*成人の日*


 月子もようやく成人式を迎えられた。

 これでようやく琥太郎と同じ、大人の仲間入りということになる。

 早く、対等に寄り添える関係になりたかったから、月子には何よりも嬉しいことだった。

 成人式の後は、琥太郎とお祝いすることになっているから、月子はそれが楽しみだった。

 そのためにも、綺麗な振袖姿を見せたいと思い、月子は気合いを入れて美容室へと向かった。

 琥太郎はとても素敵な雰囲気を持っているから、それに合うように、一生懸命、綺麗になりたかった。

 早く琥太郎と釣り合うような女性になりたい。

 それが、月子の願いだ。

 美容室で成人式の一連の支度をして貰う。

 美容室は、琥太郎の姉である琥春が紹介してくれた。

 とてもセンスが良く、綺麗にしてくれるという評判だったから、月子も楽しみだった。

 結果。

 月子は誰よりも美しくして貰い、このような姿で琥太郎の所に行ったら、詐欺だと思われるかもしれないと思った。

 それぐらいに綺麗にして貰えたのだ。

 先ずは幼馴染みたちと、近くの公会堂での成人式に参加する。

 幼馴染みたちは、月子をガードするように座ってくれたが、何処か照れ臭そうにしていた。

 羊までがそうしていたので、月子は何だか居心地が悪かった。

 式典が終わり、が月子を見て言う。

「琥太郎先生に引き渡すまでは、ちゃんと守らないとね」

「有り難う」

 幼馴染みに感謝をしながら、月子は琥太郎を待つ。

 するとスマートにスーツを着こなした琥太郎が、月子に向かってやってきた。

 月子の姿を見るなり、柔らかな微笑みを浮かべたが、直ぐに何処か複雑な表情になった。

「月子」

「琥太郎さん、お迎え有り難うございます」

 月子が屈託なく笑うと、琥太郎は手を差し延べるなり、しっかりと小さな手を握り締めてきた。

「お前たち有り難うな」

 月子の幼馴染みたちに礼を言うと、月子をエスコートするように駐車場に向かって連れていってくれる。

「有り難うございます、琥太郎さん」

「ああ」

 琥太郎は月子の晴れ姿を余り見ようとはせずに、そのまま車へとエスコートしてくれる。

 綺麗だとか、褒めてくれることを期待していたのに、全くそんなことはなかった。

 それが切ない。

 琥春に訊いて良い美容室を紹介して貰ったのは、琥太郎に綺麗だと思って貰いたいから。綺麗だと言って欲しいのに他ならない。

 月子はほんの少し寂しい気持ちになりながら、助手席に乗り込んだ。

「今日は晴れて良かったな。着物も汚れないからちょうど良いな」

「そうですね」

 折角、一生懸命綺麗にしているのだから。

 暫く、車が走ったところで、突然、車が海岸付近の停車スペースで停まった。

 するといきなり月子のシートベルトが外されて、琥太郎に思い切り抱き締められる。

 そのまま欲情の滲んだ激しいキスが、月子の唇を奪った。

 荒々しいキスに、月子は頭の中がくらくらしてしまうのではないかと思うぐらいに、感じていた。

 こんなに激しいキスは、なかなかないと月子は思う。

 琥太郎に捕まっているように、しっかりとその躰を抱き締めた。

 息が出来なくなっても構わないぐらいのキスを、何度も交わす。

 ようやくキスが終わると、熱を帯びたまなざしを月子に向けてきた。

 熱で潤んだ瞳を、月子自身も向ける。

「…月子…。お前は綺麗過ぎるんだ…。このままお前を奪い去ってしまいそうになる…」

 しっかりと強く情熱的に抱き締められて、月子は酔っ払ってしまいそうなぐらいに、幸せな気持ちになった。

「…今日のお前は本当に綺麗で…誰にも渡したくも、見せたくもないんだ…」

「琥太郎さん…」

 月子に甘えるように、今度は抱き着いてきた。

「本当に綺麗だ…」

 琥太郎は、月子の頬を意味ありげに撫でながら、じっと見つめてきた。

「俺より先に、綺麗なお前を他の男が見るなんて、俺には耐えられないことだ…」

 琥太郎は苦しげに言うと、月子に再び荒々しいキスをしてくれた。

 もう息が続かないと思われるぐらいにキスをした後、琥太郎は抱き寄せた。

「…お前には節度のある行動をしなければならないと、ずっと思ってはいたが…、今日のお前は綺麗過ぎて、無理だ…」

 琥太郎は息を乱しながら、それでも艶やかにロマンティックに呟いた。

「…有り難うございます…。私がこの姿を見せたいのは、琥太郎さんだけです…」

 月子は正直な気持ちをはにかみながら言うと、上目遣いで琥太郎を見つめる。

 すると琥太郎の瞳の周りが紅くなり、月子を思い切り抱き締めてきた。

「お前は可愛い過ぎる…」

 琥太郎は甘く掠れた声で呟くと、月子の耳の下にそっと口づけた。

「折角、お前が綺麗にしたのに、乱してはいけないな。近くの神社にでも行って写真を撮るか。姉さんには“お花ちゃんの写真を送ってね”と言われているからな。最近の携帯電話は性能が良いから、ここから送るか。それに俺たちのアルバムにも必要な写真だからな」

「はい」

 月子は嬉しくてつい笑顔になる。

 琥太郎との写真は、月子にとっては大切にで堪らないものだから。

「神社に行くか」

「はい」

 琥太郎は再び車を発進させると、近くにある神社に向かった。

「成人式ドライブって良いですね」

「そうだな。一生に一度だからな」

「はい。一生に一度のドライブを琥太郎さんと一緒に出来て嬉しいです」

 特別なドライブ。

 琥太郎となら、どんな瞬間でも特別には違いないのだが、今日は更にそれにスペシャルが付くぐらいにスペシャルなのだ。

「お前は、また襲って下さいと言わんばかりに、可愛いことを言うな…。本当にどうなっても知らないぞ」

 琥太郎は何処か冗談めかして言うと、月子の手をしっかりと包む。

「どうなっても良いですよ。琥太郎さんとなら」

 月子がくすくすと笑いながら言うと、琥太郎が困ったような笑みを浮かべたのは言うまでもなかった。

 

 琥太郎は近くの神社の駐車場に車を停めると、振り袖姿の月子の手を取ってエスコートをしてくれる。

 境内まで手を繋いで歩いていると、何だかふわふわとした幸せに包まれる。

 何だか琥太郎のお嫁さんになったみたいで、嬉しかった。

「このあたりで一枚写真を撮っておくか。姉さんに送る分」

 琥太郎は月子に、蕾がまだ固い梅の木の下に立ちように指示をした。

「琥太郎さんは良いの?」

「俺は良い。姉さんからも、“写真はお花ちゃんだけにしてね。琥太郎、あなたはいらないから”って言われたからな」

「琥春さんらしい」

「ああ。姉さんらしい」

 琥太郎は苦笑いを浮かべながらも、何処か優しい瞳で頷いた。

 きっと琥太郎は姉のことを思い出して、温かな気持ちになったのだろう。

 ふたりの付き合いを全面的に応援してくれているから。

 琥太郎は、月子が通っていた高校の保健医であり、理事長でもあるから、モラル上は許されなかったかもしれない。

 だが、ふたりの恋が本物だと解っていたからこそ、誰もが応援してくれたのだ。

 本当に有り難い。

「お前の写真は完了、送信よし」

 琥太郎は携帯電話から琥春に写真を送った後、今度は自分自身のデジタルカメラを構える。

 月子単独で何枚も写真を撮ってくれている。

「琥太郎さん、一緒に撮りましょう」

 月子が声を掛けると、神社の氏子がやってきてくれて、カメラマンを買って出てくれた。

 ふたりして最高の微笑みを浮かべる。

「はい、いきます!」

 デジタルカメラにはとっておきの想い出がまた刻まれた。





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