*お正月*


 今年のお正月は、文字通りふたりだけで静かに過ごす。

 来年は家族が増えて、楽しい賑やかさがやってくるのが解っているから。

 月子と琥太郎の実家に行った後は、ふたりきりのお正月。

 特に何かをするというわけではないが、ふたりだけでいられるだけで、楽しくも嬉しくもあった。

「お正月は天体観測にピッタリですよね。空気が澄んでいますから」

「お前は本当に星を見るのが好きだな」

「そうですよ。星は私と琥太郎さんを結び付けてくれたものですから」

「確かにそうだな。だが、風邪を引かないようにしなければならないよ。お前は普通の躰ではないんだからね」

「はい、解っていますよ。お腹の赤ちゃんの為にしっかりと防寒しますよ」

「ああ。そうしてくれ」

 琥太郎は背後から月子をギュッと抱き締めてくれる。

 ふたりで外で天体観測をする時は、いつもこうして背後から包み込んでくれる。

 それが月子には心も躰をほっこりと温めてくれる要素になっている。

「今夜はとても楽しみです。琥太郎さんと一緒に天体観測が出来るんですから。“初天体観測”ですから」

「そうだな」

 愛するひとと温かな時間を思い浮かべながら、月子はついくすりと笑ってしまう。

 お正月は好きだ。

 慌ただしい雰囲気がなくなるから。

 追い立てられるものがなくて、のんびりとした気持ちで過ごすことが出来るから。

「さてと、マズいお茶を淹れてくれるか?」

「マズいって言われても、お茶はとっておきの“大福茶”なんですからね」

「どんなお茶でも渋く淹れられるのは、ある意味天才だと思うけれどな」

「もうっ! 琥太郎さんのバカッ」

 拗ねるように甘えた声で言うと、月子はわざとプイッと横を向く。

「俺の好みはマズいお茶なんだ。やっぱり、怠け者にはマズいお茶がピッタリだろう?」

 琥太郎の言葉に、つい頬を膨らませながらも、ついにんまりと笑ってしまう。

 琥太郎は狡い。

 いつもこうして月子を上手く丸め込んでしまうのだから。

「月子、今夜はふたりで天体観測をしなくちゃならないからな。今のうちにやりたいことをやっておくか。マズいお茶を頼んだ」

「もうー」

 不味いと言いながらも、いつもお茶を飲み干してくれる大好きなひとに感謝しながら、月子はつい笑顔になった。

 

 世の中は、やれ福袋だ、初売りだ、バーゲンだと、大騒ぎになっているが、月子と琥太郎は家でのんびりとしていた。

 人込みが嫌いだということもあるし、折角ののんびりとした温かな気持ちを崩したくはないということもあった。

 やはり人込みにゆくと、それなりに気忙しいものだからだ。

 それに、徐々に大きくなっているお腹を抱えて、デパートやショッピングモールに行くのは、キツいというのもあった。

 巣ごもりをしながら、ふたりでのんびりとする。

「こうしていると、ゆったりとした気分でとても良いですね。赤ちゃんにも良いかも」

「月子にも俺の怠け者癖が移ったか?」

 琥太郎は苦笑いを浮かべながら呟くと、月子の手をギュッと握り締めた。

「きっとお腹の赤ちゃんが影響しているんだと思いますよ。ふたりの子供だから、それぞれの部分を上手く受け継いでいるんですよ」

「そうか…」

「そうですよ」

 琥太郎は、月子のお腹に触れると、蕩けるような幸せに満ちた笑みを浮かべた。

 琥太郎らしい甘い笑みだ。

 こんなにも柔らかくて甘い笑みを、最近はよく見せて貰えるようになった。

 とても綺麗で優しい。

 それだけ琥太郎が、ふたりの生活を幸せに思ってくれているのだと思い、月子は嬉しくなった。

「星が見たいというのも、お前の望みであると同時に、子供の望みなのかもしれないな」

「そうですね。この子が星が大好きなのは、もう決定的ですね」

「恐らくな。高校は今からうちに決まりだろうな」

「そうですね。星にはロマンが沢山ありますから、それを私も教えてあげないといけませんね」

「身近にこんなにも星が好きなひとがいれば、きっとそうなるだろうな」

「はい」

 ふたりきりでのんびり出来るお正月が、もう当分は訪れないから、この優しくて甘い時間を、ふたりは大切にする。

 のんびりとした時間を過ごすことが出来るのは、何よりも贅沢な時間だと、月子は思わずにはいられなかった。

 

 夕食が終わり、いよいよ天体観測だ。

 躰がしっかりと温まるようにと、月子はしょうが湯を準備する。カフェインは飲めないから、こうして温かいお茶を準備した。

「さてと、楽しく天体観測を始めましょう!」

 月子はダウンコートに膝掛けという、かなり防寒には気遣った。

「天体望遠鏡で見るのも好きなんですけれど、やっぱりこうして肉眼で星を眺めるほうが好きなんです。このほうがロマンティックでしょう?」

「やはり、星好きはロマンティストが多いな」

 ある意味リアリストな部分がある琥太郎は、月子を背後から抱き締めながら、囁く。

「だけど、琥太郎さんも充分過ぎるぐらいにロマンティストですよ?」

「俺が?」

「いつも私を素敵に甘やかせてくれるから」

「そうか?」

「そうですよ」

 月子はくすりと微笑みながら、琥太郎の手を握り締める。

「だって、ロマンティストじゃないひとが、こんなにもロマンティックな気分を味合わせてくれないですから」

 月子の言葉に、琥太郎は落ち着いた笑みをフッと浮かべた。

「綺麗ですね。やっぱり、お正月の星は特別な気がします」

「確かにな。空気が澄んでいるから、美しくクリアに星が見られる」

「そうですね」

 月子はしみじみと言いながら、同じように視線を合わせた。

「赤ちゃんも、この星の美しさを覚えてくれているでしょうか?」

「ああ。きっと覚えていると思うぞ」

「はい。お腹の中にいても、親子三人で星を眺めているんですね…。何だか、素敵な気持ちになりました」

「そうだな」

 琥太郎は更に月子の躰を自分に密着させるかのように抱き締めてくれる。

 こうして抱き締められていると、しっかりと守られているような気がして安心した。

 とても穏やかな気持ちになる。

「月子、眠るなよ? 眠くなったら、部屋に戻るからな」

「はい。風邪は大敵ですからね」

「そうだ。特にお前はな」

 琥太郎は更に月子を温めるとばかりに、ギュッと躰を抱き締めてくれた。

「毎年、お正月は、家族で天体観測が出来たら良いですね。お正月の恒例行事で」

「そうだな…。きっと、かなり賑やかな天体観測になるんだろうな」

「はい」

 想像するだけで本当に温かくなる。

 温かな時間を、今度は家族で重ねていくのだろうと、月子は思う。

 温かくて、そして何よりもの幸せな時間だ。

 ふと琥太郎は月子の唇にキスをしてくる。

 星を見ながら、もう数えきられないぐらいにキスをした。

 こうして星を見ながらキスをしていると、なんて幸せなのだろうかと、月子は思わずにはいられなかった。

 何度も、何度もキスをして、いつの間にか天体観測ではなくなる。

 息が乱れるぐらいに何度もキスをした後、ふたりはお互いを情熱的に見つめあった。

「こうして星を見ながらキスをするのは、これからはコソコソとしなければならないな。流石に、子供の前で、お前を抱き上げて連れ去るなんて出来ないからな」

 琥太郎は幸せに満ちた笑みを浮かべると、月子をしっかりと抱き上げる。

「天体観測はこれまでだ。風邪を引いてしまうから、お前を温めなければならないからな」

「はい」

 琥太郎はそのまま月子を寝室へと運んだ。





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