琥太郎の家に遊びに行くと、いつも緊張してしまう。 月子はドキドキし過ぎて、何だか落ち着かなくなる。 それはその先の官能的なことを思い出してしまうからだろうか。 そんなことをついぼんやりと思ってしまう。 日頃、理事長として忙しい日々を送っている琥太郎に、少しでも安らかな時間を送って欲しいから、月子はお家デートに頷いた。 本当は、琥太郎と一緒ならば、何処だって構わない。 家でも外でも。 だが、家だとどうしても甘い緊張を禁じ得ない。 琥太郎のテリトリーに入ってしまうから。 緊張し過ぎて、月子はどうして良いのかが分からなくなってしまうのだ。 こんなにも緊張してしまうのは、やはり琥太郎と近い場所にいるからだ。 月子は琥太郎が現在住んでいるマンションの前まで来ると、インターフォンを押した。 「はい。お前か……。待っていろ。直ぐに開けるから」 「はい」 月子は返事をして、ドアが開くのを待っていたが、全く開く気配がない。 首を長くして待っていると、琥太郎がエントランスにやってきて、直接、扉を開けてくれた。 「どうぞ」 「有り難うございます」 こういったところは、琥太郎は非常に紳士だ。恐らくは、琥春の影響が大きいのだろう。 月子としては、好ましいことだったりする。 琥太郎は中に入ると、月子の手をしっかりと握り締めてくれる。 それが月子にはとても嬉しかった。 「有り難うございます」 「何だ?」 「こうして貰えるのがとても嬉しいんですよ」 「それは良かった。お姫様のエスコートはちゃんと出来たようだな」 「はい」 琥太郎が甘い笑みになる。 綺麗な顔をした琥太郎が蕩けるような甘い笑みを向けてくれると、それだけで月子は嬉しくなる。 ついうっとりと見つめてしまう。 「どうしたんだ?」 「何でもありませんよ」 見とれていたなんて琥太郎に知られてしまったら、それこそからかいの絶好のネタになってしまうのではないかと思い、月子は恥ずかしくて黙っていた。 「俺のことを見とれていたか?」 何でもお見通しとばかりに、琥太郎は喉をくつくつと鳴らしながら笑ってこちらを見ている。 本当に琥太郎はイジワルだ。 月子はつい「イジワル」と琥太郎に悪態を吐いてしまった。 「図星か」 琥太郎にからかわれてしまい、月子は唇を尖らせた。 月子は琥太郎にわざと拗ねたように背中を向ける。 すると背後から包み込むように琥太郎はしっかりと抱き締めてくれる。 「月子、そんな態度で良いのか?」 「もうっ」 月子が更に拗ねたふりをすると、琥太郎は更に引き寄せるように抱き着いた。 暫く、琥太郎は月子をチャージするように月子の躰に凭れかかった。 「……月子……。ずっと逢いたかったんだぞ? お前欠乏症で死にそうだった……」 琥太郎は依存するように言うと、大きく深呼吸をした。 「月子……」 琥太郎は月子の総てを取り込むかのように、抱き締めたまま離れない。 「……私も琥太郎さんに逢いたかったですよ。お仕事大変だったんですね。こんなことしか言えないですけれど……、ご苦労様でした」 「…ああ」 琥太郎は、月子にしがみついたまま、全く動かない。 月子は心配でつい前に回された手を握り締める。 「お疲れですか?」 「どうしてお前は分かるんだ」 「…琥太郎さんの温もりと声を感じたら、直ぐに解りますよ」 「そうか……。お前は凄いな……」 「だって、琥太郎さんの彼女ですもの。恋人にして貰ってから、更に敏感に感じるようになりましたよ。だって、大好きなひとのことは、何でも分かりたいって、思うから」 月子は笑顔で言うと、琥太郎の手を更に握り締めた。 「ね、琥太郎さん。私、琥太郎さんを抱き締めたいです」 月子が素直に言うと、琥太郎は半ば驚いてしまったようだった。 「え?」 「抱き締めてあげたいの。私が抱き締めたら、きっと琥太郎さんの疲れなんて何処かに吹き飛んでしまうから」 「じゃあお願いするか。お前は俺の特効薬だからな」 「任せて、琥太郎さん」 月子が自身を持って言うと、琥太郎は一旦、月子への背後からの抱擁を解いた。 「頼んだ……」 琥太郎はそう笑顔で言って、月子と向き直る。 「うん、琥太郎さん」 月子はほんのりとドキドキしながら、琥太郎をしっかりと抱き締めた。 柔らかいのに男らしい硬いラインに、月子はついドキドキしてしまう。 しっかりと抱き締めると、琥太郎が甘えるように抱き着いた。 月子は琥太郎が愛しくてしょうがなくて、その背中を撫でる。 いつまでも何処までも依存していて欲しい。 月子もまた、琥太郎に依存をしているのだから。 ずっとそばにいる。 琥太郎が嫌だと言ってもそばにいる。 月子はそう思いながら、琥太郎の意外に逞しい躰をしっかりと撫で付けた。 「やっぱりお前は安心するな……」 「私も安心しますよ。琥太郎さんが一緒にいると」 「ああ」 琥太郎を疲れから守るために、月子はしっかりと抱き寄せた。 こうしてじっとしているだけで幸せだ。 「琥太郎さん、最近、忙しかったですものね。今日はゆっくり休息を取りましょう。ずっとそばにいますから、安心して休んで下さいね」 「……ああ……。済まないな……。家でゆっくりとした後、何処かに行こうかと思っていたんだが……」 「またいつでも行けますよ。それに私は琥太郎さんのそばにいるだけで嬉しいんですから。だから、今日はゆっくりとしましょう」 月子は優しく言うと、琥太郎を更に柔らかく抱き締めて、背中をゆっくりとリズミカルに叩いた。 「いつもと逆だな」 琥太郎は苦笑いを浮かべながら呟くと、月子を見た。 「有り難う」 琥太郎の声が少年のようで、月子はつい可愛いと思った。 「少しお昼寝をしませんか? 保健室でしていたように」 「懐かしいな。目覚めたらマズいお茶を頼むな」 「マズい、は、余計ですが、お茶を淹れますよ」 「ああ。有り難うな、頼んだ」 琥太郎の言葉に、月子は頷くと、そのままリビングのラグの上で寝転がる。 こうして抱き合って横になると、優しい安心に包まれた。 「……月子……。有り難う。そばにいてくれ……」 「いつまでもそばにいますから」 月子の言葉に琥太郎は安心したようで、ゆっくりと目を閉じて眠った。 琥太郎が眠った後、月子はしっかりとその手をしっかりと握り締める。 ふたりでいつも一緒にいる時は、こうやって手をお互いに握り締めて眠る。 まるで子どもがするような行為だけれども、月子にとっても、琥太郎にととても、神聖な行為だった。 いつの間にか月子も一緒に眠っていた。 月子の寝顔を見つめながら、フッと微笑む。 手はいつものようにしっかりと握り締めてくれていた。 それが琥太郎には嬉しくてしょうがなかった。 本当に嬉しくて、つい笑顔になる。 こうして月子に手を握り締めて貰っているだけで、安心して眠ることが出来る。 同時にとても温かな気持ちになった。 「可愛い顔をして眠っているな……」 琥太郎は幸せな気分で寝顔を見つめる。 こうして月子の寝顔を見ているだけで、本当に幸せだ。 つい甘い笑みを浮かべてしまう。 「お前をもっと幸せにする。だからずっとそばにいてくれ……」 琥太郎は甘い声で囁くと、月子の唇に自分のそれを重ねる。 幸せな幸せな休日の午後。
|