月子もとうとう星月学園を卒業する。 星を見るのが大好きで、ずっと星に関する仕事に就きたいと思ってきた。 その夢を叶える為の第一歩がこの場所だった。 夢は叶える為に夢見るものであるということを、教えてくれたのもここだった。 夢いっぱいで入学してきた学園を、更に大きな夢を抱いて卒業をする。 こんなに素晴らしいことはないと、月子は思わずにはいられない。 また、星月学園に来て、かけがえのないものを知った。 それはひとを信じて、心から愛するということだ。 学園では本当の意味でかけがえのないひとと出会えた。 きっと生涯で最も素晴らしい出会いの一つだと月子は思っている。 俺様で仕切り屋の牡羊座らしいひと。星月学園の王様として四年余りも君臨したカリスマ。 運命の恋だった。 そんな恋を見つけた場所から卒業する。 泣きそうになる。 だが、それは新しい旅立ちでもある。 式の後、月子はクラスメイトや生徒会、弓道部の仲間たちと、卒業の余韻に浸っていた。 大好きなひとを見送ったのは一年前。 あれからそんなにも経ったなんて信じられない。 大好きなひとは、今、海外にいるから、卒業のお祝いをしては貰えないけれど、それでも月子は良かった。 大好きなひとを一番理解している自負があるから。 「月子、今日は不知火先輩は来るのか!?」 哉太は楽しみとばかりに少しばかり興奮気味に訊いてきた。 哉太は、子どもの頃に一樹から喧嘩を習ってから、かなり尊敬をしている。 一番尊敬をしている先輩と言っても過言ではないだろう。 「来るとは聞いていないよ。会長なら海外にいると思うから」 「そっか。不知火先輩に逢いたかったなー!」 哉太は本当に残念そうに言っている。 月子が一樹と付き合うことになって、一番喜んでくれたのは哉太だったからだ。 「また逢えるよ」 「そうだな。だけど不知火先輩に逢いたかったなー。お前や青空が卒業するから、来ると思っていたんだよな」 哉太はとことんまで残念そうだった。 「間に合ったみたいだな」 聞き慣れた男らしい声に、月子は心臓が飛び上がるような気分になる。 「不知火先輩!」 「会長!」 誰もが一樹を慕っていることが解る。 月子は嬉しさと感激で肩を震わせながら、ゆっくりと振り返った。 そこには眩しそうに目を細めて笑う一樹がいる。 「……会長……」 「俺の卒業を見送ってくれたから、俺もお前の門出を見守ろうと思ってな」 海外にいるとばかり思っていた一樹が目の前にいる。 月子はそれだけで嬉し過ぎて泣きそうになった。 「有り難うございます、会長」 一樹の前だから、なるべく泣かないように我慢をする。 だからこそ余計に明るい笑顔になろうと思ったが、なかなか思い通りにはいかなかった。 「颯斗とふたりで、よく頑張ったな。とーちゃんは鼻が高いぞ」 ふざけるように髪をくしゃくしゃに撫でられて、月子はまた泣きそうになった。 「全く、お前はいつまで経っても泣き虫だな」 一樹は苦笑いを浮かべながら、指先で月子の涙を拭ってくれる。 その繊細な優しさに、月子は我慢が出来なくて、涙を溢れさせた。 「……しょうがないな」 「だって、会長が卒業式にわざわざ来て下さるのがとても嬉しかったんです」 「俺はサプライズが好きだからな。星詠み科だからかな」 月子は何度も頭を撫でられて、一年前までの生徒会に戻ったような気持ちになった。 「卒業おめでとう」 一樹は深い笑みを浮かべると、月子に花束を差し出してくれた。 綺麗な薔薇とカスミソウの花束に、月子はまた泣きそうになる。 花束に顔を隠して、月子はそっと泣いてしまう。 このひとはどうしてこんなにも欲しい物をごく自然にくれるのだろうか。 それが嬉しいのと同時に、月子は幸せでしょうがなかった。 「ったくお前は……」 何度も泣くものだから、一樹はすっかり呆れ返ってしまっている。 そうは言われても、嬉し過ぎて涙が溢れて来るのだからしょうがない。 「会長、余り彼女を困らせないで下さいね」 颯斗が文字通りに清々しい笑顔を浮かべて、こちらにやってきた。 その爽やかな笑顔の影から、ひょいと翼が顔を出した。 「あー! ぬいぬいだっ! ぬいぬいーっ久し振りーっ!」 翼は一樹に逢えて嬉しいからか、月子よりも前にその胸に飛び込んでしまった。 「おいっ、抱き着くなっ。卒業式の抱擁は月子の為にとってあるんだっ!」 「ぬいぬいーっ」 相変わらず、一樹にすがりつく翼と、そこから逃げようとする一樹。 つい笑ってしまう温かな風景だ。 月子はついくすりと笑ってしまう。 一年前に戻ったかのようだ。 まるで家族のようだった生徒会。 恐らくは一生の想い出としてこれからも残っていくだろう。 月子は温かな気持ちになりながら、颯斗とふたりで見守っていた。 一樹はやはりカリスマ生徒会長だったこともあり、卒業生たちが集まってきている。 勿論、哉太も例外ではない。 これだけの人間をまとめられる一樹は、やはり大したものだと思う。 恋人としての欲目はあるかもしれないが、月子にはとても素晴らしい兄であり、恋人だった。 大騒ぎだった卒業式。 ようやく一段落ついて、月子は一樹とふたりで手を繋いで、校庭をのんびりと散歩していた。 この後は謝恩会などがあって、直ぐに恋人とお祝いのデートをするわけにはいかない。 だから、ほんの短い自由時間を一緒にいることに費やした。 「会長、有り難うございます。本当に嬉しかったんですよ。海外に行っているのは知っていましたから、来るはずはないと思っていましたから。会長のことですから、後でしっかりとお祝いして下さるのは解っていましたから、来られなくても大丈夫だって、思っていました。だけど、こうしてそばに来て下さったことが、私には嬉しいです。本当に、何よりものプレゼントになりました」 月子は幸せでいっぱいになりながら、笑顔で一樹に伝えた。 「今日はお前にとっては、生涯で最も大事になる日のひとつになるってことはよく解っていたからな。俺はお前の大事な日に立ち会いたかったっていうのもある。お前の最良の日には、いつでもそばにいたいと、俺はずっと思っているからな」 「一樹会長……」 お互いにお互いをしっかりと理解をして想い逢っているからこそ言えるし、出来ることなのだろうと、月子は思った。 「それに、お前は記念日を祝うとか、そんなロマンティックなことが好きだろ?」 「はい。だから、とってもとっても嬉しかったんですよ」 「ああ。お前がそう思ってくれているのは、凄く嬉しかった」 一樹は不意に月子をしっかりと抱き寄せて来る。 力強い腕に抱き寄せられて、月子は胸がドキドキしてしまい、どうしようもないぐらいに息がからからになった。 「本当は、翼ではなく、お前をこうやって一番に抱き締めたかったんだけれどな」 苦笑いを滲ませながら言う一樹に、月子は思わずくすりと笑ってしまった。 「だから仕切り直しだ」 一樹は甘さを含んだ笑みを浮かべると、月子を真っ直ぐ見つめる。 咳払いをするのはご愛嬌だ。 「……月子、卒業おめでとう。これからもずっと宜しくな? 全くの同じ道を歩くわけではないが、ずっと道は寄り添って歩いて行こうな」 「はい……!」 互いに目指すものは違うけれども、一樹とならば寄り添える。 一樹はゆっくりと唇を重ねてくる。 ロマンティックな卒業式のキス。 それは新たな始まりを意味していた。
|