琥春との約束の日がやってきた。 悪阻はまだまだ治まらないが、寝込むほどではなかった。 琥春とは約束通りに買い物に行くことにした。 車に乗り込みながら、琥太郎は常に月子を心配してくれる。 「途中で気分が悪くなったら言いなさい。お前が心配だから」 「有り難う、琥太郎さん。大丈夫です。今のところは」 「ああ」 琥太郎はなるべく丁寧に運転するように心掛けてくれる。 普段も相当優しい運転をしてくれるひとだが、こうして更に気遣ってくれるのが嬉しかった。 月子は、琥太郎の蕩けるような優しさを感じながら、本当に嬉しくてしょうがなかった。 約束の場所まで車を走らせると、琥春が待ってくれていた。 「まあ! お花ちゃん!」 車から降りるなり、いきなりしっかりと抱き締められて、月子は嬉しいのと同時に、照れ臭い気分になった。 「お久し振りです、琥春さん」 「お花ちゃん、私はとっても嬉しいのよ! だって、私の可愛い姪が出来るんですもの!」 「姉さん、姪が出来ると決まったわけじゃ……」 「いいえ! 姪よ! お花ちゃん、女の子が最初のほうがね、しっかりしていて育て易いのよー。良い? 女の子なら、もう、私、最高に可愛がってしまうわっ!」 琥春は半ば興奮気味に、楽しくて嬉しいとばかりに話している。本当に、心から喜んでくれているのが解り、月子は嬉しくてしょうがなかった。 「最初は男の子でも良いだろう、姉さん」 「いいえ! 女の子よっ! 男の子は二番目以降に産めば良いじゃないっ! ねー、お花ちゃん」 琥春の言葉が嬉しくて、月子は大きく頷く。 月子は、勿論、一人っ子にする気はなかったから、下の子も欲しいと思っている。 「一人っ子にする気はありませんから、これから沢山、琥太郎さんの子どもが欲しいです……」 月子は恥ずかしさと嬉しさで耳まで真っ赤にしながら呟いた。 本当に恥ずかしいけれど、嬉しくてしょうがない。 「……そうだな……」 琥太郎はフッと甘く笑うと、月子の頭を丁寧に撫でてくれた。 それが嬉しくてしょうがなかった。 ふたりが見つめ合っていると、琥春が微笑ましいとばかりに、柔らかく微笑んでくれる。 月子はそれがまた幸せだ。 「ふたりとも、本当に仲が良いわね……。見ていて、こちらも幸せな気分になってしまうわ」 「……琥春さん……」 「さあ、お花ちゃんと、色々と買い物に行きましょうか。お花ちゃんは、これから必要なものが増えてくるものね」 「はい」 琥春は月子の手をしっかりと握り締めると、早速、マタニティコーナーへと向かった。 その後を、見守るように琥太郎が着いてきてくれる。 それが月子には安心と幸せを感じさせてくれた。 「えっと……、やっぱり、お花ちゃんは可愛い妊婦さんになると思っているのよね……」 琥春は一生懸命、マタニティウェアを見てくれている。 どれも可愛くて、おしゃれなデザインが多い。 本当に目移りしてしまいそうだ。 「可愛い靴も必要だし、マタニティ用のランジェリーも必要だしね」 琥春はどんどん荷物を琥太郎に持たせながら、豪快に買い物をしてゆく。 それがとても琥春らしいと、月子は思わずにはいられなかった。 恐らく、琥春の買い物を付き合う時の琥太郎は、いつもこのような雰囲気なのだろうと思わずにはいられない。 「ランジェリーは……、やっぱり可愛いものでないとね」 琥春は、月子にだけ聞こえるように小さな声で呟くと、ちらりと琥太郎を見た。 「いずれのために、授乳がしやすいもののほうが良いかもしれないわね。大きなものもいるわね」 琥春はテキパキとその場を仕切って、買い物をしてゆく。それを持つのは、やはり琥太郎の仕事だ。 「これなんて、お花ちゃんに似合いそうだわっ!」 「可愛いですね」 「試着してみて! この靴と合わせてみて」 琥春に言われるままに、月子は試着室で着替えた。 可愛いデザインで、マタニティとは思えないほどのものだ。 「お花ちゃんに、とーっても良く似合っているわよー。本当に!」 「嬉しいです」 月子は笑顔で琥春を見た後、大好きなひとを見つめる。 このひとに綺麗だと思われなければ意味はないのだから。 「……まあ、似合っているんじゃないか……」 やはり捻くれているからか、ストレートには言ってはくれない。 「お花ちゃん、これは確実に買いね」 結局、赤ちゃんの買い物まだまだ早いということで、殆どが月子のマタニティグッズになってしまった。 沢山のマタニティグッズや服の配送を手配して、ようやく一息吐くことにした。 「お花ちゃん、これを全部プレゼントをするから、使ってね」 「有り難うございます。琥春さん。ここまでして頂いて、何と言えば良いのか……」 憧れの琥春に、こうして至れり尽くせりして貰って、月子は感動の喜びで泣きそうになる。 実の妹以上に可愛がって貰えて、言葉に出来ないぐらいに嬉しかった。 「お花ちゃん、これぐらいはなんてことはないわよ。それに、この後もしっかりと使えるからね」 「有り難うございます」 そうなると良いと思わずにはいられない。 「じゃあ…少し食事でもしましょうか。美味しいお粥が食べられるお店があるのよ。お花ちゃんには良いでしょう?」 「有り難うございます」 こうして本当に大切にしてくれているのをひしひしと感じられて、月子は幸せ者だと思わずにはいられなかった。 食事の間は、琥太郎が気遣ってくれ、その上、悪阻が気にならないようにと、琥春がずっと楽しい話をして、気を紛らわせてくれたから、気分のほうは大丈夫だった。 食事が終わると、琥春と別れる時間になる。 寂しくて泣きそうになる。 大切な月子のお義姉さんだ。なんて素敵な家族を得られたのではないかと思う。 「お花ちゃん、今度、逢う時はもう少しお腹が大きくなっているかしら。とっても楽しみよ」 琥春は優しい笑顔を浮かべると、まだ平らなお腹に触れた。 優しく触れられて、大切に思われていることが感じられる。 きっとまだまだ小さいお腹の中にいる赤ちゃんも、伯母の愛を感じていることだろう。 「きっとお腹の赤ちゃんも解っていると思います」 「そうね」 琥春は頷くと、琥太郎を見た。 「琥太郎、お花ちゃんを宜しく頼むわね。大事な躰なんだからね」 「ああ。もちろんだ」 愛する家族に愛されていることを感じて、月子は泣いてしまった。 「まあ、お花ちゃん、どうしたの?」 「……嬉しくて……。後、琥春さんとここでお別れをするのが寂しくて……」 「お花ちゃんは本当に可愛いわね」 琥春は目を細めると、月子の手を握り締める。 「また逢いましょう。近いうちに」 「はい」 琥春の優しい手が離れていくのが寂しかったが、琥太郎がそっと寄り添って、寂しい心を慰めてくれた。 「またね、ふたりとも」 「はい」 ふたりで琥春を見送りながら、月子は琥太郎に甘えるように寄り添った。 「愛されているな……。お前も、子供も」 「はい、嬉しいです」 琥太郎はしっかりと手を繋いでくれると、駐車場まで歩いて行く。 「子供を、大事にしような……」 「はい」 月子は頷くと、琥太郎に甘えるように微笑んだ。 願いが叶う。 愛が連鎖する。 月子は、この幸せを感謝せずにはいられない。 「生まれてきたら、きっともっと幸せな気分になれますね」 「そうだな」 ふたりは顔を見合わせると、微笑まずにはいられなかった。
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