月子もいよいよ成人式を迎える。 ようやく大人の仲間入りを果たすのだ。 不安でもあり、寂しくもあり、そして嬉しくもある。 嬉しい部分は、ようやく恋人である一樹に追い付いたこと。 寂しい部分はいつまでも子供のように無邪気ではいられないこと。 不安な部分は、これから大人として認められて、本当に大人として振る舞うことが出来るということが、不安だ。 だが、そんな心も引っ括めて、一樹が月子を導いてくれるから、安心していられる。 成人式の朝、月子は浅かろ美容室に向かい、着付けとメイク、そして髪をセットして貰った。 鏡に映る自分を見ると、自分とは思えないぐらいだ。 「…綺麗ですね、よくお似合いですよ」 「有り難うございます」 月子は、美容師に褒められて、何だか照れ臭くなってしまう。 綺麗にした後、幼馴染みたちと一緒に式典に参加する。 帰国をした羊も一緒だ。 式典が終わるタイミングで、一樹が迎えに来てくれる予定だ。 一樹とふたりで不知火神社に参拝をした後で、写真館に行き、その後はデートと、典型的な成人式スタイルだ。 早く、晴れ姿を一樹に見せたいと思いながら、華やいだ気持ちで、式典会場へと向かった。 式典は滞りなく終わり、幼馴染みたちと賑やかに話をしていると、一樹がやってきた。 そこにいる誰よりもスーツを着こなして、大人の印象だ。 いつも服装には無頓着な一樹が、こうしてスーツを着こなしてきてくれているのが、嬉しくてしょうがなかった。 「月子、待たせたな」 流石にカリスマ生徒会長であることもあり、誰もが一樹を見つめている。 「有り難う、一樹さん。お迎えに来て下さって」 「お前の出迎えに来たかったからな。さ、月子、お手をどうぞ」 「有り難う」 一樹はいつもお姫様気分になれるように、しっかりとエスコートしてくれる。 「じゃあな、月子は連れて行くぜ」 一樹は、幼馴染みたちに堂々と宣言すると、月子と躰をかなり密着させた。 「またな、お前ら」 一樹は先に大人になった余裕を堂々と見せながら、月子を連れて、車へと向かった。 月子は自分の物。 そんな宣言を堂々とされたみたいで、嬉しいと同時にかなり恥ずかしかった。 車に乗る際、月子が着物であることを配慮して、一樹は手を貸してくれた。 その優しさに、月子は嬉しくなってしまい、つい耳まで真っ赤になってしまう。 車に乗り込むと、今日はやり難いだろうと、一樹がシートベルトをしてくれた。 躰がかなり密着してドキドキしてしまう。 「じゃあ写真館だな。行くか」 「はい、お願いします」 成人式の記念にと、写真館で立派な写真を取って貰うことにしている。 「楽しかったか? 幼馴染みの皆と」 「楽しかったですよ」 「それは良かった」 流石は一樹なだけあり、大人の笑みを浮かべて、月子と同じように喜んでくれる。 それがとても嬉しかった。 「成人式なのにご両親からお前を強奪したみたいで悪かったな」 「両親は成人式はこんなものだって解っているみたいで、昨日、お祝いをしました。朝、家族と写真を撮りましたから」 「可愛いお前の振り袖姿を余り長い間、お見せすることが出来ないからな…。だから、せめてお前との時間をとも思ったんだが、俺がお前と過ごしたい一心だったからな…」 さらりと“振り袖の姿が短い”と言われて、月子は真っ赤になってしまった。 振り袖の時間が短いということは、それだけ、独身時間が短いということを示しているのだ。 それをさり気なく言われて、ときめかない筈はなかった。 「お前、真っ赤だな」 一樹はからかうように、嬉しいように話しながら、月子の手をしっかりと握り締める。 なんて甘い行為なのだろうかと、月子はドキドキして、更に顔を赤らめることしか出来なかった。 写真館に到着すると、月子は何ポーズかを撮影した。 一樹が真剣なまなざしで見守ってくれるのが、心強くて嬉しかった。 一樹が余りに熱くて真剣なまなざしで見つめるものだから、月子は頬を紅潮させながら、撮影に挑んだ。 チークなんて必要ないぐらいだ。 「本当にお綺麗ですね。あなたのような方なら恋人の方も嬉しいと思われるでしょうね」 メイクを直してくれる、カメラマンのアシスタントの女性に褒められて、月子は嬉しくてしょうがなかった。 「有り難うございます。とても嬉しいです」 「私は正直に申したまでですよ。あなたのお写真は責任を持って、綺麗に仕上げますからね。楽しみにしておいて下さいね」 「有り難うございます」 こうして、色々と嬉しいことが重なり、月子は素直な笑顔を向けた。 撮影が終わった後、一樹は先ほども更に強く躰を密着させてくる。 世間にいる総てのひとに、月子は自分のものだと、ふれ回っているかのようだった。 それはそれで月子は嬉しかった。 ずっとずっと一緒にいると、ずっとずっと月子は一樹のものなのだと、言って貰っているような気がしたから。 車に乗って今度は不知火神社だ。 本当にスケジュールが立て込んでいるが、それでも充実しているから、月子は楽しかった。 「伯父にお前の晴れ姿を見せたら、喜ぶだろうな」 一樹が自慢をするように言うものだから、月子はほんのりと照れ臭くなる。 だが、一樹に綺麗だと思って貰えるなんて、月子には嬉しくてしょうがなかった。 いよいよ不知火神社に到着して、流石に緊張してしまう。 「そんなに緊張すんなよ。大丈夫だからな」 「はいっ」 つい固い返事をしてしまったものだから、一樹は苦笑する。 「だから、いつも通りで良いんだからな」 一樹は月子の手をしっかりと握り締めると、神社へと向かう。 流石に緊張する。 だが、一樹がいてくれるから大丈夫だ。 月子もまた一樹の手をしっかりと握り締めた。 「月子ちゃん! やっぱり想像通りに綺麗ね!」 一樹の伯母がニコニコと笑いながら、出迎えてくれる。 笑顔で出迎えて貰うと、不知火家の一員のような気がして嬉しかった。 「お参りしてくる。月子が無事に成人式を迎えられたことを」 「ああ、お参りに行ってこい」 一樹の伯父に見送られて、月子は一樹と一緒にお参りに行く。 本殿の前まで来ると、気持ちがとても引き締まった気分になる。 月子は神聖な気持ちでお祈りをする。 無事に二十歳の成人式を迎えられたことを感謝した。 そして。 隣にいる素敵なひとと一緒にいられることを感謝する。 お祈りが済むと、一樹と同時に目をしっかりと開けた。 「良い成人式です」 「そうだな」 一樹は月子の手を再び取ると、神社の境内に向かう。 「お前も俺もこれで正式な大人で、大人の男と女として、付き合ってゆけるな。 「はい」 これからは本当に大人として責任を持った付き合いをしていかなければならないと、思わずにはいられない。 「月子、大人としてのけじめだ」 そう言いながら、一樹が引き寄せてくる。 こうして抱き寄せられるだけで、甘酸っぱい気持ちになった。 今まではまだ幼い甘酸っぱさだったが、これからは芳醇な甘酸っぱさになる。 一樹は月子をしっかりと抱き締めると、唇を重ねてくる。 力強い一樹らしいキス。 キスが気持ちが良くて勇気をくれるものであることを、教えてくれるキスだ。 月子はうっとりとキスを受け取りながら、一樹を抱き返した。 唇を離した後、ふたりで見つめあう。 「成人おめでとう」 「有り難う」 ふたりは笑顔になると、大人の恋の第一歩を歩み始めた。 |