 「君をまだ充分に感じていないからね。寝台でゆっくりと堪能させて貰うよ」 孟徳の甘い囁きには、花も逆らうことは出来ない。 花はロマンティックな甘さを堪能しながら、そっと頷く。 すると孟徳は花を軽々と抱き上げて、寝台へと連れていってくれた。 新婚だからこうした甘い時間を過ごすことが出来るが、子供が出来れば、甘い時間は少なくなるかもしれない。 それでも花は、甘くて幸せな時間を、孟徳とずっと分かち合ってゆきたいと思った。 愛し合った後、孟徳は腕の中で眠る花を愛しく見つめる。 本当に幸せだ。 幸せでしょうがない。 花がいるからこそ、いつも幸せな気持ちになれるのだ。 孟徳は愛しい花を思い切り抱きすくめる。 永遠に花とこうしていられる権利を手に入れられたことを幸せに思いながら、孟徳は眠りにつく。 最高に幸せだと感じながら。 |