いよいよ今年も最後の日を迎えた。 やはりお正月が一番の行事ということもあり、誰もが忙しくしている。 花も、丞相である孟徳の妻として、色々と準備をすることも多いのだ。 孟徳の着物や、宴の準備、丞相府全体の正月準備までをしなければならない。 だが、多くの女官が手伝ってくれるから、バタバタと忙しいというわけではないのだが、気分的に忙しくなるのだ。 花が正月準備の最終的なチェックをしていると、孟徳がやってきた。 花以上に丞相である孟徳は忙しいというのに、こうしてきちんと花を気遣っていてくれる。 その優しさが嬉しかった。 「花、準備の様子はどうかな? 余り無理はしないようにね。君が心配だからね」 孟徳は相変わらずの過保護ぶりを発揮してくれている。 有り難いが、やはり丞相の妻としても、かつての軍師としても、仕事はしっかりとやりたいと思っている。 「無理はしていないですから大丈夫ですよ。皆さんが沢山手伝って下さるのでとても助かっているんですよ」 花は、丞相府にいる女官には本当に感謝をしている。きめ細かいところまでしっかりと助けてくれるからだ。 「だったら良いけれど、くれぐれも無理をしてはダメだよ。本当に…。君はひとりの躰ではないんだし、それに、本来、奥方はそこまではしなくても良いんだよ?」 孟徳は心配そうに言うと、花の頬を優しく撫でてくれた。 「皆さんが物凄く頑張って下さっているのに、私だけがのほほんとしているわけにはいかないですよ。少しでも皆さんや孟徳さんの力になりたいと思っていますから」 本当にいつも女官たちには感謝をしている。 花の至らぬ点を一生懸命サポートしてくれているのだから。 特に来年は出産も控えているために、沢山助けて貰っているのだから。 「…ホント、君みたいな女の子は初めてだよ。だからかな、君は、本当にここにいる者たち誰もが慕っている」 孟徳はフッと誇らしげに微笑んでくれた。 「俺も仕事が終わったら直ぐに帰って来るから、それまで、待っていてくれる? 明日からは挨拶だとかで色々とあるから、今夜のうちにゆっくりとしておこう」 「はい」 孟徳はもう一度名残惜しいてばかりに、花の頬を撫でた後、部屋から出ていった。 花は孟徳を見送りながら、幸せな気分に浸る。 今夜は孟徳に年越しそばを用意して待っていよう。 花の世界の年越しを、一緒にしたかった。 仕事に一段落つけた後、花はそばを打つ。 そばと言っても、所謂和そばではなく、中華そばというやつだ。 汁には肉と野菜をしっかりと入れて、栄養が取れるように考えた。 いつも手料理を笑顔で食べてくれる孟徳の為に、花は一生懸命、料理をしてあげたいと思った。 中華そばの準備が終わった後は、孟徳が帰って来るのを待つ。 本当に毎晩帰って来てくれるのが、花には嬉しかった。 「ただいま、花」 孟徳が帰ってきて、花は笑顔で出迎える。 「孟徳さん、お仕事、ご苦労様でした」 「うん、有り難う、花」 「食事を作りますから待っていて下さいね。私の世界で年越しに食べるものなんですよ」 「そうなんだ。花の手料理は何でも楽しみだよ」 「有り難うございます。直ぐに用意をしますね」 「うん、有り難う」 花は手早く年越しそばの準備をする。 スープを温めて、麺を茹でるだけだから、もう至って簡単なのではあるが。 「お待たせしました」 花が食卓に年越しそばを置くと、孟徳の瞳が期待に輝いた。 「美味しそうだね。本当に楽しみだ」 「どうぞ召し上がって下さい」 「うん。頂きます」 孟徳は夢中になって中華そばを食べてくれる。 毎回、料理をする度に、孟徳が素直な反応をしてくれるものだから、花は張り合いがある。 「美味しいね! 沢山、食べられそうだよ!」 「これは年越しそばといって、大みそかに必ず食べるものなんですよ。来年一年の健康と幸運を祈って食べるんですよ」 「へえ…。じゃあ、来年も俺たちは健康で幸せだということだね。それはとてま嬉しいかな」 孟徳は嬉しそうに笑顔になってくれる。それがまた嬉しかった。 「花、来年もその先もずっとこうやって過ごそう。子供が沢山出来てもずっとね」 「はい、嬉しいです」 「うん」 ふたりでこうして年越しそばを食べるのが幸せ。 ずっと大好きなひとと一緒に年越しそばを食べるのが、花の夢だったからだ。 こうして叶えられたのは嬉しい。 「花、ご馳走さま。本当に美味しかったよ」 「嬉しいです」 花もお腹がいっぱいになってついほっこりとしてしまう。 「こうして孟徳さんと一緒に、年越しの夜を過ごせるのが嬉しいですよ」 「俺も。本当は正月もふたりきりでずっとのんびりしたいところだけれど、挨拶と称した陳情が色々とあるからね…」 孟徳はほんのりと疲れたように溜め息を吐く。 「だけど、少しだけはいつもよりも時間は取れるから、その時はゆっくりしよう」 「はい、有り難うございます。楽しみにしていますね」 「うん。俺の方がいっぱい楽しみだったりするんだけれどね」 「私もいっぱい楽しみですから」 花が笑顔で孟徳を見ると、いきなりギュッと抱き締められる。 「…だから…たっぷり堪能させて貰うよ」 孟徳は蜂蜜よりも甘く囁きながら、花を軽々と抱き上げる。 「明日からの忙しさに備えて、君をじっくりと堪能したい…。折角、こんなにのんびりと出来るんだからね」 孟徳はまるで宝物を見つけた少年のような顔をすると、花を寝台に横たえる。 そこからは甘くて幸せな時間が流れたのは、言うまでもなかった。 愛し合った後、ふたりは気怠い幸せに酔い痴れる。 「…本当にこうしているだけで幸せだ。来年も、これからもずっと、君とは一緒にいたいと思っているよ…」 「私もずっと一緒にいたいです。ですが、もう少しだけお手やわらかに」 花が笑うと、孟徳は苦笑いを浮かべた。 「いつも無理させないようにって思っているけれど、こればかりは無理をさせてしまっているね。いつもごめんって思っているよ」 孟徳が済まなさそうに言うのが可愛くて、花は思わず柔らかく抱き締める。 「私も孟徳さんとこうしているだけで幸せですよ。ほんの少しだけ長く寝かせて頂けると嬉しいですけれど」 花が小さな願い事を言うと、孟徳は額に口づけてきた。 「君が可愛い過ぎるからだよ」 孟徳は悪びれることなく言うと、苦笑いをした。 「私の世界では深夜に日にちが変わるんです。だから間も無く新年ですよ」 「そうなんだ…」 「大好きなひととこうして新年の瞬間を一緒に迎えることが出来るのが、夢だったんです。だから今はとても嬉しいです。そして、とても幸せです」 花は夢にまで見た瞬間に、本当にこうして孟徳と一緒にいるのは夢なのではないかと思わずにはいられなかった。 「あけましておめでとうございます、孟徳さん。去年は有り難うございました。今年もこの先もずっと一緒にいて下さいね。宜しくお願いします」 「うん」 孟徳は当たり前だとばかりに力強く頷いてくれた。 「では俺も」 孟徳は畏まると、花を真直ぐ見つめてくれる。 「花、去年はどうも有り難う。今年もこの先もずっとそばにいて。今年もこれからもずっと宜しく」 「はい。こちらこそ、宜しくお願いします」 「うん」 ふたりは微笑み合うと、そのまましっかりと抱き合う。 これからもずっと幸せ。 |