相変わらず、一樹は世界中のありとあらゆる場所を回っている。 余り逢えないから寂しい。 だが、一樹とは壊れないと信じているから、大丈夫。 いつも、月子が逢いたくて堪らなくなったタイミングで、一樹が逢いに来てくれるから。 バレンタインディに逢った後から逢ってはいないけれども、きっとまたひょっこりと月子を誘いに来るに違いない。 一樹はきちんと月子を大切にしてくれているから。 タイミング良く、携帯電話が鳴り響く。 月子は直ぐに着信音で誰かに気付く。 一樹だ。 月子は慌てて携帯電話に出る。 「はい」 「俺だ、月子」 声で直ぐに解る、だが、ほんの少し拗ねても、許されるだろう。 「俺なんてひとは知りません」 わざと拗ねるように言うと、一樹の苦笑いが聞こえてきた。 「解っているだろ? 一樹だ」 「久し振りです」 ほんのりと棘があるように言うと、一樹は笑みを滲ませる。 「デートしようかと思ってな。ちゃんと、新聞で色々と調べたから」 「日本にはいつ帰って来たんですか? 会長」 デートという言葉を聞くだけで、月子の声が弾む。 ずっと一樹と逢ってデートをしたかったから、嬉しくてしょうがない。 「さっきだ。やっぱり春は日本にいたいからな。日本の桜は最高だからな」 「確かにそうですね。日本の桜は最高ですから」 「ああ」 一樹は感慨深げに言うと、フッと笑う。 「それに、桜は、お前が世界で一番似合うからな。それを見逃す手はないと、俺は思うからな」 「会長」 こんなにも甘い言葉を言われると、怒ることなんて出来なくなってしまう。 月子は耳たぶまで真っ赤になりながら、電話口で何を言おうかと考えた。 「…お前…、今、耳まで真っ赤になっただろう?」 一樹にからかうように言われて、月子は余計に耳まで真っ赤にした。 「…耳なんて紅くなっていないです」 見えないから、月子はわざと強く出る。だが、そんなことなんて、一樹にはお見通しなのだ。 「強がってもとーちゃんはよく解っているぞ」 一樹にからかわれて、月子は思わず唇を尖らせてしまった。 「月子、ホワイトディにデートしないか? 科学館のプラネタリウムで良い番組をやっていてな。また、宇宙の神秘っていうテーマ展示もやっているらしいぜ」 それを聞くだけで、なんとも魅力的だ。 デートでなくても行きたいと思っているかもしれない。 だが、一樹とのデートだからこそ、もっととっておきのものになる。 「行きたいです」 「そうか。とーちゃんが連れていってやるからな。月子、こういうのは新聞で探すからこそ見つかるネタなんだ」 「確かに」 月子は、一樹とプラネタリウムに行くことが出来るだけで、本当に嬉しくてしょうがなかった。 「プラネタリウムデートが楽しみです」 「月子、俺と逢うのが楽しみなのか? それとも、プラネタリウムに行くほうが楽しみなのか?」 本当に楽しみなのは、一樹と逢うことなのだが、それはわざと言わないでおく。 「プラネタリウムはロマンティックだもの」 「…お前な…」 一樹は、月子の真意なんて見透かしているとばかりに、笑っているようだった。 「じゃあホワイトディの日に、俺と一緒にデートをするか」 「有り難うございます、嬉しいです」 「じゃあ、夕方からがいいな…。プラネタリウムも夜の回があるからな、そのほうが良いだろう?」 「有り難うございます、会長」 一樹とデートでプラネタリウム。 それだけで嬉しくてしょうがないのに、当日は、女の子にとっては大切なホワイトディのデートなのだから。 「じゃあ、また、当日な。土産を渡すよ」 「楽しみにしています、会長」 「ああ。なあ、月子」 「はい」 「会長っていう呼び方はもうそろそろ卒業させたほうが良くないか?」 「え、変ですか?」 月子にとっては“会長”という呼び名が一番なのだが。 「ああ。だって、俺たちは恋人同士なんだからさ、そんな呼び方ははいらない」 恋人同士。そう言われるだけで、何処かくすぐったくなる、 「じゃあ、月子、当日楽しみにしているからな」 「有り難うございます。私も楽しみにしていますね」 「ああ」 電話を切った後で、月子は思わず飛び上がって喜んだ。 大好きなひとと、とびきりのプラネタリウムデート。 月子は今にも踊り出したくなるくらいに嬉しかった。 デート当日、月子は綺麗にお洒落をして、一樹との待ち合わせ場所に向かった。 やはり大好きなひととのデートなのだから、月子は思い切りお洒落をしたかったのだ。 待ち合わせ場所で待っていると、一樹がこちらへとやってくる。 一樹は逢う度に素晴らしくなってゆくと思う。 月子はじっと熱いまなざしを向けてしまう。 「待たせたな」 一樹はそう言うなり、月子の手をギュッと握り締めた。 「やっぱりお前は、とーちゃんの自慢の娘だな」 一樹は相変わらず感慨深げに呟いた。 「だから、父ちゃんがちゃんとしてやるからな」 とーちゃんとばかり言われてしまうと、何だか複雑な気分だ。 一樹は彼氏なのだから。 「私は会長の娘じゃないです」 「そうだったな。俺はお前の彼氏だったな」 クツクツと喉を鳴らして魅力的に笑われると、月子はそれだけで許してしまう。 「月子、今日はとっておきのホワイトディだ。楽しみにしておいてくれ」 「はい」 一樹はどのように素敵なホワイトディをプレゼントしてくれるだろうか。それが楽しみでしょうがなかった。 先ずは科学館で、宇宙の神秘を解く、人工衛星からの贈り物を見る。 「未知なる彗星の砿石を私もいつか研究してみたいです」 「お前なら出来るよ」 大きな手のひらで頭を撫でられて、月子は胸が甘酸っぱくなった。 「さてと、プラネタリウムを見に行くか」 「はい」 しっかりと手を繋いでプラネタリウムへと向かう。 月子は手を繋いだままで、星を仰ぎ見る。 都会ではなかなか見られない星の数々を、大好きなひとと手を繋いで見る。 「月子…」 「え…?」 声を掛けられて、顔を向けると、一樹が一瞬の隙をついてキスをしてきた。 ほんの一瞬のキスにドキドキしながら、月子は星を眺める。 ホワイトディのキスはロマンティックだった。 プラネタリウムから出た後、一樹に連れられて、レストランへと向かう。 本格的なデートコースに、つい笑顔になった。 まだ春といっても肌寒いから温かな食事が嬉しくなる。 一樹の放浪旅の話を聞きながら食事を終えた後、春を感じられる苺のミルフィーユが出て来る。 「美味しそうです」 「ああ。月子…。これ」 一樹はリボンのついた小さな箱を手渡される。 「ホワイトディだ」 こうしてきちんとプレゼントを渡してくれるという気持ちだけで嬉しい。 「有り難うございます! 嬉しいです! 凄く!」 月子は声を弾ませて、真直ぐに一樹を見つめる。 「開けて良いですか?」 「ああ」 月子が箱を開けると、そこには星と月をモチーフにした、ピアスだった。 「可愛い! 有り難う、会長!」 月子が笑顔になると、一樹もまた笑顔になる。 「月子、俺も嬉しい」 一樹はフッと笑うと、月子の瞳を見つめる。 「これから、ピアスやペンダント、ひとつずつお前にアクセサリーをプレゼントしてゆく。いずれは、左手薬指にぴったりな指環を着けるからな」 一樹は月子の左手を取ると、薬指にキスをした。 胸が甘酸っぱい嬉しさに、 「はい…。待っています」 「おう! 待っていてくれ」 月子は幸せいっぱいな気分で微笑む。 信じて待っていられる。 そう感じずにはいられなかった。 |
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