*依存症*


 目が覚めると、琥太郎が横にいて、眠っていた。

 無防備で美しい寝顔に、月子はつい見惚れてしまう。

 このまま、愛する琥太郎の腕の中で眠っていたいと、月子は思ってしまう。

 余りに美しくて素晴らしい琥太郎に抱き締められて眠るなんて、こんなにも幸せなことはないから。

 将来に渡ってずっとこうしていられたら良いのにと、月子は思わずにはいられない。

 だが、今朝は起きなければならないのが惜しい。

 もう少しだけで良いから、琥太郎と一緒にいたかった。

 月子が起きようとして、もそもそと布団の中でしていると、琥太郎が目覚めたかのように身動ぎをした。

「……ん、朝か……」

 琥太郎の声が眠そうに揺れている。

「そうだよ、朝だよ。琥太郎さん。だから起きなくちゃ」

 月子が自分自身も躰を起こして、起きようとする。

 だが、琥太郎は月子の手をギュッと握り締めて、布団の中に引きずり込んだ。

「……起きるまでに、まだ時間があるだろう?」

 演じているのか分からないが、そう取れてもおかしくないぐらいに甘い声で、琥太郎は囁くと、先ずは月子の唇を塞いだ。

「……んっ……」

 触れるだけの優しいキスではなくて、琥太郎のキスは朝からかなりの本気モードなキスだった。

 これには月子もくらくらしてしまう。

 昨夜、琥太郎によってしっとりと満たされた筈の躰は、直ぐに火が付いて、月子の躰を駆け巡る。

 舌を絡ませて、何度も唇を奪い合う大人のキス。

 このキスも琥太郎に教えて貰ったとっておきのものだ。

 最初は全く上手く出来なかったが、今や琥太郎が望むようなキスが出来るようになった。

 しっかりと抱き合いながら、何度もキスをして、キスだけでは足りなくなる。

 もう、キス以上の情熱的なコトを知っているから。

 だからそれを求めてしまう自分がいるのだ。

「……んっ、あっ……」

 潤んだ瞳で琥太郎を見ると、それだけで躰をまさぐられる。

「……琥太郎さん……、朝だよっ!?」

「……朝から欲しがるように煽ったのはお前だ……。もう手遅れだ……」

 琥太郎はそれだけを言うと、月子を情熱的な世界に連れていく。

 お互いの愛を更に確かめる為に。

 

 躰の奥底に琥太郎の温もりが残っている中で、今朝も別れの時間になった。

 忙しい琥太郎とは、また逢えなくなる。

 こうして忙しい時間を工面して逢ってくれるのは、月子にとってはかけがえのない幸せだ。

 だからこそ、別れ際がいつも寂しくて辛い。

 しかも、躰の奥に琥太郎の温もりが残っていたら余計だ。

 琥太郎は出勤途中に、月子を大学まで送ってくれる。

「……じゃあ、またね、琥太郎さん」

「ああ。またな。しっかりと勉強をしてきなさい」

「はい」

 琥太郎に見送られて、月子は大学の門を潜る。

 この瞬間がいつも一番切なかった。

 

 ひとりになった。

 学園に向かって車を運転しながら、琥太郎は思わず溜め息を吐いてしまう。

 まだ躰には、月子の柔らかな感触や、滑らかな肌の質感や温もり。そして麻薬のように魅力的な躰の総てが染み付いている。

 近くにこんなにも月子を感じているのに、そばにいない。

 それが琥太郎には苦しかった。

 切ないぐらいに胸がいっぱいになる。

 また直ぐに抱き締めてしまいたくなる。

 また直ぐに総てが欲しくなる。

 底がないぐらいにどんどん月子に溺れていってしまう。

 それほどまでに月子に夢中だ。

 そばにいたい。

 こんなにも人に固執してしまうことなんて、今まではなかった。

 琥太郎は苦笑いを浮かべる。

 とんだ月子病だ。

 それはもう治りそうにはない。

 特効薬は月子。

 それ以外にはないことぐらい、琥太郎には解っていた。

 

 週末の甘い時間が過ぎて、月子はまた琥太郎に逢いたくなる。

 大学も、もう殆ど通わなくても良いが、春からの大学院進学の為の準備として、色々と考えている。

 大学を卒業しても、月子はまだ身分は学生ではあるから、まだまだ琥太郎と一緒にいることは出来ないのだろうか。

 一緒に暮らしたら、こんなにも寂しくて切ない想いをしなくても良いのにと、月子は思わずにはいられなかった。

 週末近くになると、琥太郎成分が不足してしまい、月子はどうしても逢いたくなる。

 何処に出かけるか。なんてことはなくても構わないから。

 ただ、愛する琥太郎のそばにいたい。

 月子には本当にそれしかなかった。

 週末の琥太郎は忙しいし、琥春が帰ってくるかもしれないから、逢う約束は取り付けてはいなかった。

 だが、逢いたくて、逢いたくて堪らなくなる。

 その上、声が聞きたくなる。

 琥太郎の声が大好きで、せめてそれだけでも月子は聞きたくなる。

 少しで良いから時間が欲しい。

 琥太郎と話がしたい。

 ただそれだけだった。

 月子は携帯電話を手に取ると、琥太郎に掛けた。

 すると直ぐに電話に出てくれる。

「月子、どうした?」

「うん、琥太郎さんの声が聞きたかったの」

「俺もお前だから電話に出た」

 さらりとこちらが嬉しくなるような甘い言葉を囁いてくれるのが嬉しい。

「……お仕事は順調?」

「順調……だとは言えないな。まあ、いつものように頑張ってはいるがな」

「琥太郎さん、疲れているの? 余りムリはしては駄目ですよ」

「ああ。解っている。調子が余り良くないのは、俺のそばに特効薬がないからな」

 琥太郎は苦笑いを浮かべながら言う。

「特効薬?」

「……お前だ。お前以外に俺の特効薬が何処にあるんだ?」

 こちらが蕩けてしまうぐらいに嬉しい言葉に、月子はついニヤけてしまった。

「私の特効薬も琥太郎さんですよ。琥太郎さんの声を聞いて、かなり元気になりましたから」

「そっか……」

 こうして話しているだけで元気になる。

 だが、本当は逢いたくて堪らなくなる。

 声を聞けば、少しはこの寂しくて切ない気持ちが落ち着くのかと思っていたが、全くだった。

 これには月子も苦笑いをしてしまう。

 もっともっと琥太郎に逢いたくなってしまったから。

 月子は、琥太郎のそばにいたくて、直ぐに抱き付きたくて、キスをしたくて堪らなくなる。

 想いが溢れてしまい、月子は何も言えなくなってしまった。

「月子……?」

「ごめんなさい。琥太郎さんの声を聞いていたら、それだけでもっと逢いたくなってしまったんです……。抱き締めて欲しくなってしまいました……」

 月子は素直に自分の気持ちを伝える。

 すると琥太郎はフッと笑った。

「……やっぱり俺たちは考えることは同じなんだな……。家から出てきてくれ。お前の家の前にいるから」

「え……!?」

 こんなサプライズは他になくて、月子は慌てて、家の外に出た。

 すると琥太郎が車から出てくる。

 その姿を見た瞬間、月子は思い切り琥太郎を抱き締めた。

「琥太郎さん!」

「月子、逢いたかったぞ」

 琥太郎は息を乱しながら言うと、月子を思い切り抱き締めてくれた。

「ここじゃなんだ。うちに来ないか? このままお前をさらいたい」

「はい」

 月子は嬉しくて涙が滲んでしまう。

 琥太郎と出る前に家族に声を掛けた後、月子は車に乗り込む。

「お待たせしました」

「ああ」

 車に乗り込むなり、琥太郎に抱き寄せられて、唇を深々と奪われる。

 久し振りのキスに、逢えなかった寂しさが吹き飛んだ。

 キスの後、琥太郎は微笑む。

「お前には俺の病気を治して貰わないとな」

「病気?」

「“月子病”だ」

「だったら私も“琥太郎さん病”ですから」

 ふたりはお互いに微笑み合うと、お互いの病を治しにいった。






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