琥太郎との結婚が決まり、準備を慌ただしくしている。 とはいえ、既に同棲をしているので、新生活の準備は必要としない。 入籍だけは先にしようということで、今日、琥春、そして郁に保証人になって貰って、婚姻届を提出する予定だ。 今日はウェディングドレスの仮縫いが終わり、今日は試着をするのだ。 琥春も着いて来てくれることになっている。 待ち合わせ場所に、琥太郎と車で迎えに行く。 幸せでずっと頬を緩めてしまう。 「どんな雰囲気でウェディングドレスが出来上がっているのかを見るのが楽しみです」 「そうだな。俺はお前ならどんなスタイルでも似合うと思うけれどな」 「有り難う」 琥太郎に言われると、何だか照れ臭い気持ちになった。 前方に相変わらず支配者のようなオーラを身に纏った琥春が見える。 相変わらず大人の出来る女性の雰囲気が、離れていても感じられる。 月子は憧れのまなざしで見つめずにはいられなかった。 「やっぱり琥春さんは離れていてもステキです。何だか、出来る女性の雰囲気があるというか…」 「…俺には…ただな威圧感のあれ塊にしか見えないけれどな…」 琥太郎は苦笑いを浮かべながら見つめている。 「だけどステキですよ」 「…それはお前の中だけだろう、姉さんは、異様に女にはモテるからな」 琥太郎はウィンカーを出しながら、ゆっくりと車を琥春の前に回した。 車を停めて、琥太郎は琥春の為にドアを開けにゆく。 琥春に対する態度が、紳士的な部分を育んだのだろうと、月子は思わずにはいられなかった。 「あら、お花ちゃん、お久し振りね!」 華やいだ琥春に、月子は笑顔になりながら、頭を下げる。 「お久し振りです、琥春さん」 月子にとっては、琥春は憧れの女性であるから、ついうっとりと見つめてしまう。 月子が高校生の頃と余り変わりがない。それどころか、更に美しくなっているような気すらする。 琥春はじっと月子を見つめてくる。 綺麗な琥春に見つめられると、琥太郎に見つめられているような気になって、月子はドキドキしてしまった。 「…お花ちゃん、また綺麗になったわね! 結婚を控えた女の子が綺麗になるっていうのは、よくあることだけれども、お花ちゃんはそれが顕著に出ているわね! 本当に綺麗ね! びっくりしてしまうぐらいにね」 「あ、あの、有り難うございます…」 美しい琥春に言われると、月子は嬉しくて、余計にドキドキしてしまう。 こんなにもドキドキしてしまって良いのだろうかと、思わずにはいられないぐらいに。 月子は、恥ずかしいのやら嬉しいのやらで、耳たぶまで真っ赤にさせていた。 それを見た琥春は、くすりと笑っていた。 「お花ちゃんは本当に可愛いわ! 我が弟ながら、琥太郎には勿体ないぐらいに!」 「言っとけ」 琥太郎と琥春の会話を聞いているだけで、月子はつい笑顔になってしまう。 本当に素敵な姉弟だ。そこに加わることが出来るなんて、月子は嬉しくてしょうがない。 「お花ちゃんのウェディングドレス姿が見られるなんて、凄く、凄く嬉しいわよ! 楽しみね! どのようなウェディングドレスが出来上がっているのかが!」 「はい!」 本当はレンタルで構わないと言ったのだが、琥春がどうしてもと言って、ウェディングドレスを新調することになったのだ。 月子にとっては一生に一度の贅沢だった。 ウェディングドレスの工房に入ると、デザイナーが月子たちを出迎えてくれた。 「出来上がっていますよ! 後はサイズの微調整だけですから」 「有り難うございます」 月子はわくわくしながら、デザイナーに着いてゆく。 それには、琥春も付き合ってくれた。 琥太郎はロビーで待ってくれる。 だが、何処か小さな子どものようにつまらなさそうにしているのが、可愛くてしょうがなかった。 デザイナーと一緒に、フィッティングルームの中に入ると、既にウェディングドレスがマネキンに着せられて、置いてあった。 デコルテを美しく見せるように、オフショルダーのカッティングが美しい、シンプルなデザインではあるが、気品溢れる刺繍がされている。 そしてドレスの裾の部分は優雅に広がり、まるで映画に出てくるウェディングドレスのようだ。 そして、ヴェールは白い花があしらわれたとても綺麗なものだ。 「お花ちゃんは首も長くて美しいから、このデザインはピッタリよね! 本当に!」 「綺麗です…。本当に…」 月子はついうっとりと見惚れてしまわずにはいられなくなる。 ドキドキしてしまうぐらいに綺麗なデザインだ。 これで大好きで堪らないひとのお嫁さんになれるのだ。 泣きそうになってしまう。 「さあ、お花ちゃん、着替えましょうか?」 「はい」 月子はデザイナーに手伝って貰って、ウェディングドレスをフィッティングする。 とても神聖な気持ちになる。 「当日は髪をアップにされますよね?」 「はい」 「じゃあ、アップにしましょうか」 デザイナーは手早く月子の髪をアップにしてくれる。 「後は仮に真珠のネックレスとイヤリング、後は…ティアラを着けて…」 デザイナーがテキパキと動いてくれている間、琥春が何故か月子の首筋あたりをじっと見つめている。 「後で琥太郎には注意をしておかなくっちゃね」 「え…?」 「何でもないわ。こっちのことだから」 琥春はただにんまりと笑うだけだ。 月子は何が何だか解らずに、ただ微笑むことしか出来なかった。 琥春は感慨深げとばかりに、ただじっと月子を見つめる。琥春に見つめられて、月子は半ば泣きそうになった。 琥春は見とれながら、うっとりと溜め息を吐いた。 「お花ちゃん、本当に綺麗だわ…。私の自慢の妹であることには間違いないわ…」 「有り難うございます…」 琥春は半ば涙ぐむように見つめてくれる。そんなまなざしで見つめられると、月子は泣きそうになる。 「こら、お花ちゃん、泣かないの! 本番はこれからなんだからね」 「はい」 琥春に涙を拭われて、月子はただ頷くことしか出来なかった。 「さあ、琥太郎が待っているから、行きましょうか」 月子は琥春にエスコートをされて、琥太郎が待つロビーへと向かった。 「琥太郎さん…」 琥太郎に声を掛けると、スッと顔が上げられる。 「…月子…」 琥太郎は一瞬息を飲むと、真摯で熱いまなざしを、月子に向けてくる。ただじっと見つめられるだけで、胸が感きわまっていっぱいになった。 「綺麗だな…」 「…有り難う…」 しみじみと呟かれて、月子はまた泣きそうになった。 「琥太郎、結婚式の前には気をつけるのよ」 「何を?」 「お花ちゃんの項と首筋」 キッパリと琥春に指摘をされて、月子は耳まで真っ赤になり、穴に入りたくなるぐらいに恥ずかしくなった。 「…琥太郎さんのバカ…」 「お前が困るから気をつけるよ」 琥太郎は苦笑いを浮かべながら約束してくれた。 フィッティングが終わり、役所に向かう。 既に郁が待ち受けていた。 「琥太にぃ、月子ちゃん!」 「ああ」 既に記入済の婚姻届を郁と琥春に手渡して、保証人の部分に記入して貰う。 その様子を、月子は感動しながら見つめていた。 出来上がった婚姻届を琥太郎とふたりで提出する。
「これで俺たちは夫婦だ」 「はい」 琥太郎の清々しい宣言に、月子はただ感動しながら頷いた。 |