*育む命*


 月子の妊娠が解ってからというもの、一樹はさり気なく気遣ってくれるようになった。

 いつもでも、かなり気遣ってくれているというのに、今はその度合いが上がっていた。

 月子と一樹は共働きではあるが、妊娠してからは極力無理をしないようにと、一樹が家事を随分分担してくれている。

 仕事も残業はしないようになっているし、危険が伴うような仕事は極力避けて貰っている。

 月子はギリギリまで働くつもりでいるが、それは誰よりも一樹が理解してくれているから実現するのだ。

 折角、大好きな星に関する仕事に就く事が出来たのだから、出来たらずっと働いていたいと思っている。

 赤ちゃんがいても、星の仕事は辞めたくはない。

 月子が一生懸命家事をした後、一樹が家に帰ってくる。

 弁護士という職業は、想像以上にハードワークで、定時に帰ったことなんて、数えるぐらいしかなかった。

「ただいま」

「おかえりなさい。今日はいつもよりも少しだけ早かったですね」

「そうだな。お前となるべくなら長い時間一緒に過ごしたいからな……。それに……」

 一樹は愛情溢れるまなざしを細めて、月子のお腹を見つめた。

「今はお腹の中にいるとはいえ、こうして近くでいられるのが嬉しいんだ」

「はい」

 一樹はフッと笑うと、月子をお腹ごとしっかりと抱き締めてくれた。

「こうしているだけで、家族団欒しているみたいだな」

「そうですね。何だか、こうしているだけで、暖かい家族が揃っていて、幸せです」

「そうだな。俺も幸せだ……」

 一樹はしみじみと言いながら、月子のお腹に頬をあてがった。

「こいつが産まれて来るのが楽しみだな」

「跡継ぎ?」

 月子がくすりと笑いながら言うと、一樹はフッと笑う。

「本人が俺の後を継ぎたいっていうなら話は別だけれどな。ま、こいつは一人目だから、これからどんどん増えていく兄弟の中で、継ぎたいと思うヤツが出てくるだろうからな。俺はこいつに、いや、こいつらには自由を与えたいと思っているからな。伯父さんが俺に自由を与えてくれたみたいに、俺の子どもらにも自由を与えたい。俺の跡継ぎになるやつも出てきても良いし、不知火神社を継いでくれても構わないしな。自由にしてやる」

 まだお腹の中にいる子どもと、将来産まれてくるだろう子どもたちの話をしている一樹は、とても幸せそうだった。

「何だか子どもたちの将来を想像するだけで楽しいですね」

「お前、今、子どもたちって言ったな?」

 からかうように一樹に見つめられて、月子は真っ赤になってしまう。

「……が、頑張ります……」

「おう、頑張ってくれ。俺もしっかり頑張るからな」

 一樹に髪をクシャクシャにしながら頭を撫でられて、何だか恥ずかしい気分になる。

 一樹はもう一度子どもの様子を確かめるように、月子のお腹を大切そうに抱き締めた。

「少しお腹が大きくなってきたな。そろそろ本格的にマタニティウェアを着なくちゃならないんじゃないか?」

「マタニティウェアって、何だか気を衒っているみたいで好きじゃないんですよね」

「ああ。だが、最近は結構、おしゃれなのが出ていて、マタニティウェアには見えないと聞いているぜ。だから、一緒に見に行かないか?」

 一樹に言われると、素敵な物があるような気になる。

「見に行きたいです」

「そうか。じゃあ連れて行ってやるよ」

「はい、宜しくお願いします」

「ああ」

 一樹も自分も、お腹の中にいる子どもも、誰もが喜ぶマタニティウェアがあれば良いのにと、月子は思わずにはいられない。

「楽しみです」

「休日に出掛けるのも久し振りだからな。楽しみだな」

 甘いデートがてらのショッピングが、月子は楽しみでしょうがなかった。

 

 一樹の車に乗って、月子はのんびりと大型ショッピングモールへと向かう。

 ここには、ベビーマタニティ専門店があり、豊富な品揃えなのだ。

 店の中に入るだけでも、つい目移りをしてしまう。

「子どもの物も必要かもしれないが、今日はお前のマタニティウェアだからな。それが一番必要な物だから忘れるなよ」

「ぬいぬいさー」

「そのフレーズ、懐かしいな」

 一樹の声が弾んで、月子もまたクスリと笑ってしまう。

「本当に懐かしいですね。赤ちゃんが出来たら、素敵な発明品をプレゼントしてくれるそうですよ」

「……余り嬉しくないプレゼントだな」

 一樹の顔が引きつっているのを見るなり、月子はついくすくすと笑ってしまった。

「子どもが好きなロボットだそうですよ。赤ちゃんを見に行く為に日本に帰って来てくれるようで、一緒にロボットも来日するみたいです」

「もう言葉が出ないな……」

 苦笑いを浮かべて困った顔をしている一樹を見ていると、月子は高校生の頃に戻ったような気分になる。

「さて、翼の話よりもお前のマタニティウェアを探しに行くぞ」

「はい、有り難うございます」

 しっかりと手を繋ぎながら、マタニティウェアの売り場へと向かう。

 月子はなんて幸せなのだろうかと思いながら、ブティック並に品揃えが豊富なコーナーに向かった。

「月子、これなんか似合うんじゃないか?」

 一樹が薄いブルーで美しく爽やかな印象のワンピースを指差してくる。

 目にも爽やかで月子はつい笑顔になってしまう。

 まるで爽やかな川縁の風のようなイメージのワンピースだ。

 大人でありながら可憐。

 そんなデザインがとても印象的なものだ。

 ついうっとりと見つめてしまう。

「綺麗なデザイン……」

「だろう? 気に入っただろう?」

 月子の好みなど知り尽くしている一樹ならではの選択だと、思わずにはいられなかった。

 洋服でなかなか一目ボレというのはないのだけれど、このデザインは納得いくぐらいに美しいと思った。

 月子はついうっとりと見つめてしまう。

「本当に綺麗ですね……。このワンピース」

「じゃあこれに決まりな」

 一樹はおおらかに言うと、月子のお腹に手のひらをしっかりとあてがった。

「お腹の子どもも気に入ったみたいだぞ? ママが綺麗なほうが嬉しいそうだ」

 一樹の言葉に、月子は恥ずかしくてつい真っ赤になってしまう。

 だが、子どもの為にも旦那様の為にも、月子は綺麗でいたいと思わずにはいられなかった。

「じゃあこれは買っておこうな。まあ、一シーズンで終わることはないだろうからな。これから、着ることも多くなるだろうからな」

「そうですね」

 月子も一樹も子どもを一人っ子にするつもりはないことは、一致しているのだから。

「月子、このワンピースを着たお前と出掛けるのが楽しみだな。いつも忙しくて、休みにもクライアントとの訴訟前の現場確認と検証とかが入って、お前には寂しい想いをさせているからな。お前がきちんと理解してくれているのは、俺としてはかなり助かっている。本当にいつも有り難うな」

 一樹はさり気なく月子の手をギュッと握り締めてくれる。

 その温もりが、強さが、月子を幸せにしてくれた。

 レジに行き、包装して貰ったワンピースを見ると、不思議と幸せで甘いテンションが上がってゆく。

 月子はつい笑顔を綻ばせてしまった。

「一樹さん、約束だから。このワンピースを着て、デートに連れて行って下さいね」

「ああ。約束する。お腹の子どもに誓ってな」

「有り難う」

 一樹ととっておきのワンピースを着てデートをする。

 次の幸せな時間に想いを馳せつつも、月子は今の幸せを噛み締めていた。

 





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