琥太郎の子どもを身籠もっている。 そう解った日から、月子は今までよりも更に甘やかされて生活をしている。 夫の琥太郎がかなり気遣ってくれているからだ。 それはもうこれ以上ないぐらいだ。 お腹も随分と目立ってきて、通う大学院でも気遣われている。 だが、今までは自分の事は、殆ど自分でやってきた月子は、何だか物足りないような気もしてくる。 どうしても出来る限りのことはしたいとは思っているのだ。 なのに琥太郎が余りそれを許してはくれない。 かなり過保護なのだ。 それはそれで琥太郎らしいのではあるが。 月子が少しだけ高い場所に、そんなにも重くない物を片付けようとしていた。 しかし、ほんの少しだけ身長が届かなくて、月子が四苦八苦していると、琥太郎が慌ててやってくる。 「こら、月子。余り危ないことをするんじゃない」 琥太郎は、月子の背後に立ったかと思うと、包み込むように躰を支えてくれる。 琥太郎の腕がお腹を包むように抱き締めてくる。 それだけで、子どもと自分が守られているような気がして、月子は甘い幸せとドキドキを感じずにはいられなかった。 「ほら、高い場所で届かないのなら、俺を呼びなさい。俺がいない時は無理にはしないように。お前は今、大事な時期なんだからな。それを忘れないように」 「はい……」 月子はついしょんぼりとしてしまう。 自分で出来ることはまだまだ沢山あるということを、琥太郎に見せたかったのだ。 だが、なかなかそれも上手くいかない。 そこが切ない。 琥太郎は、月子が持っている荷物をひょいと軽々と取り上げると、あっという間に収納してしまった。 これにはほんのりと悔しいとすら思ってしまう。 自分で出来るから、余り甘やかさないで欲しい。 そんなメッセージを、さり気なくではあるが、琥太郎に伝えたかったのだ。 「有り難う、琥太郎さん」 「大事な時期には無理をしない。これは鉄則だからな」 「はい」 どうしたら解って貰えるだろうか。 月子の甘えつつも自立がしたいという気持ちを。 「琥太郎さん、私、自分で出来ることはなるべく自分でしたいなって、思っています。あくまでも自分が出来る範囲なんですけれど」 「それは解っているさ。ただ、お前と子どもが心配だからな。その気持ちを解ってくれ」 「はい」 琥太郎は、月子をギュッと思い切り抱き締めてくれる。 その強さと温もりに、思わずうっとりとしてしまった。 「月子、随分とお腹が大きくなってきたな」 「そうですね。少しずつですけれど、日に日に大きくなって行くのが解るんですよ。嬉しくて笑顔になります」 「そうだな」 琥太郎は慈しむように月子のお腹を抱き締めてくれる。 ふたりで望んだ愛しい子ども。 この愛しい子どもを、ふたりで守ってゆく。 幸せの塊のような、ふたりの願いが詰まった子どもだ。 「願いがかないますね」 「そうだな」 琥太郎は本当に満たされた幸せそうな表情を浮かべてくれている。 月子にはその表情が嬉しい。 「月子、服はキツくはならないのか? これからどんどん大きくなって来るだろう」 「そうですね。だけど、最近、フワッとした洋服が流行っているお陰で苦労しないんですよ」 月子は今着ているチュニックワンピースの裾を軽く摘んで琥太郎に見せた。 「だけど、お前が窮屈な思うをすると嫌だからな。買いに行くぞ」 恋人時代から、琥太郎はかなり気遣ってくれていたが、今はそれがかなり顕著になっている。 大切にしてくれている。 それをひしひしと感じられて、月子は嬉しかった。 「有り難う」 琥太郎にしっかりと抱き着くと、フッと微笑みながら月子を抱き締めてくれた。 「お前にこうやって甘えられるのが、俺は一番嬉しいんだ……。きっと子どもが出来ても、それは変わらないと俺は思う」 「琥太郎さん……」 母親になれば、子どもへの責任は強く生まれて来る。 だからしっかりしなければならないと、月子は思っていた。 だが、こうして琥太郎が大きな愛で包み込んでくれているから、自分のペースで頑張れば良い。 「月子、余り無理はするなよ。お前は、昔から頑張り過ぎるきらいがあるからな」 「はい。自分のペースで頑張り過ぎないように頑張ります。頑張らないのは性に合わないですから」 琥太郎の瞳を真っ直ぐ見つめながら言うと、愛するひとはしょうがないとばかりに苦笑いを浮かべる。 月子のことをよく解ってくれている証拠だと思った。 「明日は休みだから、マタニティウェアを買いに行こうな」 「はい」 月子は、甘やかせて気遣ってくれながら、きちんと見守ってくれている琥太郎に感謝をしていた。 車で、マタニティ用品や子どもグッズが揃っている大型店に向かう。 以前琥春とも来た事がある場所だ。 店に入ると、琥太郎はしっかりと月子の手を握り締めてくれて、躓かないように配慮してくれた。 それはとても嬉しい。 手を繋ぎながら、店の中をのんびりと歩いていると、つい赤ちゃんグッズに目がいってしまう。 「月子、今日は子どもの物は買わないからな。ただでさえかなりの数になっているからな」 「はい」 可愛い赤ちゃんグッズが買えないのは少しだけがっかりした気分だ。 だが、確かに琥太郎の言う通りに、琥春がかなりの数のベビーグッズを買ってくれている上に、アメリカから空輸されてきたりする。 そのために、もうベビーグッズは必要ないと思うぐらいに、沢山の物で溢れているのだ。 「今日はお前の物だからな。授乳をする時に必要な物だとか、後はお前が楽に過ごせるような物を買うからな」 「はい」 月子は琥太郎に連れられて、後ろ髪を引かれるような気持ちで、ママコーナーへと向かった。 「これなんか、お前に似合うんじゃないか?」 琥太郎が、可愛いらしい薄紅色のマタニティウェアを指差してくれる。月子は、そのウェアを見て、一目で気に入った。 「可愛いですね。だけどデザインは上品で甘くなり過ぎていないですし……。かなり可愛いですね」 「気に入ったか?」 自分が選んだ物を月子が気に入ったのがかなり嬉しいのか、琥太郎は甘い笑みを向けてくれる。 本当に可愛い。 「気に入りました。試着をしても構わないですか?」 「ああ。させて貰おうか」 琥太郎は、店員に頼んでくれて、試着するように手配をしてくれた。 これには月子は感謝する。 試着室は妊婦用にゆったりと設計されており、月子でものんびりと着替えることが出来た。 「琥太郎さん、これ……」 月子は恥ずかしく思いながら、琥太郎にマタニティウェア姿を見せてみた。 すると琥太郎は熱いまなざしをこちらに向けてくれる。 「似合っているよ。これにすれば良いんじゃないか?」 「じゃあこれにします」 月子が笑顔で答えると、琥太郎は大きくと頷いてくれた。 結局、一目ボレをした素敵なマタニティウェアと、それに合う靴を買って、店を出た。 「琥太郎さん、有り難うございます。これを着るのが楽しみです」 月子の言葉に、琥太郎は複雑な表情をする。 「琥太郎さん?」 「あの服はお前に物凄く似合っているが、似合い過ぎて、なんというか……、俺以外の人間に見せて欲しくない。綺麗なお前は俺が束縛してしまいそうだな……」 「琥太郎さん……」 琥太郎の言葉が飛び上がるぐらいに嬉しいと思いながら、月子は甘えるように寄り添った。 「有り難う」 マタニティウェアを着る時は、琥太郎の為だけに、こっそりとお洒落をしようと思った。
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