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| 月子もようやく二十歳になり、一樹にようやく追い付いた。 今日はその記念すべき日。 誕生日だ。 バースデーデートは、一樹がとっておきのエスコートをしてくれる。 だからそれに相応しい格好をしたくて、メイクをして、大人の可愛いさが出るお気に入りのワンピースを身に着けた。 ドキドキして、どうして良いのかが解らないぐらいに緊張してしまう。 甘い緊張だから、不快ではなく、むしろ歓迎だったりするのだが。 月子は何度も鏡で確認をしてから、一樹との待ち合わせ場所に向かった。 付き合ってから間も無く三年。 ずっと大切にしてもらってきた。 一樹はよくふらふらといなくなるから、普通の恋人たちよりは逢える頻度は少ない。 それが切なくなることはあるが、逢えなくなっても信じているから寂しくはなかった。 月子が待ち合わせ場所にやってくると、一樹が直ぐに現われた。 月子の大好きなひとは、スーツをすんなりと着こなしてとても魅力的だった。 つい見つめずにはいられないほどに。 「待っていたぜ。行こうぜ」 「はい」 一樹は月子の姿を目を細めながら見つめる。 気に入ってくれただろうか。 それが一番気にかかることだ。 だがフッと甘く眩しそうに微笑んでくれていたから、それだけ気に入ってくれていたようで、嬉しかった。 今日は月子が髪をきちんとセットしているからか、一樹は流石にいつものようにわしゃわしゃと髪を撫でることはしなかった。 ふたりはしっかりと手を繋ぎあうと、そのまま、デートを始める。 「今日はドライブをするか。お前、ドライブも好きだからな」 「有り難う、一樹会長」 月子は嬉しくて、つい声を弾ませた。 一樹はエスコートをするように、きちんと車に乗せてくれる。 いつもはかなり親父臭いが、こういった時はきちんとロマンティックな気分を味合わせてくれる。 ただし、少し古臭いロマンティックかもしれないが、月子にとっては、それがとても嬉しかった。 車は、街を優雅に走り出す。 ドライブが好きなのは、とても爽快に車が走るから心地が好いこともあるが、やはり一樹とふたりきりの空間を味わうことも大きかった。 また、一樹の運転技術はとても安定していて、乗っていても安心出来ることも、とても大きかった。 一樹ならば本当に安心して何もかもを任せることが出来た。 月子は久し振りの大好きなひととのデートににっこりとしながら、そっと寄り添った。 「寂しかったか?」 「それはそうですよ。だって一樹さんはいつも飛び回っていますから。だけど、それは今しか出来ない経験ですからね」 月子は一樹のことは誰よりも理解をしていたい。 そして理解をしているからこそ、待っていられた。 単位も一樹のことだから、きちんと取得をしていることだろう。 月子はそれを充分過ぎるぐらいに解っていたから、あえて何も言わなかった。 「俺は理解がある彼女を持てて幸せだな。というか、俺の彼女はお前しか務まらないだろうな」 「私もそう思います」 月子がくすりと笑うと、一樹も同意して頷いた。 「今日は人間が作ったとっておきの星が見られるところに連れていってやるよ」 「有り難うございます」 一樹もまた、月子のことをよく理解してくれているから、基本デートで外すことはない。 理解のある恋人であるのが、月子には嬉しかった。 それぞれ違う道に進み始めて、大学も違い、高校生であった頃に比べてしまうと、接点が少なくなり、お互いの世界も出来てきた。 そのせいか、逢える時間も少ないのは確かだ。 それでもお互いに信頼をしあって、ずっとやってこれたのは、やはり絆が強いからだろう。 離れていても大丈夫。 そんな確信がふたりの中にはあったから、全く大丈夫だと言っても良かった。 色々と話しながら楽しいドライブを続けた後は、待望のバースデーデートのディナーだ。 一樹が連れて行ってくれたのは、高層ビルの展望スペースにあるレストランだ。 確かにここならば、人間が作った人工的な星が見られる。 つまりは夜景だ。 星も大好きではあるけれども、夜景もやはり好きだ。 星に比べると、人間臭いところが良いと、月子は思っている。 「お前、こういうところが好きだからな」 「有り難うございます。最高のバースデープレゼントです」 月子はこれだけでももう充分だと思った。 忙しい一樹が月子のためだけに一生懸命考えてくれた、デートプランなのだから。 「まだまだあるぜ。俺はお前が喜んでくれるだけで嬉しいんだからな」 一樹は嬉しそうにまるで少年のように笑う。 月子はその笑顔が大好きだった。 「お楽しみはこれからだからな。先ずは食事を楽しもうぜ」 「はい」 月子は、少しだけかしこまって、食事をする。 美味しそうなメニューに、思わず笑みを零した。 「美容に良いそうだぜ」 「嬉しいです」 月子は早速料理を口にする。 一樹がセレクトしてくれるだけあり、なかなか美味しそうだった。 食事をしながら、目の前には大好きなひと。 そして美味しそうな食事。 これだけでもかなり贅沢だった。 食事をしながら夜景を楽しみ、そして、うっとりとしてしまいそうになるぐらいに素敵な恋人。 文句のつけようがない誕生日だ。 夜景を見つめると、本当に星よりも多くの輝きが見つけられた。 「綺麗ですね…」 「そうだな…」 「だけど…」 「星の輝きのほうが神秘的で好き…だろ?」 一樹はくすりと笑うと、月子を見た。 「一樹さんはやっぱり何でもお見通しですね」 「お前のことならな。お前のことをいつも知りたいと思っているからな」 一樹の言葉が嬉しくてー月子はつい笑顔になった。 「私も一樹先輩のことはいつも知りたいと思っていますよ」 「お互いだな」 「はい」 月子は笑顔で一樹を見つめる。 お互いにお互いのことを知ろうとして、お互いのことを理解しようとしているからこそ、こうして離れていても大丈夫なのだ。 月子は、逢う度に一樹とは絆を確認出来ると思わずにはいられなかった。 食事も済んで、デザートだ。 勿論、ここでも一樹のサプライズは発揮される。 星をモチーフにしたケーキが運ばれてきたのだ。 プレートには、ハッピーバースデー月子さんと書かれている。 それが嬉しい。 しかも月子の大好きな星だ。 月子は、ロマンティックな気分になりながら、目の前で揺れるキャンドルの炎を見つめた。 揺れている炎を見つめるだけで、ロマンティックだ。 「ほら、一気に吹き消してみろよ」 「はい」 こんなに素敵な二十歳の誕生日はきっとないと思いながら、月子は炎を吹き消した。 「誕生日、おめでとう、月子」 「有り難うございます」 月子はケーキが取り分けられるのを幸せに思いながら、じっと見つめていた。 「これは俺からの誕生日プレゼントだ」 「有り難うございます」 差し出されたのは、ジュエリーボックス。 「開けて良いですか?」 「ああ」 月子は小さな子供に戻った気分でワクワクしながら、ジュエリーボックスを開けた。 するとそこには、星と月のチャームと天然石が着いた、とても可愛いデザインのブレスレットだった。 月子はそれを見つめるだけで、本当に泣き出しそうになった。 「左手の手首を出してみろ」 「…はい…」 月子が左手首を差し出すと、一樹がそこにブレスレットを着けてくれた。 嬉しくて涙が零れ落ちた。 |