夜は大好きで、大嫌いだ。 美しい夜空を見上げるのはとてもロマンティックだけれども、同時に、闇の恐さも感じる。 闇の孤独と呑まれてしまうのではないかと思う底なしの恐怖。 それと同時に、闇の優しさも感じるのだ。 総てを優しく包み込んでくれるような大きな安堵が、疲れを取ってくれる。 特に大好きなひとと一緒に眠る幸せは、言葉では表すことが出来ないぐらいに幸せで、ロマンティックな気分になれる。 これ以上ないぐらいに幸せな気持ちでいられるのだ。 愛するひとの温もりを躰で受け取りながら眠る幸せ。 満ち足りていて幸せで堪らない眠り。 こんなにも満たされていたら、安心して眠ることが出来る筈なのに、眠れない夜もある。 愛するひとだけが眠っていて、自分だけが眠れない夜は、特に切なくて堪らなくなる。 泣きたくなるぐらいの孤独と切なさで、不安になって満たされない時間が続く。 そうすると余計に眠れなくなってしまう。 どうか。 どうか、愛するひとが、目覚めて、物語や子守歌を紡いでくれたら良いのにと思わずにはいられなくなる。 郁のマンションで、シングルベッドで並んで眠る。 とても温かくて心地好い瞬間だ。 月子は郁に寄り添いながら眠っていたのだが、不意に目が覚めてしまった。 眠たくて直ぐに眠れる目覚めではなくて、完全に目覚めてしまった。 横には郁があどけない顔をして眠っている。 可愛くて整っている顔立ちだ。 月子はついうっとりと見つめてしまう。 普段は伊達眼鏡をしている郁だが、こうして眠りにつくと、信じられないぐらいに子どもっぽくて可愛い。 無防備過ぎて、月子はつい笑顔になってしまう。 「……可愛い……」 郁の寝顔を見つめていられるのであれば、眠れないのも悪くはない。 月子はそんなことを思いながら、じっと大好きなひとの寝顔を見つめていた。 「……んっ……」 郁の瞼が優しく震える。 するとゆっくりと、整った瞳が開けられた。 「……月子……。どうしたの、お姫様……」 郁は眠たそうな声ではあるが、さり気なく心配してくれている。 「少し眠れなくて……」 月子が苦笑いを浮かべながら素直に言うと、郁は眠そうに何度か瞬きをしながらも、月子を見る。 「郁は眠いでしょう? 眠っても良いよ」 「そういうわけにはいかないんだよ」 郁は軽く人差し指で月子の額を小突いた。 「どうして?」 「僕の子猫ちゃんが眠れなくなるのは困るからね」 郁はそう言うと、月子の手をしっかりと握り締めてくれた。 「僕のお姫様が困っているなら、一緒になってどうにかするものでしょ?」 郁はほんのりと意地悪口調で言うが、とても優しい雰囲気ではあった。 「……だから、一緒に眠れる方向を考えようか」 郁は月子をしっかりと腕の中に引き寄せて、額にキスをしてくれた。 「郁は眠れない夜はどうしているの?」 「そうだね……。眠れないことを考えないようにしているよ。……昔は、よく姉さんに手をしっかりと手を繋いで貰っていると、よく眠れたよ」 「そうですか。私もやっぱり、眠れない時はお母さんにしっかりと手を握って貰っていましたよ。とても優しくて温かな手でした」 月子は思い出すだけで、幸せな気持ちになる。 「だったら一緒に手を繋ごうよ。そうしたら君も眠れるかもしれないでしょう?」 「はい」 こうして郁の手にしっかりと包み込まれると、幸せ過ぎてつい笑顔になった。 「こうしているだけで安心します。郁の手に包まれているだけで気持ちが良いし」 「それは良かったよ」 郁は、月子を見守るように手を繋いでくれる。 しっかりと繋がれた手は、郁としっかりと繋がっていることを感じさせてくれる。 郁は繋いだ手を布団から出して、ふたりの視線の中にいれる。 お互いに顔を見合わせて笑う。 「こうしていると幸せで、ずっと笑っていたいって思っちゃう!」 「そうだね。そうしたら、やっぱり眠れなくなるよね」 「そうですね」 ふたりは更に手をしっかりと握り締めて、笑ってしまう。 「…好きだよ、月子」 「私も大好きだよ。郁」 くすりと笑って、この幸せを堪能せずにはいられない。 「こうしていると眠れる?」 「眠れない」 「だったら、日本昔話をしようか」 「眠れない」 「だったら、何をしたら良いの?」 「どうしたら眠れるのかなあ。郁は解る?」 「解らないよ。そんなこと」 郁は苦笑いを浮かべながら呟く。 「そっか……。郁のそばにいてくれて、こうして手を繋いでいるだけで幸せで安心するんだけれど、ドキドキして……。安心しているのに興奮してしまうのって、幸せだけれど、眠れないなあ……」 「何可愛いことを言ってるの」 郁は苦笑いを浮かべながら、月子を更に近くに引き寄せてきた。 「明日、休みだから、今夜ぐらい眠れなくても大丈夫かな。だったらふたりで眠らないでおくのも良いかもね。イジワルしながら、ふざけながら」 「イジワルは余計だよ」 「イジワルは素敵でしょ。…ま、君、限定だけれどね」 郁はフッと笑いながら、月子をギュッと抱き締めてくる。 その抱擁の強さに、月子の心臓は暴れてどうしようもなくなる。 「……ね、月子。君、かなりドキドキしているよね? 心臓が爆発してしまわないか心配だね」 郁は月子の耳下の脈を取りながら、くすくすと笑っている。 「……月子……。もう、しなくちゃ眠れないみたいだね?」 こちらがドキリとしてしまうようなことをさらりと言ったかと思うと、郁は月子を組み敷いてきた。 「い、郁!?」 「疲れ果てたら眠れるようになるよ」 「だって、そ、そのっ」 月子が戸惑っているのに、そんなことは認めないとばかりに、郁は唇を塞いできた。 月子の欲望と情熱を呼び覚ますように、郁は丁寧かつ情熱的にキスをしてくる。 息が出来なくなるぐらいに何度もキスをされて、月子はくらくらしてしまう。 息が出来なくてもキスが欲しいだなんて、そんなことを思ってしまう。 キスを何度も繰り返すと、眠れなくても構わないだなんて思ってしまう。 それぐらいに郁のキスは威力があった。 何度もキスをした後、郁はイタズラな瞳を向けて来る。 「月子、たっぷりイジメて可愛がってあげるよ……」 郁は静かに呟くと、月子を愛し始めた。 翌朝、月子は幸せな気持ちの中、目覚めた。 隣を見ると、月子に腕枕をしながらすやすやと眠る郁がいる。 その顔を見ているだけで、つい笑顔になってしまう。 本当に幸せだ。 あどけなくて、そしてとても綺麗な郁の寝顔を、ずっと見つめていても、全く飽きることがない。 月子は見つめているだけで、幸せ過ぎるとすら感じた。 本当に綺麗だ。 郁のことは、その硝子のように傷つき易くて、優しい心が大好きだ。 彼の表情にはそれが感じられて、幸せだ。 僅かに郁の瞼が動く。 もうすぐ目覚めるだろう。 郁の瞼がゆっくりと開くのを待っている。 郁が綺麗な瞳を緩やかに開けた。 「……おはよう……、お姫様。お姫様になら、こうやって……寝顔を見られていても、構わないか……」 郁は静かに呟くと、月子を抱き寄せる。 「あ、あのっ!? 郁っ…!?」 「月子、そんなに恥ずかしそうな顔をしないの。余計に苛めたくなってしまうよ」 郁はそう言うと、甘く微笑む。 キスをすると、郁は蕩けるような笑みを浮かべると、月子を見た。 「今日も楽しもう」 |