*お正月*


 不知火家のお正月は賑やかで、華やかだ。

 家業である神社がかきいれどきであるせいか、家族総出で仕事に励む。

 月子も一樹と共に、神社の列整理をしたり、屋台の統制をしたり、掃除をしたり、おみくじや御守りを授けたりと、かなり大忙しだ。

 だが、これはこれで楽しいと思いながらやっている。

 本当に、お正月の神社というのは、何となく楽しかった。

 優雅でのんびりとしたお正月も良いかもしれないが、大好きなひととこうして過ごすお正月は、何よりも楽しかった。

「月子、余り無理をすんなよ」

「大丈夫ですよ。こうやって賑やかに仕事をするのが大好きなんですよ」

「そうか。月子、色々と有り難うな」

 一樹に褒められると、やはり嬉しくなってしまう。

 大好きなひとに褒められるというのは、なんて威力があるのだろうかと、思った。

「一樹、月子ちゃん、休憩してね。お雑煮があるから」

「有り難うございます」

 不知火家のお雑煮は毎年の楽しみだ。

 月子はつい笑顔になってしまう。

「美味しいから楽しみなんだよね」

「お前はかなり気に入ったいるもんな」

 ふたりで手を繋ぎながら、奥の茶の間に向かう。

 すると美味しそうなにおいが漂ってきた。

「数の子と海老も準備がしてあるから、食べてね」

「はい、有り難うございます」

 好きなものを少しずつ食べられるのが嬉しくて、月子はつい笑顔になった。

 ふたりで炬燵にあたると、ほっこりとする。

「何だか幸せ」

「そうだな」

 月子は、大好きな不知火家の雑煮を食べながら、破顔する。

「ホント、お前は可愛いよな」

 一樹もまた破顔すると、月子の頬をふにっと抓る。

「俺は雑煮の餅よりも、こっちの餅が良いけれどな」

 手加減をして頬を引っ張ってくれているから、そんなにも痛くはないのだが、それでもほんの少しだけ拗ねたくなる。

「もうっ! 一樹さんのバカッ」

「お前はそうやって拗ねるとむちゃくちゃ可愛いな」

 オヤジのように破顔して、“可愛い”と言われると、弱い。真剣に怒れなくなってしまうのだ。

 ひょっとして、一樹はそれを狙っているのかもしれないが。

「ホントにお前は可愛いなあ。とーちゃん、嬉しいぞ」

 一樹はあくまで楽しそうだ。

「とーちゃんじゃなくて、旦那様です」

「ああ。俺はお前の旦那だ。だが、もうすぐリアルとーちゃんになるかもしれないだろう?」

 一樹に指摘をされて、月子はつい真っ赤になってしまう。

 確かにその可能性は全く否定出来ない。

「そうなったら、私もとっても嬉しいですけれど…」

 月子がはにかんだままで言うと、一樹はギュッと抱き締めてきた。

「もう、お前は本当に可愛いな」

 一樹に抱き締められて、月子は更に真っ赤になった。

 ふたりで戯れ合うような休憩時間は終わり、また手伝いを始める。

「やっぱりお雑煮はとても美味しかったですよ」

「ああ。美味かったな」

「これでしっかりと働けます」

「そうだな」

 一樹は月子をふざけるのではなく真剣に抱き締める。

「月子、お前のような嫁さんで本当に助かったよ。有り難うな」

 耳元で囁かれて、月子は恥ずかしさと嬉しさに、つい笑顔になる。

「こちらこそ。楽しいです。毎年、不知火神社で働くのが楽しみですから」

「ああ、有り難うな」

 一樹は月子の手を取ると、再び境内へと向かう。

「伯父さんがな、俺とお前の子供は孫と同じだから、早く顔を見て、うちでお宮参りや一連の行事をしたいと、言っていた。お宮参りは、そんなに遠い未来ではないような気がするな」

「一樹さん、何かを感じているの?」

「ああ。もう予知の力は殆ど使わなくなっているが、何となく感じている。俺はすげえ楽しみだ」

「私も楽しみです」

「そっか」

 皆にからかわれるのはお構いなしに、ふたりは堂々と境内近くまで手を繋いでいた。

 

 山場である元旦の仕事が終わり、誰もがのんびりと茶の間に集う。

「一樹、月子ちゃん、有り難う。今年もよく手伝ってくれた」

「楽しかったですよ。それに美味しい雑煮が頂けましたしね」

「月子は、うちの雑煮が気に入っているから」

「それは嬉しいわ」

 伯母は嬉しそうに言うと、夕食をふたりの前に用意してくれた。

 やはり冬なので鍋だ。

 これを食べたら帰るのだ。

 本当は二日まで居ようと思っていたのだが、一樹の実家が遠慮をして、辞退したのだ。

 一樹の弁護士という職業柄、正月休みが少ないのを知っているからだ。

 今は、有名弁護士事務所で、所謂、居候弁護士をしているせいか、かなり一樹は忙しいのだ。

 若手政治家を数多く輩出している事務所で、一樹はかなり優秀な弁護士として、働いているのだ。

 夢に一歩近付いている感じだ。

 総理大臣になることが目標だなんて、堂々と宣言をして頑張るところなんて、一樹らしい。

 四日には仕事に出なければならないから、二日間は一緒にのんびりとすれば良いからと、気遣って貰った結果なのだ。

「ふたりとも有り難う。来年、お年玉を渡すことになるかもしれないわね」

 フフッと幸せそうな笑みを浮かべる伯母に、何だか恥ずかしくなってしまった。

 

 温かいお鍋を食べて、ふたりは帰宅の途についた。

「今年も楽しかったです」

「それは良かった」

 一樹はしみじみと言うと、月子を抱き寄せた。

 「本当はもう少しいたかったんですけれど…」

「俺たちが新婚だから、気を遣ってくれたんだろうな。折角の気遣いを素直に受けよう。明日からはゆっくりと正月休みだから」

「はい」

 車に揺られながら、月子は一樹にもたれながら、のんびりとした家路をと向かった。

 

 ふたりで暮らすマンションに入るなり、月子は気持ちが悪くなってしまい、直ぐに洗面所に駆け寄った。

 気持ちが悪くてくらくらしてしまう。

 食べたものを戻した後、月子は息を整えるのに暫く時間がかかってしまった。

「大丈夫か!?」

「急に気持ちが悪くなってしまって…」

「…余り無理をするなよ? 今日は働き過ぎたんじゃないのか」

「大丈夫ですよ。そんなに働いてはいないと思うんですけれど…」

 月子はどうしてこんなにも気分が悪くなったのかが分からなくて、小首を傾げてしまった。

「本当に無理をするんじゃないぞ」

「大丈夫」

「とにかく、少し休め」

「有り難う」

 一樹はリビングに連れていってくれると、月子を休ませてくれた。

「大丈夫か?」

「うん、何とか…」

 月子が何とか一樹に微笑んでみせると、ギュッと抱き締められた。

「…御守りが本当になったかもな…」

「…え…?」

 月子は何が何だか分からなくて、一樹に聞き返す。

「伯父さんから、御守り貰ったんだが…」

 一樹はおずおずと言いながら、手のひらに乗せた御守りを見せた。

 そこには“子宝”“安産”と書かれた、ふたつの御守りがあった。

 それを見ると、月子は思い当たることがあるような気がした。

「…確かに身に覚えがあるような…」

「だろう?」

 一樹も月子も感じるとっておきの出来事。

「本当に、一樹さんはリアルとーちゃんになるかも」

「ホントか?」

 一樹は喜びを爆発させるように、月子を抱き締める。

「正月から良いことが起こるなんて、縁起が良いな」

「そうですね」

「伯父さんたちも喜ぶしな」

「はい」

 ふたりは明るい未来を想い、そのまま微笑み合う。

 今年は最高のスタートが切れたから、良い年になるに決まっている。

 そう感じずにはいられなかった。





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