孟徳との愛を育んだ結果の命が、花のお腹に宿っていると分かってから暫くして、随分とお腹が大きくなってきた。 孟徳からは様々な漢服をプレゼントして貰ったのだが、流石に、お腹がここまで大きくなってくると、入らなくなる。 それを見た孟徳が、話を持ち掛けてきてくれた。 「花、随分とお腹が目立ってきたね」 孟徳は幸せそうに言いながら、花の突出たお腹を撫でている。 花の世界のように、産まれる前から大まかな性別が分かるわけではないから、どちらかはまだ解らない。 周りの人々は、花の大きく突出たお腹を見て、男の子だと言うひとが少なくない。 確かに花も何となくではあるのだが、そんな感じがするのだ。 男の子かもしれないと。 「随分とお腹の子どもが育ってきたからね、もうそろそろ、この服はキツくなっているんじゃないか?」 孟徳は花の様子をじっくりと見ながら、お腹を撫でている。 「そうですね。これ以上大きくなるとかなりキツくなってくるかもしれないですね」 「そうだな……。何だか、これからどんどんと大きくなっていくんじゃないか?」 「そうかもしれませんね」 花は流石に突出たお腹を自分で見つめながら、苦笑いをした。 「だったら新しい反物を仕立てなければならないね。俺は必要だと思っているよ」 「確かにそうなんですけれど……、何だか勿体ない気がするんですけれど……」 花が遠慮がちに言うと、孟徳はほんのりとムッとした表情になる。 いつも気を遣うと、孟徳は怒るのだ。 だが、それは花にとっては必要なことだと思っているのだ。 「花、これは必要なことなんだから、きちんとしよう。君は丞相の妻なんだからね。そんなことは気にしないようにするんだよ」 「はい。解りました」 孟徳は懇々と花に言い聞かせてくる。こうして甘やかされると、嬉しい反面、このまま甘やかしに溺れてしまう自分が怖いと、花はつい思ってしまう。 「君はいつも遠慮をし過ぎるよ。そんなところを君の美点だとは思っているけれど、だけど、俺は君にだけは甘えて貰いたいって思っているから、それだけは忘れないで欲しいんだ」 「はい、有り難うございます」 「だから、新しい服を作ろう。妊娠期間中に、君が困らないようにね」 「有り難うございます」 「それに勿体なくはないでしょ? これが最後じゃないし、これからも使えるからね。何度も」 孟徳は花を見つめて、にっこりと微笑む。 何だか幸せで恥ずかしくなる。 「そうですね」 花はついはにかんだ笑みを向けてしまう。 そうなのだ。 まだ今は一人目であるから、これからはどんどん子どもが増えてゆくかもしれない。 恐らくはそうだろう。 花はくすぐったい幸せに、つい笑顔を綻ばせた。 「じゃあ決まりだね。反物の業者に来て貰うから、好みの生地を選んで作ろう。一着だけで良いとかは思わないこと。これからはずっと使う物だからね。日常的に着て貰いたいから、ちゃんと何着も作るんだよ。まあ、十着ぐらいは、最低でも必要になると思うから」 十着も服を作るなんて、花には全く考えられない。 妊婦用の漢服がそんなにも必要になるとは、考えられなかった。 「それって多くないですか?」 「えー? 十着が? たった十着じゃない。本当に遠慮しなくても良いから。反物業者にはー最低でも十着は選ばせるようにと言っておくから、そのつもりで」 孟徳は一度言うと、がんとして聞かないところがある。 花はしょうがなく頷くしかなかった。 「うん。君が更に綺麗になるか俺も楽しみにしているから」 「はい、孟徳さん」 花の言葉に、孟徳はにっこりと笑った。 反物業者が、仰々しくもいそいそと丞相府にやってきた。 今や国を牛耳る丞相の一のひとと言われている花に着物を仕立てるとあって、何だか誇らしげであるのと同時に、何処か緊張していた。 「これはこれは奥様、美しい反物を持って参りましたよ。ゆっくりと吟味下さいませ」 「有り難うございます」 仕立も物も良い反物屋だと聞いているので、色々と目移りしてしまう。 本当に綺麗なものばかりだ。 どの生地を選んでも、確実に綺麗で素敵なものになることは解っているから、花は迷ってしまった。 「奥様、どれも気に入りませんか?」 反物屋の主人が心配そうに尋ねてくるものだから、花は首を横に振った。 「どれも素敵過ぎて選ぶのに困ってしまうんですよ。どれを選んでも素敵なものになることが解っているので、迷ってしまっているんです」 「左様でございますか」 主人はホッとしたような笑顔になる。 薄いブルーと白のグラデーションが綺麗な生地を手に取る。薄い桜色と白のグラデーションもとても美しい。 花はこの二つは確保をしておく。 本当に綺麗な生地で、この生地で作った服を着たらさぞかし美しいだろうと、花は思った。 「花、生地を選んでいたのか?」 ひょっこりと孟徳が現われて、そこにいる誰もが緊張するのが解る。 やはり、天下の丞相であるから仕方がないと言えばそうなのだが。 「気に入った物はあったかい?」 「はい。この二つは本当に綺麗です」 花は嬉しさを滲ませながら、孟徳に言う。 「二つだけ?」 孟徳が拍子抜けしたように言うと、反物業者が蒼白になって慌てている。 やはり、孟徳は時の権力者なのだということを、花は感じずにはいられない。 「どれも綺麗で素敵で迷ってしまうんですよ。本当に……。どの生地で作っても、綺麗で素敵な漢服が出来上がるのは決まっていますから。だから好みの色を選んだ後は難しくて……。孟徳さんは、どの反物が私に似合うと思いますか?」 急に話を振られて、孟徳は驚いてしまったようだが、直ぐに笑顔になった。 「そうだな……。君は可憐で清らかな感じがするから、この淡い緑色の反物も似合うと思うよ。後、俺はこの真紅に金の刺繍が入ったこの生地を使った漢服を着て貰いたいね。俺としたら」 「有り難うございます。では、これも追加しますね。孟徳さんのお見立てだから、きっと素敵なものに仕上がりますよ。着るのがとても楽しみです」 花が笑顔で言うと、孟徳もまた楽しみとばかりに笑顔になった。 「そうだね。俺もとっても楽しみだよ」 「はい」 孟徳はすっかり嬉しそうな顔で、反物を花と一緒に見ている。 「この翡翠の色をした反物も君には似合いそうだよ。きっとお腹の子どもも喜ぶと思うよ」 翡翠の豪華な反物を選んで、かなり華やいだものになった。 刺繍を施された甘い桜色の反物も加えて、様々な漢服が出来そうだ。 トータルで結局はきちんと十着を作ることになった。 業者は最初はかなり緊張していたが、最後はホクホク顔で帰っていった。 「孟徳さん、有り難うございました。これでゆったりとのんびりと、服が着られます」 夫からの素晴らしき贈り物に、花はつい笑顔を向ける。 「俺は君に喜んで貰いたい。それだけだよ」 「有り難うございます。素敵な贈り物でした」 「礼を言うのは、まだまだ早いからね。出来たところでまた見せてくれたら良いから」 「有り難うございます」 花が笑顔で言うと、孟徳はいきなり抱き寄せてきた。 「これからも、俺の前では、綺麗でいてくれ……」 「はい」 花がしっかりと返事をすると、孟徳はキスをゆっくりとしてくれた。 甘いキス。 今度は美しい着物を着ながらとっておきのキスが出来ると思った。
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