琥太郎とふたりで心を重ねて叶える望み。 それは神様の思し召し。 夕食を作っている最中に、月子は気分が悪くなってしまった。 不器用ながら、少しずつではあるが料理も出来るようになっていっている。 まだ、市販の便利なものを使っての料理ではあるけれども、月子は以前に比べると、 格段に出来る料理が増えていっている。 これも琥太郎が半ば我慢をして食べてくれているからに他ならない。 なのに月子は匂いで駄目になり、しょんぼりとした。 一応、食事は出来た。今夜は簡単なクリームシチューを作ったのだが、それよりもご飯の炊ける匂いが駄目だった。 こんな日に調子が悪くなるのは本当についていない。 明日は琥太郎が休みで、久し振りにふたりで出かけることになっていたというのに。 それがとても辛い。 気分が悪くて、月子はリビングで横になった。 じっとしていると随分と楽だ。ほっとする。 暫くじっとしていると、琥太郎が帰ってきた。 「ただいま」 琥太郎の声が聞こえて、いつものようにお迎えに行きたいのに、起き上がれなかった。 「…月子、また星を眺めているのか?」 琥太郎は、リビングに入って直ぐに月子の姿を見つけ、駆け寄ってきてくれた。 「大丈夫か!?」 直ぐに琥太郎が駆け寄ってきて、躰を起こしてくれる。 背中に琥太郎の手のひらを感じて、とても気持ちが良かった。 月子は深呼吸をすると、ほんの少しだけ気分が楽になる。 「…有り難う、琥太郎さん。少しだけ気分はマシです」 「どうしたんだ、いきなり」 琥太郎は保健医らしく、月子の頬や額に手のひらを当てて、その熱さを確認する。 「こころもち、熱いな」 「ご飯が炊ける匂いを嗅いだだけで気持ち悪くなってしまって…。胃が悪くなってしまったんでしょうか?」 「昼間に変なものを食べたんじゃないのか?」 「食べてないですよ」 月子は子ども扱いをしないで下さいと、唇を尖らせた。 「…少し調子が悪いのかもしれないな…」 「はい…。気分が悪いんですけれど、妙にお腹が空いたりしているんです」 「腹が空く!?」 琥太郎は奇妙だとばかりに顔をしかめる。 「他に何か症状はないか?」 「眠くて…、後…、怠いんです。風邪だと思うんですけれど」 琥太郎は一瞬、考え込む。 医療に覚えがある琥太郎だから、何か解るのかもしれない。 おかしな病気でなければ良いのにと思いながら、月子は琥太郎を見た。 「…ひとつしか思いつかないな…」 「一つ?」 「ああ」 琥太郎はフッと微笑むと、優しい瞳を向けてくれた。 「…月子、お前、ここの所、生理がないだろう」 琥太郎にストレートに言われて、月子は驚いて目を丸くした。 「あ、あの…、確かにそう…なんですが…」 「だったらひとつしかないな。明日、確認のために、病院に行くぞ」 琥太郎は月子を思い切り抱き締めて、甘い笑みを浮かべる。 「お前と俺の願いが叶うのかもしれないな」 「あ…」 琥太郎が何を言っているのかが、月子はようやく解った。 「…赤ちゃん…」 「恐らくはな。きちんと確認しに行こうか。明日」 「はい」 その可能性にどうして気付かなかったのだろうかと、月子は思う。 月子は嬉しくて、魂の奥から滲む笑顔を向けた。 「ずっと家族がもうひとり欲しかったから…」 「ああ。それが本当かどうか、きちんと確認するか」 「はい」 嬉しくて月子は、つい琥太郎を抱き締める。 明日の結果を楽しみにしていた。 朝から車で、産婦人科に連れていって貰った。琥太郎の大学時代の同窓生がやっている産婦人科なのだ。 月子は早速、妊娠の検査を受けた。 すると妊娠していると告げられ、超音波でも確認する。 モニターには、小さな小さな影が映っており、それが子どもであることを教えられた。 「月子、可愛いな。こんなに小さい」 琥太郎は本当に嬉しそうに言うと、大切そうに画面を撫でる。 「はい」 「星月君、これをプリントアウトしておくわね。持って帰りたいでしょう?」 「ああ、有り難う」 月子は自分自身が嬉しいのはさることながら、琥太郎が本当に心から喜んでくれているのが嬉しかった。 病院で手続きを終えた後、二人揃って母子手帳を貰いにいった。 月子は、自分の名前が書かれた母子手帳を見て、泣きそうになる。 「良かったな」 「はい」 「俺も嬉しい」 琥太郎を見上げると、この上なく優しい笑みで、月子を包み込んでくれた。 自宅に戻り、ふたりでささやかなお祝いをする。 月子は悪阻があるせいで、ご馳走を食べることは難しかったが、琥太郎とジュースで乾杯した。 ふと琥太郎の携帯電話が鳴る。 「姉さんだ」 琥太郎は軽く溜め息を吐きながらも、何処か姉への愛情を滲ませている。 「はい、俺です。来週帰国するから買い物に付き合え? 今回はムリです。別に逆らっているわけじゃないですよ。はい。俺の嫁が具合が余り良くないので。え? ああ、悪阻ですよ」 琥太郎が何気なく言っている。きちんとした形で伝えようと思ったが、致し方がないだろう。「まあ!」 携帯電話から琥春の驚いたような声が聞こえる。 「どうしてそれを早く言わないの! 琥太郎!」 琥春の叱責する声が聞こえて、月子も思わず驚いてしまう。 「お花ちゃんが星月の初めての子供を産むなんて、こんなおめでたいことはないでしょう!」 電話越しに聞こえる琥春の声は本当に嬉しそうだ。月子も嬉しくて、つい笑顔になった。 「いっぱいプレゼントを持って行くからね。琥太郎、お花ちゃんに代わって」 「ああ」 琥太郎は月子に携帯電話をさり気なく手渡してくれた。 「琥春さん、こんにちは、月子です。お久し振りです」 月子が声を弾ませると、琥春のふふっとした笑みが聞こえてくる。 「お花ちゃん、とても嬉しいわ。あなたが私の甥か姪を産んでくれるなんて。私としては姪が良いわ。女の子は可愛いですもの! お花ちゃんに似たら、本当に可愛いと思うわー」 琥春はウキウキと声を弾ませながら話してくれているのが、幸せだ。 「お花ちゃん、悪阻はどうなの?」 「ちょっと苦しいですけれど、大丈夫です」 「まあ…。だったら琥太郎がそばにいたほうが良いわよね…」 しみじみと琥春は呟くと、溜め息を吐いた。 「解ったわ。一緒に買い物に行きましょう。今度の日曜日あたりはいかがかしら?」 月子は、琥太郎に琥春の声を聞かせる。 「月子の悪阻が軽かったらな」 「まあ、そんなことは解っているわよ。お花ちゃんが大切なのは、私も同じですもの」 琥春からのストレートな好意の言葉に、月子はつい真っ赤になってしまう。 恥ずかしくて、月子はどうして良いかが解らない、琥太郎に思わず携帯電話を渡してしまう。 「とにかく。琥太郎、あなたにお花ちゃんを任せておけば問題はないとは思うんだけれどね。だけど、くれぐれも気をつけてあげてね」 「ああ、解っている」 こうして愛する家族に祝って気遣って貰えるのが、何よりも嬉しかった。 「じゃあ、お花ちゃんによろしくね」 「ああ、解った」 携帯電話を切ると、琥太郎はフッと微笑んだ。 「月子、明日は姉さんと出かけることになりそうだな。子供の物を買いたいそうだ」 「はい」 大好きな家族に祝って貰えて、月子は嬉しくてしょうがなかった。
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