*卒業式*


 月子もとうとう星月学園を卒業する。

 星を見るのが大好きで、ずっと星に関する仕事に就きたいと思ってきた。

 その夢を叶える為の第一歩がこの場所だった。

 夢は叶える為に夢見るものであるということを、教えてくれたのもここだった。

 夢いっぱいで入学してきた学園を、更に大きな夢を抱いて卒業をする。

 こんなに素晴らしいことはないと、月子は思わずにはいられない。

 また、星月学園に来て、かけがえのないものを知った。

 それはひとを信じて、心から愛するということだ。

 学園では本当の意味でかけがえのないひとと出会えた。

 きっと生涯で最も素晴らしい出会いの一つだと月子は思っている。

 ひねくれていて、イジワルなのに優しくて、大人なのに妙に子どもっぽいひとと出会った。

 月子が大好きで堪らないひとだ。

 そのひとは、月子とは入れ違いで星月学園の教師としてやってくる。

 教生と生徒として接して恋をしたひとは、教師となって戻って来るのだ。

 本当は、生徒として教師になった郁の授業を受けてみたかったけれど、それは贅沢というものだろう。

 今日の卒業式には、大好きなひとも来てくれていた。

 教生として教えた初めての生徒たちの門出を見守る為に。

 月子もまた、郁にとっては初めての生徒なのだから。

「わ! 郁ちゃん先生だ!」

 郁の姿を見つけるなり、3年天文科の生徒たちは突撃してゆく。

「君達いきなりだね」

 郁は苦笑いをしながらも、満更でもなさそうだった。

「郁ちゃん、星月学園の先生になるんだってね。俺たち、直獅が担任で、郁ちゃんが副担任なら良かったのにって思っているんだから」

「有り難う」

 郁はいつものような笑顔にはなっているが、きっと感きわまっているのだろう。

 それは月子もよく解る。

 今はクラスメイトたちが郁との会話を楽しんでいるのを見守っていよう。

 いつでも話せるし、そばにもいられるのだからと、月子は思わずにはいられない。

 笑顔で見守っていると、郁と視線が絡んだ。

「あ、郁ちゃん、花束持って来たんだ! 直獅にでもあげるの? それとも俺たち?」

 郁を慕っていたクラスメイトたちが、笑顔で迫っているのがとても楽しい。

 年上のさり気なく頼れる相談相手であり、先生としても勿論、慕っていたのだ。

 ここにいる誰もが。

 きっと、クラスメイト全員が、郁の仮面の奥に隠れた本質を見抜いていたのだろうと、思う。

 だからこんなにも慕われているのだ。

 元教生ではなく、ひとりの立派な教生として。

「君達には、これから女の子たちがいる世界に行くからエチケットが大切だからね。プレゼントはマウスウォッシュ。ひとりずつあるからさ、使って男を磨きなよ」

 郁らしい言い方とプレゼントに、誰もが嬉しそうに笑っている。

 月子も嬉しくてしょうがない。

「だったらこの花束は?」

「決まっているでしょ? 僕たちのたったひとりのお姫様にだよ」

 郁は笑顔で言うと、紙袋から花束を取り出す。

「どうぞ、星月学園のお姫様」

 郁は花束を月子に差し出してくれる。

 まるで王子様のようだ。

 清々しい美しさを持つ白い薔薇の花束だった。

 花束の美しさと高貴な香りに、月子は泣きそうになった。

「有り難う……、水嶋先生……」

 いつものように『郁』と呼ぶことが出来ないのが切ないけれども、月子は幸せな気持ちになった。

「よく頑張ったね。女の子ひとりで。卒業おめでとう」

 郁の言葉に、先ほどまで堪えていた涙が止めどなく溢れてきた。

「有り難う……」

 大好きなひとに『おめでとう』と言われるのは、なんて嬉しいことなのだろうかと、月子は思った。

 こんなに素敵なことはない。

「ほら、折角の門出だよ? 月子ちゃんは泣かないの」

 郁はフッと困ったように笑うと、月子の涙を拭ってくれた。

「大丈夫です」

 月子は泣き笑いを浮かべながら、郁を真っ直ぐ見た。

 瞳の奥には、月子への愛情が感じられる。

 大好きなひとに心から祝って貰って、月子は嬉しくてしょうがない。

「なあ、郁ちゃんと、直獅、それに星月先生も入れてクラス写真を取ろうよ!」

「それ、賛成!」

 全員一致で皆でクラス写真を撮る。

 月子の横にはさり気なく郁がいる。

 こうしてクラス皆で笑顔で迎えられた卒業式を、一生忘れることはないと、月子は思った。

 3年間ずっとクラスメイトだった大切な天文科の仲間たち。

 誰もが月子のナイトでいてくれた。

 それはとても感謝することであるのと同時に、誇らしいことだった。

 結束がかなり硬かった天文科のメンバーと離れてしまうのは辛いけれども、同時に最高の想い出をくれた。

 本当に最高だったと、月子は思わずにはいられなかった。

 

 卒業式も無事に終わり、月子は郁と束の間の卒業式デートを楽しむ。

 デートといっても、この後には3年天文科の打ち上げと謝恩会があるから、校内をふたりだけで歩くだけなのだが。

「こうして郁と一緒に校庭を歩くのも久し振りだね」

「そうだね」

「だからね、物凄く嬉しいんだよ」

 月子が笑顔で言うと、郁はフッと笑みを浮かべた。

「この春から僕もここの教師になるからね。こうしてカノジョと一緒に歩いていたら、格好のネタにされかねないよね」

 郁は苦笑いを浮かべながら、月子の手をしっかりと握り締めてくれた。

「月子、こうやって君と手を繋ぐことが出来たから、僕は自分の本当の夢を見つけられたんだよ。星月学園にも、琥太にぃにも、陽日先生にも感謝しないといけないね。勿論、君には一番感謝をしないといけないけれどね」

 郁の真っ直ぐな笑みに、月子はドキドキしてしまい、つい真っ赤になった。

「郁、今日は本当に有り難う。来てくれた上に、こうしてお祝いをしてくれて、その上こんなに素敵な薔薇の花束まで……。本当に嬉しかったんだよ」

 お礼の言葉を言うだけで、月子は今にも泣きそうになってしまった。

「有り難う、郁」

 また嬉しくて泣けてしまう。

 嬉しいのに泣けてしまうのはどうしてだろうか。

そんなことすら考えてしまう。

「ほら、泣かないの。ったく、僕のお姫様は泣き虫だね」

 郁は優しく笑うと、月子の涙を今度は唇で拭ってくれた。

 甘くて官能的な優しさが溢れた行為に、月子はまた泣いてしまう。

「本当に泣き虫はダメだよ? 今日は君にとっては大切な門出なんだからね」

「うん、うん。解ったよ。郁」

 月子はなんとか涙を堪えて笑おうとしたが、再び涙が瞳から零れ落ちてきた。

「……ほら……」

 呆れたような郁の声が聞こえる。

「ご、ごめんなさい……」

 月子が顔を向けると、郁は少しずつ近付いてくる。

「こうしないと、君は泣き止まないだろうからね」

 くすりと笑うと、郁は何度もキスをしてくる。

 触れるだけのキスはロマンティックで、先ほどまでの涙が止まってしまう。

 何度も何度もキスをして、ようやく月子の涙は止まった。

「ようやく泣きやんだね。君はキスが一番効くみたいだね」

 笑いながら郁が言うものだから、月子は真っ赤になってしまった。

「本当に君は可愛くてお子様だね」

「そのお子様にキスをするのは誰ですか?」

 わざとむくれると、郁はギュッと抱き締めてきた。

「お子様な部分の君と大人の女性になりつつある部分の君と上手くブレンドされているのが、僕好みなんだろうね」

 郁の歯の浮く台詞に、月子は恥ずかしくて俯く。

「さ、行こうか。天文科の皆が待っているよ」

 郁に手を引かれて、月子は頷いた。





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