*スターロードふたたび*


 最後の星月祭。

 生徒会の副会長としての仕事も、クラスの仕事も終えて、月子は保健室へと向かう。

 目的は大好きなひとと、スターロードを歩く為だ。

 公にしてはならない秘密の恋。

 相手は、月子の通う高校の保健医であり、理事長でもあるひと。

 だから表立ったことは出来ないけれども、それでも保健係としてそばにいられるのはとても嬉しかった。

 デートも極力しない、こっそりとお互いの大切な日にお祝いしたりすることしか出来ない秘密の恋。

 それでも心が通じているのが解っているから幸せだ。

 今日も、星月祭のスターロードを視察すると称して、ふたりで見に行く約束をしているのだ。

「失礼します」

 月子が保健室に入ると、そこには大好きな琥太郎と、そして大好きな琥太郎の姉である、琥春がいた。

「お花ちゃん、お久し振り」

「琥春さん! こんにちは!」

 月子は琥春に逢えたことが嬉しくて、思わず満面の笑顔を浮かべた。

「琥春さんにお逢い出来て嬉しいです」

「ふふ、有り難う。琥太郎がちゃんと仕事をしているのかを監視に来たのよ。相変わらず、お花ちゃんには掃除の面でかなり迷惑をかけているようだからね」

「ほっとけ」

 琥太郎がムスッとした声で反論しているのが聞こえる。

 月子はついくすりと笑ってしまった。

「それと星月祭も見に来たかったのよ。お花ちゃんは大活躍だったようね」

「楽しかったですよ」

「それは良かったわ。このひとは少しむくれてたみたいだけれどね? お花ちゃんが保健室を他の生徒さんにお任せをしていたから。副会長や幼馴染みの子たちと、忙しく楽しくしていたから、嫉妬していたのもあるのかもしれないけれどね」

 ちらりと琥太郎を見ると、うっすら瞳を紅くしている。

 とても可愛くて、月子はつい笑ってしまった。

「あなたたち、これから、スターロードに向かうのでしょう? 私も連れて行って貰って良いかしら? 邪魔になるのは解っているんだけれど…」

「どうぞ」

 月子は屈託なく答えることが出来た。

 去年ならば、きっと素直にイエスと言えなかったかもしれない。

 だが、スターロードを渡らなくても、自分達の絆は強いということを解っているから、大丈夫なのだ。

「ロマンティックなジンクスがあるのよね。スターロードを歩いたカップルは永遠に結ばれて別れない…」

「はい。だけど私たちは大丈夫ですから」

 月子は笑顔でキッパリと力強く言う。

 すると琥春は本当に嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「お花ちゃんは強いわね。流石は私が見込んだ女の子だわ」

「有り難うございます」

 琥春に認められるのはとても嬉しくて、月子は更に笑顔になった。

 保健室に賑やかな足音が聞こえてくる。

 担任の陽日と郁だろう。

 ふたりの漫才な会話が聞こえてきた。

「水嶋先生、来ていらっしゃるんですか?」

「郁は私が呼び出したのよ。皆でスターロードを渡りましょうって。それにあの子、琥太郎に書類の提出があったみたいだし。春からここの教員になるから、色々と準備しなければならないから」

「そうですね」

 春からは水嶋もこの学園の教師となる。

 月子は卒業してしまい、もう教わることはないのだが、恐らくはとても良い教師になるだろう。

 それは月子にも充分解っている。

「こんにちは、琥春さん、琥太にぃ」

 郁は相変わらずだが、尖った部分が綺麗に取れたように思う。

「月子ちゃん、久し振りだね。それと、この面子が保健室に集まるなんて、何だか懐かしいよ」

 郁もまた楽しそうに笑みを浮かべる。

「そうだなあ、夜久。皆でわいわいやるのも楽しいからな」

「ったく…」

 琥太郎は呆れ返るように溜め息を吐いたが、その瞳は笑っていた。

 甘い笑みに月子もまた琥太郎に笑みを向ける。

「さてと、皆で、スターロードに向かいましょうか」

「そうだな…」

 琥太郎は椅子からゆっくりと立ち上がる。そのゆったりとした立ち上がり方に、月子はまたドキドキしてしまった。

「夜久、行くぞ」

「はい」

 去年は、琥太郎とふたりで潜ったスターロード。

 あの時に、琥太郎に恋をしていると自覚したのだ。

 想い出のスターロード。

 今年もそれを大好きなひとと潜れるのだ。

 それだけで嬉しいです。

 心を重ねている者同士が潜れば、ずっと一緒にいられるのは解っているから。

「私もお花ちゃんと一緒にスターロードを潜れるのを楽しみにしているわよ」

「はい」

 月子も琥春と一緒に潜れるのが楽しみだった。

 琥春やここにいる陽日や郁も、月子にとっては、琥太郎とのことを応援してくれるかけがえのないひとたちだからだ。

「じゃあ行きましょう」

 沢山の大人たちに囲まれて、月子はスターロードへと向かう。

 ただしちゃっかりと琥太郎の横はキープしている。

 みんなで並んで歩くが、やはり大好きなひとと歩きたかった。

 スターロードまで来ると、その見事なまでのイルミネーションの美しさに、琥春が感嘆の声を上げる。

「まあ! これが名物のスターロードね! なんて美しいの!」

 琥春は瞳を輝かせている。

 街を彩るイルミネーションよりも美しい。いやそれ以上だと、星月学園の生徒たちは思っているだろう。月子にとってはこれが自慢だった。生徒会が管理をしているから、余計だと思う。

「はい。だからロマンティックな気分に浸れるんですよ」

「解るわー! だけどこんなロマンティックー野郎ばかりのムサい学園で、どうして伝統になったのかしらねー」

「姉さん、ムサい、ムサい、は余計だ」

「琥太郎、二回は言っていないわよ。あなたはそばにお花ちゃんがいるから、ムサいとは感じないでしょうが」

 琥春の言葉に、月子がつい真っ赤になってしまう。

「さて、渡りましょうか。郁、あなたは後ろ。私が前。陽日先生は、琥太郎の横。そして、幼馴染み君たちがお花ちゃんの横。皆、さりげなくね」

 なんと。

 二人をこっそりと応援してくれているひとたちが、間を固めてくれている。

 さり気なく、あくまでさり気なくだ。

「これで手ぐらいは繋げるでしょう? お花ちゃん」

 琥春がにっこりと笑ってくれ、月子は嬉しくて泣きそうになった。

 こんなにも温かく応援をしてくれているひとたちがいる。

 それだけでも自分達の恋はなんて幸せなのだろうかと思った。

 泣きそうになる。

「有り難うございます」

 涙ぐんで礼を言うと、琥太郎がさり気なく手を握ってくれた。

 制服と白衣。

 この姿でこうして手を繋いで堂々とスターロードを歩けるなんて、思いもよらなかった。

 月子は幸せで、泣き笑いの表情を浮かべる。

「泣くな…」

「嬉しいんです」

「俺もな」

 誰にも気付かれないように手を繋いで、ふたりでスターロードを歩く。

 この夢のような時間を叶えてくれた琥春たちに、月子はいくら感謝をしてもしきれないと思う。

「お花ちゃんが可愛くて素直だからよ。だから、今日だけは特別だからね」

「有り難うございます」

 こうして大好きなひとたちに囲まれて、スターロードを歩けるなんて、どれだけ幸せ者だろうかと思う。

 月子は愛するひとに、そして大好きな支えてくれているひとたちに、心からの感謝をする。

 琥太郎と付き合うようになってからの、初めてのスターロード。

 絶対に忘れない。

 月子は強く思いながら、総てのひとに感謝をする。

 本当に素敵な、学園生活最後のスターロードだった。





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