今日は星月祭。 大学生になり、月子は遊びに来た。 天羽の発明を見に来つつ、月子はのんびりと楽しむ。 在校生だった頃は走り回っていて、充分に楽しむことが出来なかったから、初めて回るのも同然だった。 だが、初めて回る星月祭はとても新鮮だ。 大好きなひとは、食べ過ぎた生徒や怪我をした生徒の為に待機をしているから、一緒には回れない。 だから模擬店で幾つか食べ物を買って、保健室に向かった。 今日は、大好きなひとに綺麗だと思われたくて、月子は綺麗めのワンピースを着て、髪は下ろして巻いてきた。 生徒だった時と同じように、月子は保健室の扉をノックする。 「失礼します」 「どうぞ」 琥太郎の相変わらずやる気のなさそうな声に、くすりと笑いながら、月子は扉を開けて、保健室に入った。 「星月先生、ご苦労様です」 月子が声を掛けると、琥太郎は優しい微笑みを浮かべて振り返った。 「月子…」 「琥太郎さんのことだから、どうせ、お昼ご飯は未だですよね」 月子は微笑むと、サイドの机に食べ物を置いた。 相変わらず保健室は、琥太郎の私物で溢れかえっている状況で、月子は懐かしくてつい笑みを浮かべる。 「琥太郎さん、また汚したんですか?」 「ああ。よく掃除をしてくれる保健係が卒業したからな」 「しょうがありませんね。食べたら片付けます」 「悪いな。だが、良いのか? 星月祭を楽しみに来たんだろう?」 「確かにそうなんですけれどね。ですが一番の目的は目の前にいる先生ですから」 足音が聞こえる。とても馴染み深い足音。それもふたつ。 ひとつはバタバタ、そしてもうひとつはスマートに聞こえる。 それが月子にはとても嬉しかった。 懐かしくて温かいあのひとたちだ。 「琥太郎センセ、少し休憩させて!」 「琥太にぃ、僕もブレイク」 それぞれ新しい生徒たちを受け持っている、陽日と郁がやってきた。 相変わらず三人で漫才のように保健室でたむろしているようだ。 それがとても懐かしくて嬉しい。 「あれ! 夜久!」 「月子ちゃん!」 「お久し振りです、陽日先生、水嶋先生」 月子が笑顔で挨拶をすると、ふたりとも懐かしそうに嬉しそうな笑みを浮かべる。 ふたりとも、琥太郎と月子の障害のある恋をずっと応援してくれていたのだ。 とても嬉しくて幸せな再会だった。 「星月祭に来るとは聞いていたが、やっぱり最初は保健室なんだな」 陽日は当てられるとばかりの笑顔を向けてくる。 「それは当然でしょ? 先ずは元担任や元教育実習生よりは、やっぱり恋人でしょう」 郁はさらりと言いながらも、月子を温かなまなざしで見守ってくれた。 「当然だろう?」 琥太郎は当たり前だとばかりに言うのが、何だか照れ臭くて嬉しかった。 「お茶淹れますね」 「月子、久し振りにマズいお茶を淹れてくれ」 「解りました」 月子は苦笑いを浮かべながらお茶を淹れる。 何だか高校生の頃に戻ったみたいで、月子は懐かしい気分になった。 相変わらずお茶を淹れるのは上手くならないけれど、それでもこうして皆でお茶を飲むのが嬉しかった。 「どうぞ」 月子がお茶を出すと、三人ともお茶を飲む。 「マズっ!」 「うーっ、マズいっ!」 陽日も、郁も、異口同音で言うものだから、月子はほんの少しではあるが拗ねたくなった。 「本当にマズいなあ」 琥太郎がしみじみと言うものだから、月子は拗ねたくなった。 だが懐かしい。 皆で、食べ物をつまみながら話をする。 特に陽日や郁とは久し振りだったから、つい話が弾んだ。 とても楽しくて、色々と話をする。 ふたりも時間が許す限りに付き合ってくれた。 ふたりが生徒の見回りの為に保健室を出ていった後、月子は机を見る。 「さてと久し振りに片付けをしなくちゃ」 月子が立ち上がると同時に、琥太郎に思い切り腕を取られた。 「…え…?」 そのまま腕の中に引き寄せられたかと思うと、琥太郎は深々とキスをしてきた。 「んんっ…」 深いキスに、月子は琥太郎がほんのりと嫉妬しているのが解った。 強く抱き寄せられて、月子は恋人として、女としての優越感を感じる。 月子は、琥太郎の中で、世界一の女性でありたいと常に思っている。 こうして世界一であることを感じられて、こんなに嬉しいことはないと思った。 大好きなひとにここまで愛されるのは幸せ。 だから、それに相応しい女にならなければならないと、強く思った。 大好きなひとに一番愛されている女になりたい。 月子はそう思いながら、琥太郎を抱き締めた。 唇から離れた後、“大人のキス”に、月子は酔っ払いそうになりながら、琥太郎を見つめる。 「…琥太郎さん、ここは保健室だよ…」 窘めるように言いながらも、月子はときめいて潤んだ瞳を向けた。 「お前がそんな瞳を向けるからだ…」 琥太郎は苦笑いを浮かべると、月子を見つめる。 「他の男と楽しそうにしていると、ついお前を独り占めしたくなるんだ」 照れ臭そうに琥太郎は言いながら、月子をしっかりと抱き締めてくれる。 それが嬉しい。 「琥太郎さん、また、賑やかな子たちがいっぱいやって来ますよ」 「そうだな」 しょうがないとばかりに、琥太郎は月子から離れた。 卒業してから半年を過ぎたばかりだから、保健室でのキスはまだまだ罪の芳醇な味がした。 「琥太郎さん、陽が落ちてきたら、スターロードに行きましょうね。物凄く楽しみに来たんですよ」 月子は目を細めるようにして笑うと、大好きな琥太郎を見た。 「今年はようやく堂々と歩けるからな。スターロード」 「はい。だけど、皆にからかわれてしまいそうですが」 「そうだな…」 琥太郎はつい苦笑いを浮かべると、もう一度、月子にキスをした。 甘い、甘いキスを。 月子は、保健係の頃と同じように、琥太郎が仕事をするのを眺める。 それだけで幸せ。 隠れて付き合っていた頃に比べると、今は堂々と様々なことが出来る。 だが、コソコソと付き合っていた頃も、いつも一緒にいられたから幸せだった。 月子は何だか懐かしい温かな気持ちになった。 「月子、行くか」 「はい」 琥太郎は保健室を出て、月子はその横を歩く。 校舎内だからふたりは手を繋いで歩くのを自重した。 スターロードに出ると、今年は更に素晴らしい装飾が施されていて、月子は思わず見惚れてしまう。 「今年は更に綺麗ですね」 「ああ。天羽が頑張ったからな」 「何だか嬉しいです」 月子はくすりと笑うと、琥太郎を見上げた。 「琥太郎さんは、やっぱり白衣なんですね」 「嫌か…?」 「いいえ」 月子は幸せな気分で返事をすると、琥太郎に寄り添った。 ふたりはさり気なく手を繋いで、スターロードを歩いていく。 「こうして琥太郎さんと一緒に、ふたりきりでスターロードを歩くのが、ずっと夢だったんです」 「そうか…」 琥太郎は握り締める手を、もっと強く握り締めてくれて、月子に微笑んでくれた。 大人の男性の甘い笑み。 月子はついうっとりとしてしまう。 こうして夢のように美しいスターロードを歩きながら、月子は幸せを感じずにはいられない。 本当に幸せでしょうがない。 「嬉しそうだな」 「はい。私たちも伝説通りにずっと幸せだってことを、示して行きましょうね」 「そうだな」 ふたりは笑みを重ねると、甘い甘い想いと幸せを重ねあった。 伝説は必ず叶うから。 |