*恋するヴァレンタイン*


 星月学園を卒業してから初めてのバレンタインデー。

 琥太郎とは、ようやく理事長保険医と生徒としての立場から解放された、初めてのバレンタインデーでもある。

 大人のバレンタインデートが出来ると思うだけで、月子は楽しみでドキドキしてしょうがなかった。

 いつもは、琥太郎にばかりデートのリードをして貰っているから、何だか申し訳ないと思ってしまう。

 たまには琥太郎に代わってデートをプラニングしてあげたいと、思う。

 バレンタインデーには。

 月子は、どのようなバレンタインデートならば、琥太郎が喜んでくれるだろうかと、そればかりを考えてしまうのだ。

 月子は様々な雑誌を読んでもピンとこない。

 琥太郎が人込みを余り好ましく思っていないことぐらいは、よく解っているからだ。

 ならば落ち着いた、まったりとした、焼き鳥屋とかはどうだろうかと思う。

 バレンタインデートにしては似つかわしくないデートスポットではあるが、焼き鳥ぐらいのまったり具合がちょうど良いのかもしれないと、月子は思う。

 焼き鳥屋の予約を取った後、やはり星を見たいと思ってしまう。

 星が最高に見られる場所と言えば、やはり、琥太郎に教えて貰った、あの海岸しかなかった。

 免許を取ったばかりだが、ドライブがてら行ってみようと思った。

 お膳立てが出来たところで、月子は琥太郎に電話をしてみることにした。

 デートの誘いをこちらからするなんて、ドキドキしてしょうがない。

 いつもは琥太郎が甘やかせてくれているから。

 月子は、琥太郎に電話を入れる。

「月子です。琥太郎さん」

「月子、寂しくて俺に逢いたかったか?」

「逢いたいですよ、私はいつも」

「全く…、お前は」

 琥太郎は満更でもないとばかりに、苦笑いを浮かべた。

「琥太郎さん、バレンタインデーの夜に逢いたいです」

「解った。俺もお前に逢いたいと思っているからな」

 しみじみ言うと、琥太郎は、甘い溜め息を電話越しに吐いた。

「バレンタインは空けておこう」

「有り難うございます。私もとても楽しみにしていますね」

「ああ」

 月子は携帯電話を切ると、ほっこりとした幸せな気持ちになる。

 気合いを入れて、バレンタインデートの準備をしなければならなかった。

 バレンタインのチョコレートは、アルコールが一切入っていないものを選んだ。

 チョコレートだけでも楽しんで貰えるようにと、綺麗で美味しそうなチョコレートを買った。

 出来るだけ癒しの時間を持って欲しいからだ。

 後は琥太郎に当日は車に乗ってきてはいけないことを伝えなければならない。

 電話でこのことを伝えることにした。

 しかし、琥太郎は月子の車の運転を嫌がった。

「お前の運転は危なっかしいからな。駄目だ。それだけは許してはやれないから。月子、行きたい所を言ってくれ」

 琥太郎が余りにも嫌がるものだから、月子も受け入れるしかなかった。

「解りました…」

 琥太郎は、人一倍、月子が絡むと心配性になってしまう。

 それはもうしょうがないと、月子は思わずにはいられなかった。

「でしたら当日にプランをお伝えしたら良いですか?」

「ああ。それで構わない」

「有り難うございます」

 琥太郎との大切な秘密の場所に行くのだから、当日までは言わないほうが良い。

 月子はそう思った。

 

 いよいよバレンタインデー。

 月子は思い切り綺麗になりたくて、まだ覚えたての化粧を念入りにする。

 髪も綺麗に大人っぽくし、ワンピースも大人の可愛らしさを出すようにする。

 琥太郎だけに綺麗だと言われたい。

 月子の願いはそれだけだ。

 琥太郎を愛しているから、誰よりも綺麗だと思って貰いたかった。

 琥太郎が車で迎えにきてくれる。

 バレンタインデートだから、本当は月子自身が迎えに行きたかった。

 だが、それは琥太郎が許してはくれないのだ。

 琥太郎の車が静かにやってくる。車から降りると、鮮やかに月子をエスコートしてくれた。

 こうしているとまるで、琥太郎が総てにおいてエスコートしてくれているような気がする。

「…月子、何処まで車を出せば良いんだ?」

「あの、この焼き鳥屋さんに」

 月子が地図を渡すと、琥太郎は大体の位置が解ったようで、頷いてくれた。

 先ずは琥太郎を焼き鳥屋にエスコートする。

 琥太郎は直ぐに気に入ってくれたようで、甘い笑みを滲ませてくれた。

「俺の好みをよく解っているな。よく出来た彼女だな」

「私も焼き鳥は好きですから」

 月子がはにかむように笑うと、琥太郎もまた柔らかな笑みを浮かべてくれた。

 焼き鳥はかなり美味しくて、月子も琥太郎も何本も頂いた。

 二人とも飲まないので、ご飯を頼んだが、それがまた美味しかった。

 甘さはふたりきりの時にたっぷりと味わうことが出来るから、月子は今のアットホームな雰囲気を大切にしたかった。

「…月子、有り難うな」

「え?」

「俺の好みに合わせてくれて」

「琥太郎さんの好みは私の好みですから」

「有り難う」

 琥太郎は静かに呟くと、月子の手をそっと握り締めた。

 

 しめの鳥スープまでしっかりと堪能した後、ふたりは店を出た。

 月子は、代金は自分で出すつもりではあったが、琥太郎が「殆ど稼ぎのないお前に出させる訳にはいかない」と、殆どを出してくれたのだ。

 これには本当に嬉しかった。

 車に戻って、琥太郎が訊いてくる。

「さて、次は何処に行くんだ?」

「…あの…、海岸に行って星を見に行きたいです」

「解った」

 どの海岸であるかは、琥太郎は直ぐに解ったようで、ふたりの想い出の海岸へと向かう。

 あの海岸に行けば、びっくりするぐらいに美しい星を見ることが出来るから。

 月子もお気に入りの海岸だった。

 車を海岸近くのパーキングに停めて、手を繋いで海岸へと出る。

 ふとイタズラ心が出て、月子は琥太郎のポケットにチョコレートを入れる。

 生徒会でバレンタイン争奪戦をした時に、一樹が隠したのと同じだ。

 海岸について、ふたりは腰を下ろす。

 とは言っても横並びではなく、縦並びに腰を下ろす。

 こうして座ると、琥太郎が背後からしっかりと抱き締めてくれるのだ。

 その抱擁の強さが月子には幸せだった。

 琥太郎はクスリと笑うと、コートのポケットからチョコレートを取り出す。

「チョコレート、有り難うな、月子」

 琥太郎は甘い声で呟くと、月子の首筋に唇を押し当てながら、更に躰を引き寄せてくる。

 力強く抱き締められて、月子は息を乱した。

「不知火が俺の白衣にチョコレートを隠したのを思い出したよ」

「そんなこともありましたね」

「お前がくれた本命チョコレートが反対側のポケットに入っていたから、びっくりしたけれどな」

 懐かしい想い出にふたりはくすりと笑う。

 こうしていると安心するのと同時に、ドキドキしてしまう。

 なんてロマンティックなのだろうかと思わずにはいられなかった。

「琥太郎さん、バレンタインプレゼントですよ」

 月子は琥太郎にバレンタインプレゼントをそっと手渡す。

「有り難う。ホワイトデーは奮発しないとな」

 琥太郎は月子を抱き締めて、思い切り抱き締めてくる。

 そのままバレンタインチョコレートよりも甘いキスを月子にくれた。

 甘過ぎて、ついうっとりとしてしまう。

 こんなにも甘いキスは他にはない。

 唇を重ねながら、天体観測すら忘れてしまう。

 ふたりはしっかりと抱き合いながら、バレンタインの甘い味に酔い痴れていた。





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