決戦のバレンタインディの後は、乙女にとってはドキドキのホワイトディがやってくる。 大好きなひとがどのような愛を見せてくれるのかが、楽しみであり不安になる。 ホワイトディは、今年度の決算時期にあたるから、琥太郎はかなり忙しい。 元より、ホワイトディなんてないものと思ったほうが良い状態なのだ。 だから毎年、月子は期待なんてしてはいない。 琥太郎のことを一番解っているという自負があるから。 一生懸命に学園や生徒の為に頑張ってくれているのを、充分過ぎるぐらいに解っているから、我が儘を言うよりも、感謝が大きかった。 ホワイトディ以外のイベントや記念日は、きちんと祝ってくれるから、月子はそれだけでも充分なぐらいに満足をしていた。 だからこそ、ホワイトディなんて無くても良いといった気分になれるのだが、今年もまた、デートの約束をしてくれた。 それが嬉しくて、月子はいつも以上に綺麗にしてゆく。 琥太郎が月子の家の近くまで迎えに来てくれる。 いつもながらとても大切にしてくれる。 琥太郎と付き合う期間が長くなれば長くなるほどに、もっともっと好きになる。 好きで好きでしょうがなくなる。 今日も、好きだという感情が心から飛び出してしまい、ドキドキし過ぎて熊のように落ち着かない。 月子は、浅い呼吸をしながら、琥太郎が来るのを待つ。 春の足音が聞こえているとはいえ、まだまだ肌寒い季節だから、月子は頬を真っ赤にさせた。 琥太郎の車が見えてくる。思わず爪先立ちをして、その到着を待ってしまう。 蕾が膨らみ始めた桜と同じように白い頬を真っ赤に染めて。 車がゆっくりと月子の前に停まる。 「待たせたな」 琥太郎はいつものように車から降りて、わざわざ助手席のドアを開けて、エスコートをしてくれる。 「有り難う、琥太郎さん」 嬉しくて月子はつい紅潮した頬を緩ませてしまう。 助手席に乗り込むと、琥太郎は直ぐに車を出してくれる。 ドライブデートは、ふたりの中では定番になりつつある。 「定番のデートスポットは人込みが凄そうだからな。ちょっと静かな所にしよう。まあ、お前が喜びそうな場所は、静かなところが多いから助かる」 「そうですね。私は星が綺麗に見えるところが一番ですけれど、本当は、琥太郎さんがいれば何処でも良いんですよ」 月子はごく自然に恋心を呟くと、琥太郎にはにかんだ笑顔を向けた。 「ったく、お前は…。そんなに素直に可愛いことを言うな」 琥太郎は照れて困り切っているとばかりに苦笑いを浮かべると、月子を見つめた。 「どうして?」 「運転中にお前を抱き締めて、キスをしたくなる」 「あ、あの…」 琥太郎のストレートで恋心が滲んだ言葉に、月子は耳たぶまで真っ赤にしながら、俯いた。 我ながら大胆なことを言ってしまったのかもしれない。 「だってずっとそう思っていますから…。だって…、琥太郎さんのそばにいられることが、私には一番嬉しいことなんですから…」 「知ってる。俺もだからな」 琥太郎は甘さが滲んだ声で言うと、いきなり月子の頬にキスをしてきた。 「もっとこうしたいが、目的地に着くまでは拙いからな」 「そうですね」 月子もそれには同意をせずにはいられなかった。 琥太郎がたまに膝の上に置いた手をギュッと握り締めてくれるわ こうしてただ一部でも触れているだけで、月子は琥太郎を近くに感じられて、嬉しくなった。 ふたりの体温が上手くブレンドをされているような気分になり、嬉しかった。 「月子、もうすぐだ」 「はい」 星が美しく見える場所は、都会から離れていることが多い。 だからそれなりにドライブが楽しめたりするのだが、今日も結構なドライブをした。 車はゆっくりと駐車場に停まり、琥太郎は月子をエスコートしてくれる。 「空気が美味しい!」 星が好きで、自然が好きで、ロマンティックが大好きな月子のために、琥太郎はいつも素晴らしい場所に連れていってくれる。 「月子、こっちにとっておきの場所があるんだ。行こう」 「はい」 車から降りて、ふたりは手を繋いで歩く。 郊外に来ると、やはり少し寒い。 ホワイトディだからと張り切って春らしいスタイルにしてきたのだが、折角のお洒落も台無しになってしまうぐらいに肌寒い。 ただ、琥太郎がしっかりと手を結んでくれていたから、それほど寒さは感じなかった。 「こっちなんだ。綺麗な花が咲いている。もう、春なんだって思うぞ」 「わあ!」 目の前に広がるのは、素晴らしい菜の花畑だった。 春特有の、太陽がほんのりと恥ずかしがっているような優しい戸惑いの光を浴びて、菜の花たちは生を謳歌してスウィングしているように見えた。 「可愛らしくて! 綺麗!」 月子は夢中になって菜の花を見つめる。 素朴だけれども、可愛らしさと美しさ、そして大地に根差す力強さを感じずにはいられなかった。 「…菜の花って、可愛いのに力強いですね…」 「まるでお前みたいだろ?」 琥太郎の真直ぐ投げ掛けてくる言葉に、月子はドキリと甘く心を弾ませる。 「とは言っても、お前は様々な花に例えることが出来るからな。桜にも、薔薇にも、向日葵にも、秋桜にも…」 琥太郎の声はとても温かくて優しくて、言葉だけで充分過ぎるぐらいに素敵なプレゼントになる。 月子はつい笑みを浮かべた。 「有り難う、琥太郎さん」 嬉しすぎてつい瞳が潤んでしまい、月子は感きわまった笑みを浮かべた。 琥太郎は月子を胸に強く抱き締めてくれる。 月子もまた甘えるように琥太郎に抱き着いた。 「最高のホワイトディです」 「お前にそう言って貰えると嬉しいが、ホワイトディは始まったばかりだからな」 「はい」 琥太郎は月子の瞳を射抜くように見つめてきた後、唇を重ねてくる。 深く、深くキスをして、お互いの想いを伝え合う。 恋情が昇華されたキスは、なんて気持ちが良いのだろうかと思わずにはいられなかった。 角度を変えて何度もキスをした後、月子は躰を震わせながら、満足の溜め息を零した。 琥太郎の胸に顔を埋めて、幸せでしょうがない気持ちになる。 「…本当に幸せです。琥太郎さん…」 「ああ、俺も」 ふたりはロマンティックに浸りながら、暫く、動かなかった。 「月子、これ、ホワイトディのプレゼントだ。本当は、夕食の時が一番のタイミングなんだろうが、今、どうしてもお前に渡したくなった」 琥太郎は照れと大きな愛情を滲ませながら呟くと、月子の手のひらの上に小さな箱を置いた。 「相変わらず芸のないプレゼントで申し訳ないだけれどな」 「そんなことないです。私は、琥太郎さんがくれるプレゼントは何でも嬉しいんです。一生懸命考えてくれて選んでくれているのが解るから……」 プレゼントも、デートも、総ては月子のことだけを考えてくれているのが解っているから。 だから嬉しいのだ。 「開けてみて良いですか?」 「ああ」 月子は、小さな頃にプレゼントを貰った嬉しさを思い出しながら、丁寧に箱を開ける。するとそこには、星型のチャームが付いたブレスレットが入っていた。 「有り難うございます。嬉しくて、踊り出したくなりそう」 「着けてやるよ」 「はい」 左手を差し出すと、琥太郎は丁寧にブレスレットを着けてくれる。 何だかスペシャルな儀式のようで、月子は嬉しかった。 「…月子、お前をどんどん俺色に、俺好みにしていくからな…」 ギュッと抱き締められて、月子は胸がいっぱいになって、喜びが溢れそうになる。 「琥太郎さん色に染めて下さい」 月子の言葉に応えるように、琥太郎はキスをくれた。 |