Stellar Girl

〜A SIGHTSEEING〜


「君のお薦めの桜塚を案内して欲しい-----」
 蒼さんは明るく遠慮がちに言った。
 じわじわと幸福感が溢れてきて、誇らしげな気分になりながら、私は大きく頷いた。
「判りました。きっとステキなところをご案内します!」
 私は本当に嬉しくて微笑みながらも、少し真面目くさって答えた。

 桜塚市を改めてじっくりと考えてみる。
 桜塚と言えば-----
 温泉と世界に誇る桜塚歌劇。
 普通に考えればそれがまず思い浮かぶ。
 桜塚歌劇も温泉も想い出がいっぱいあって大好き!
 歌劇にはそれなりの思い入れもある。
 私も子供の頃は、桜塚の”スターさん”になりたくて、小さな子供たち向けの音楽学校の付属予備校に通ったもの。
 結局は夢は叶わなかったけれど、今でもレビューを見るのは大好き。
 今は二番手スターさんになってしまった葵さんを新人の頃からずっと見ていて、声を掛けて下さるのも嬉しい。
 そして温泉-----
 古びた温泉街が残る旧市街地は、そこだけが時間の流れから取り残されている。
 子供の頃は洗面器を片手によく家族みんなでぶらぶらと通ったもの。
 
 蒼さんに言われても思い付くことと言えばそれぐらい。
 私的には、よく通った”チェリーランド”も捨てがたいけれども、蒼さんはどう思うかな?
  ”チェリーランド”の観覧車に乗ってしまえば、桜塚はすべて見渡せる。
 私が育った愛すべき場所を、蒼さんにはじっくりと見てもらいたかった。
 そして、どうか愛すべき桜塚をあなたが好きでいてくれますように・・・。

 結局この晩は、色々と考えすぎて遠足前の子供のように、全く寝付けなかった。
 こんなに朝になるのが楽しみになのは、本当に久しぶりの事だった。

「あ〜、肌、最悪・・・」
 肌の様子を鏡で見て少し憂鬱になるけれど、なんだかおかしくてくすくすと笑ってしまう。
 今、私が出来る精一杯のおしゃれをしよう。
 蒼さんが少しでも笑ってくれたら嬉しい。
 念入りに、念入りにおしゃれをしよう・・・。
 それだけで凄く楽しくて嬉しい。
 蒼さんが喜んでくれる顔を思い浮かべるだけで、凄く華やいだ気分になれた。
 ふと、リビングの時計が約束の時間が近いことを告げてくれる。
「あ! 早くいかなくっちゃ!!!」
 いつもよりも念入りにおしゃれをしたのに、時間が足りなくなって、結局はいつも通りになってしまった・・・。
 戸締まりをしっかりして、慌てて待ち合わせ場所の桜塚南口の駅に向かった。

「蒼さんっ!」
 待ち合わせ場所には、すでにいつもの爽やかな笑顔で蒼さんが待っていてくれた。
「遅れちゃって、ごめんなさいっ!」
「そんなに遅れていないから大丈夫」
「ホント!?」
 私は少し安心しながら、腕時計に視線を落としてみた。
「あ〜!!!」
 時計を見るとゆうに20分は遅刻している。
「ごめんなさい・・・」
 本当に申し訳ないことをしたと、穴があったら入りたいとすら思う。
「未来ちゃん、その分、僕を色々なところに案内してくれるだろう?」
 蒼さんの太陽のような微笑みがすうっと心に降りてきて気持ち良い。
 嬉しくて、飛び上がりたくて、すごくドキドキした。
「はいっ! 任せて下さい!」
 どんと胸を叩いて私は笑いながら言うと、蒼さんはからからと楽しそうに笑う。
「じゃあ、今日は大船に乗った気分で君に任せるよ」
「はいっ!」
 蒼さんがさりげなく優しく手を握ってくれる。
 それがとても温かくて、凄く安心する。
 辛い事や寂しい事も、全部がその温もりで忘れられるような気がした。
「じゃあ、行きましょうか!」
「そうだね」
 私たちはお互いが離れないように、しっかりと手を握りあって、一歩足を踏み出した------

 最初に行ったのは、アンティークショップ。
 友達とかは”怪しい”とか言うけれども、私にとっては、あの音色を再び聴かせてくれたオルゴールを見つけた大切の場所だから…。
 どうしても蒼さんと一緒に行きたかった。
「へ〜、こんな所にアンティークショップ」
「結構有名なんですよ------ある意味ね?」
 私は少しもったいぶって蒼さんに微笑みながら言ったら、彼は少し小首を傾げた。
 アンティークショップに入ると、またあの怪しげな店主が出迎えてくれる。
「いらっしゃいませ〜」
 お店は割と普通の骨董屋さん。
 やはり蒼さんはデザイナーなだけあって、興味はアンティークなドレスやアクセサリーみたい。
「このドレス凄いな…」
「まあ、お目が高い。それはかのマリー・アントワネットがフェルゼンとの謁見の時に着たドレスなんですよ」
「へ?」
 蒼さんは奇妙な、何とも口では表現出来ないような顔をした。
 その表情が可愛くて可笑しくて、私は思わずぷっと吹き出してしまう。
「…桜塚歌劇のマリー・アントワネットだよね…?」
 蒼さんが困惑しながら耳打ちしてくるのが凄く可笑しくて、私は可笑しくて涙を堪えてしまう。
「…さあ、本気かも?」
「マジ!?」
 苦笑いをする蒼さんが凄く可笑しい。
 蒼さんは少し変な緊張をしながら、更に店内をぐるりと見ている。
「…これなんか凄くステキだね。上品なドレスとかに似合うと思う。
 …君が似合うような…」
 甘くて低い声で囁かれて、私は心臓が飛び上がるぐらいどきどきとした。
 耳が真っ赤になるぐらい熱い。
「まあ、お目が高い事。そのアクセサリーも、かのエリザベス1世がご愛用されたものなんですよ?」
 蒼さんは苦笑いをしながらそのアクセサリーの価格を見た。
 よくよく見ればイミテーションだと判るそれは、30000円の価格が付いていた。
 エリザベス1世が使っていたなんてあり得ない------
 私たちは余りにもの滑稽すぎて、顔を見合わせてくすりと笑った。

「おかしな店だったよね!」
「でしょう?」
 蒼さんと私はアンティークショップを出るなり、私たちは大いに笑った。
 私はお腹が苦しいんじゃないかと思うほど、ぐにゃぐにゃになるほど笑って、瞳に涙が滲む。
 蒼さんも喘ぎ喘ぎ言っていたので、本当に可笑しかったのかもしれない。
「気に入った?」
「ばっちり! 君がある意味って言ったわけが判ったよ」
 ウィンクしながら笑った蒼さんが、凄くステキで、思わずぼうっとしてしまった。
「次はどこかな…」
「次は、チェリー・ランドは?」
「チェリー…ランド…」
 蒼さんの表情がほんの一瞬曇る。
「オッケ。行こう、そこに」
「うん」
 このとき私は、蒼さんが余り遊園地の事を好きなんじゃないかと思っていたけど、本当は別に理由がある事を、しばらくは知らなかった。
 
コメント

桜塚観光案内です。
これはこのお二人がぴったりなので、特別にこのお二人にお願いしました。




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