夜は大好きで、大嫌いだ。 美しい夜空を見上げるのはとてもロマンティックだけれども、同時に、闇の恐さも感じる。 闇の孤独と呑まれてしまうのではないかと思う底なしの恐怖。 それと同時に、闇の優しさも感じるのだ。 総てを優しく包み込んでくれるような大きな安堵が、疲れを取ってくれる。 特に大好きなひとと一緒に眠る幸せは、言葉では表すことが出来ないぐらいに幸せで、ロマンティックな気分になれる。 これ以上ないぐらいに幸せな気持ちでいられるのだ。 愛するひとの温もりを躰で受け取りながら眠る幸せ。 満ち足りていて幸せで堪らない眠り。 こんなにも満たされていたら、安心して眠ることが出来る筈なのに、眠れない夜もある。 愛するひとだけが眠っていて、自分だけが眠れない夜は、特に切なくて堪らなくなる。 泣きたくなるぐらいの孤独と切なさで、不安になって満たされない時間が続く。 そうすると余計に眠れなくなってしまう。 どうか。 どうか、愛するひとが、目覚めて、物語や子守歌を紡いでくれたら良いのにと思わずにはいられなくなる。 琥太郎と情熱的に愛し合った後、ふたりは甘い時間を共有しながら眠りについた。 月子も幸せな気持ちでまどろんでいた。 このまま素敵な夢が見られる。 そう思っていたら、突然、目が覚めてしまった。 ちらりと横を見ると、琥太郎がすやすやと眠っている。 本当に気持ち良さそうだ。 いつも眠るのが大好きな琥太郎を、起こすわけにはいかなくて、月子は眠れないままじっとしていた。 琥太郎の寝顔を見つめていると、本当に綺麗だと思う。 いつか、琥太郎に似た子どもが生まれたら、幸せ過ぎてどうにかなってしまうだろう。 月子はなるべく琥太郎を起こさないようにと、ベッドから出ると、そっとキッチンへと向かった。 カモミールティーでも飲むと、落ち着いて眠れるようになるだろうか。 月子は、なるべく音を立てないようにしてお湯を沸かして、ストックしているハーブティーをマグカップに淹れて、お湯を注ぐ。 こうしているだけで、安堵感がたっぷりと下りてくる。 こうすれば琥太郎と一緒に眠りの世界に向かうことが出来るだろうか。 そんなことを考えながら、月子はカモミールティーを飲んだ。 それでもやはりなかなか眠れない。 明日は休みだけれども、眠れないのはやはり嫌だ。 月子がハーブティーを飲んでいると、不意に背後から抱き締められた。 「ここにいたのか……」 ホッとしたような声が耳元に聞こえる。 「琥太郎さん……」 「お前が隣にいなくて焦ったぞ」 琥太郎の声を聞いていると、本気で心配してくれていたのが解る。 「ごめんなさい。少し眠れなくて、ハーブティーを飲んでいたの」 月子は、結局は、琥太郎を起こしてしまう結果になってしまって、しょんぼりとしてしまった。 「眠れないのなら、俺に言いなさい。お前ひとりで切ない想いをさせるのが、俺は一番嫌なんだからな」 琥太郎が切なそうに言いながら、月子の頭を優しく撫でてくれた。 そのリズムがとても優しくて、つい目を閉じてしまう。 「……はい。有り難う、琥太郎さん。ちゃんと言いますね」 「分かればよろしい。で、ハーブティーを飲んで、お前は眠れそうなのか?」 「ちょっと難しいみたいです」 月子が苦笑いを浮かべながら言うと、琥太郎もまた心配そうに見つめてくれる。 「琥太郎さんは先に眠って貰って大丈夫ですよ」 「嫌だ。お前がこのまま眠れないのに放っておくことなんて出来る筈がないだろう?」 「有り難う」 琥太郎にこうして心配して貰うだけでも、心がほっこりと温かくなる。 「ハーブティーを飲んでも、まだここにいるか?」 「それは寒いからベッドに戻ろうかと思います」 「そうだな。だったらハーブティーを飲んだら、一緒にベッドに戻るか。お前も俺みたいに酒を飲んだら眠れる体質だったら良かったのにな」 琥太郎が苦笑いを浮かべながら言うものだから、月子もつい笑いながら頷いた。 ハーブティーを飲み終わるまで、琥太郎がそばにいてくれる。 これだけで、月子は幸せな気持ちになる。 なんだか落ち着いた温かな時間で、一緒にこうしているだけで楽しくて、幸せだった。 「幸せそうだな。良い顔をしている」 「それはそうですよ。こうしているだけで幸せですから。だって、琥太郎さんと一緒にいられるだけで、嬉しくて楽しいですから」 「そういう可愛いことばかり言っていると、本当に眠れなくなるぞ」 琥太郎はからかうように言うと、月子を軽々と抱き上げた。 「琥、琥太郎さんっ!?」 「ハーブティーも飲んだだろう? このままいたら風邪を低くから、ベッドに戻るぞ」 「はい……」 大切に抱き上げて、琥太郎は月子をベッドに運んでくれる。 その甘い行為が嬉しくて、月子は甘えるように琥太郎の首に腕を回した。 ベッドに琥太郎は寝かせるなり、月子をいきなり組み敷いてくる。 「俺も総てが目覚めたな。お前のせいで。だから、責任を取って貰うぞ?」 琥太郎は笑いながら言うと、唇を塞いできた。 呼吸から根こそぎ奪ってしまうようなキスに、月子は心臓が持たないと思ってしまうぐらいにくらくらした。 背筋が甘く震えて、先ほどまで来つつあった眠りが、完全に何処か行ってしまいそうになる。 キスに溺れてしまう。 月子は呼吸が浅くなるのを感じて、琥太郎にすがりついた。 何度も、何度も、キスを繰り返して、月子はフラフラになってしまう。 ようやく唇を離された時には、とろんとしたまなざしで琥太郎を見つめてしまった。 「そのまなざしも有罪だな。月子、お前にはきちんと責任を取って貰うぞ。お前は俺好みの女だから……、総てが誘っているようにしか見えない……」 琥太郎は低い声で呟くと、月子を愛し始める。 先ほど愛されて満たされた筈の躰が、再び甘い悲鳴を上げている。 そのまま琥太郎の官能的な罠に素直にかかったのは、言うまでもなかった。 翌朝、月子は気怠い幸せに満たされて、のんびりと目を覚ました。 横には琥太郎がぐっすりと眠っている。 笑みすら浮かべているように見えるのは、きっと素敵な夢を見ているからに違いないと思ってしまう。 「良い夢を見ているのかな……」 ふたりの手がしっかりと結ばれている。 こうしていれば、お互いに怖い夢なんて見ないから。 「……本当に可愛い寝顔」 琥太郎にはいつもリードされてばかりいるから、月子はついこうした子どものように無邪気な琥太郎を見つけると、甘い気持ちになってしまう。 「……んっ……」 琥太郎が浅い眠りになったのか、瞼を動かし始めた。 無理に起こして、甘いお仕置を受けたことがあった。 だから今朝は、優しく見守っていようと思う。 じっと見つめていると、琥太郎がゆっくりと目を開けた。 「……何だ……起きていたのか……」 「はい」 月子が優しい気持ちで笑みを浮かべると、琥太郎はいきなり布団の中に引きずり込んできた。 そのまま強く抱き締めてくると、唇を重ねてきた。 激しいキスについぼんやりとしてしまう。 キスの後、月子がぼんやりと琥太郎を見つめると、まるで昨夜の再現のように唇を重ねてきた。 情熱と官能と甘さが天こ盛りのキス。 月子はそのままうっとりとしながら、琥太郎に身を任せてゆく。 休みの日に素直になれたことを、幸せに思いながら。
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