*恋するヴァレンタイン*


 月子が星月学園を卒業してからの初めてのバレンタイン。

 流石に一樹に手作りのチョコレートを作るということは、料理の腕からして出来ないことであるけれども、なるべく作ってあげたいと、かなでは思う。

 一樹のためにとっておきのチョコレートを用意して、そして星を見るデートが出来たらと、ロマンティックに考える。

 ふたりの結びの神は、明らかに星なのだから。

 ふたりの恋を見守ってくれているのも、きらびやかな星なのだから。

 月子はバレンタインデーのとっておきのデートを考えては、にやにやとしていた。

 冬から春へと移ろいでゆく星座を一樹と見るのが、何よりも素敵なことだから。

 月子は、バレンタインデートの誘いをするために、一樹に電話を掛ける。

 バレンタインデーは女の子から告白をして良い日なのだから、月子からデートに誘うのが筋なのだろうと思ったからだ。

 大好きなひとにプラニングさせるだけではなくて、自分で一生懸命頑張って考えたデートにエスコートしたかった。

 たまには大好きなひとにデートを誘いたいから。

 月子はドキドキしながら、携帯電話を手に取った。

「もしもし、一樹会長ですか? 月子です」

「月子か。どうした? 寂しいのか? 父ちゃんが抱き締めにいってやろうか?」

 またいつもの調子で電話に出る一樹に、月子はつい笑顔になってしまう。

「デートの約束がしたいんです。一樹会長、214日は空いていますか?」

 少しだけドキドキする。

 一樹は友人も大切にするから、そちらの予定を優先するのではないかと、つい考えてしまう。

 たまには良いけれども、やはりバレンタインデーだからこそ、優先して欲しいとも思ってしまう。

214日か。バレンタインデーだな。またチョコレートの争奪戦をするか?」

「今度は私と一樹会長しかいませんよ」

 月子がくすくすと笑うと、一樹もまた笑う。

「そうだな。折角のバレンタインだもんな。一緒に過ごそう」

「有り難うございます」

 一樹にOKを貰えて、月子は嬉しくてしょうがない。

「良いところに連れていってやるよ」

「駄目です。今度は、私がデートのプラニングをしますから、楽しみにしておいて下さいね」

「解った。お前のプラニングしたデートを楽しみにしているよ」

「楽しみにしていて下さい」

 月子は携帯電話を切ると、幸せの溜め息を深々と吐いた。

 一樹が楽しんでくれるようなプランを作ることが出来たら良い。

 大好きなひとが本当に楽しんでくれたらと思わずにはいられない。

 やはり、大好きなひとが楽しんでくれるものが、一番良い。

 喜んで貰えたら、それだけで月子は良かった。

 

 バレンタインのチョコレートは、大人びたビターテイストのものを選んだ。

 チョコレートにプラスαするものは、ブランデーの小さなボトル。

 一樹がゆったりとした癒しの時間を過ごせるようにと、月子は選んだ。

 後はデートのコースだ。

 以前一樹に連れていって貰ったような大人びたクルージングデートは難しいけれども、出来る範囲で海でロマンティックにと、観光船での港を一周するプランを申込んだ。

 流石にディナーは申し込めなかったが、星を見るだけでもロマンティックだと思った。

 食事は、バレンタインだから奮発したいところだが、そんな経済力は月子には持ち合わせてはいないから、結局は、トマト鍋の店にした。

 星を見るためのクルージングは食事の後の午後九時からだ。

 これでプラニングは完了だ。

 月子は当日が楽しみでしょうがなかった。

 

 バレンタインデーだから、いつもよりも綺麗にしたくて、覚えたての化粧を、一生懸命に頑張った。

 お洒落も頑張ろうと思い、可愛いくも大人なワンピースに、辛口のトレンチコートを羽織った。

 大好きな一樹の為に綺麗になりたいから。

 ただそれだけだった。

 

 月子は待ち合わせ場所に華やいだ気分で向かう。

 今日は、一樹がカジュアルでも大丈夫なようなデートプランを作った。

 一樹がやってくる。

 一樹は、月子を見つけるなり、甘い笑みを浮かべてくれる。

 それが嬉しかった。

「月子、待たせたな」

 一樹は月子の手をしっかりと握り締めると、フッと笑みを浮かべてくれた。

「月子、今夜はどんなデートプランなんだ?」

「…えっと…先ずはご飯ですが、トマト鍋を食べに行こうかと思っています」

「解った。連れていってくれ」

「はい」

 月子は、いつもよりも少しだけイニシアチブを取って一樹を居酒屋へと案内した。

「どうぞ」

「有り難う」

 居酒屋の個室でふたりでトマト鍋をつつきながら、様々な話をする。

 それが楽しくて、月子は時間を忘れる。

 一樹も喜んでくれている。

 その笑顔が、月子にはとても幸せだった。

 

 トマト鍋を食べた後、一樹を観光船にエスコートをする。

 トマト鍋の料金は、一樹がどうしてもと言い、結局は払ってくれた。

 これには流石に申し訳ないと思ったが、一樹が男として当然だと、とてもナチュラルに支払ってくれたのが印象的だった。

「次は何処に行くんだ? 月子」

「次は観光船ですよ。デッキに出て星を見ましょう」

 月子が燥ぐように言うと、一樹は目を細めた。

「本当にお前は可愛いな」

 頭にポンと一樹の大きな手のひらを乗せられて、月子はそれだけでドキドキした。

 船に乗り、デッキに出たまま、星を見上げる。

「綺麗ですね。本当に…。見つめているだけで、何だか幸せです」

「そうだな。生徒会の皆でよく星を見たが、あの時は温かい家族のような気分で見たが、今は何だか良い気分だな…」

「はい」

 息が出来ないぐらいに華やいでロマンティックというのは、このことを言うのではないだろうか。

 顔が熱いから、冷たい夜風が気持ち良い。

 月子はうっとりとした気分になりながら、夜空を見上げる。

 すると背後から一樹がしっかりと抱き締めてくれる。

 背中が温かくて気持ちが良い。

 だが、甘い緊張で、星を見るどころではなかった。

「星も綺麗だが、お前のほうがもっと綺麗だな」

 一樹の色香の滲んだ声が、月子の五感を刺激して止まない。

「一樹会長…」

 星を見るのを忘れてしまい、月子は総ての感覚を、一樹に託した。

 まさにバレンタインに相応しい天体観測なのかもしれない。

 月子はうっとりとした気分になりながら、暫くは、ロマンティックに浸っていた。

 

 あっという間に一時間のクルージングは終わり、ふたりは下船をする。

 月子は一樹のポケットにコッソリとチョコレートを忍ばせておいた。

「一樹会長、バレンタインデーのチョコレートは何処でしょうか?」

 月子の問い掛けに直ぐに気付いたのか、一樹はポケットからチョコレートを直ぐに探し出した。

 月子はブランデーの小さなボトルを渡す。

「有り難うな、月子」

 一樹は柔らかく甘い笑みを浮かべながら、チョコレートを受け取ってくれた。

 それが月子には嬉しかった。

「それで癒しの時間を過ごして下さいね」

「ああ」

 月子の言葉に、一樹は頷くと、抱き締めてくる。

「…お前と一緒にいる時間が、俺は一番癒される」

「一樹会長…」

 一樹は月子の唇に自分のそれを重ねてくる。

 バレンタインデーに相応しいキスだ。

 甘くて、何よりもドキドキするキスだ。

 ロマンティック過ぎてうっとりしてしまうようなキス。

 月子は最高のバレンタインではないかと思う。

 一樹の唇が静かに離れた。

「今日のバレンタインデート、有り難うな。最高だった」

「私も有り難うございます。愛しています、一樹会長」

「俺も愛しているぜ」

 一樹は唇を重ねると、ロマンティックなキスをくれる。

 忘れられないバレンタインになった。





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