気怠くも幸せな疲労を手にしながら、私はのんびりと惰眠を貪る。 遠くでシャワーを浴びる音が聞こえる。 雅也さんだ。 彼が直ぐ近くにいるだけで、私はくすくすと笑い出したくなった。 日本とアメリカで離れて2年。 私が大学を卒業して、ようやく雅也さんの元にやってくることが出来た。 通訳を生業にしたくて更に勉強するために、英語の本場であるアメリカに渡った-----というのは建前で、雅也さんの傍に一刻も早く行きたかった。 英語をしっかりと勉強するために私は様々な準備をした。 TOEFLを650点をマークして、無事に雅也さんの住むニューヘイヴンの英語学専門の大学院に滑り込むことが出来たのだ。 この秋から通うことにしている。 ニューヘイヴンに到着したのは昨日。 この街はコネチカット州にある大学の街。 とても古風で、そこはアメリカではない。まるで、イングランドに紛れ込んだ錯覚を覚えるほどの、ロマンティックな街だ。 カーペンターズの兄妹がここに幼い頃に住んでいたことを、昔本で見たのを覚えている。 私はこの街を一目で見て気に入ってしまった。 冬はとても寒いそうだが、桜塚と同じく、古き良き時代の香りを湛えている。 雅也さんが迎えに来てくれて、そのまま彼のアパートメントに連れて行って貰った。 今日からここが私の我が家だ。 雅也さんのロースクール卒業も後1年。 もうすぐ立派にアメリカでも活動出来るようになる。 一生懸命ひたむきに頑張る雅也さんの姿を身近に見られるのは、なんと素晴らしいことなんだろうか。 全身に視線を這わせると、私の肌は雅也さんの付けた所有の痕でいっぱいになる。 紅い咬み痕が、私を幸せにさせた。 ずっと付けて欲しかった。 ずっと夢見ていた、痕----- 昨夜は烈しいほどに雅也さんに求められ、私も彼を求めて、幸せな人生最良の夜になった。 何度も何度も飽くなく抱かれて、私は女に生まれて良かったと全身で感じずにはいられなかった。 幸せが私の心をくすぐる。 心地よいくすぐったさだ。 シャワーの音が子守歌代わりになる。 昨日の夜、寝るのが遅かった生で、私は思いがけずに二度寝をしてしまった------ 次に目が覚めたのは、キッチンから聞こえる物音でだった。 規則正しい音に、私は雅也さんが食事の準備をしているのに気が付いた。 大変! ここに着いたら、真っ先に私の手料理を食べさせて上げようと思っていたのに----- 直ぐにローヴだけを引っかけてキッチンに行くと、雅也さんはご機嫌に料理をしていた。 「起きたか?」 「雅也さん、私がするよ?」 だが雅也さんは首を横に振ると、笑いながら私を抱きしめた。 「俺もアメリカ生活で随分料理が旨くなったんだよ。君の手料理はまたいくらでも食べさせて貰うから、今日はおとなしく待っておいで?」 低い声で優しく言うと、雅也さんは私の唇に軽くキスをくれた。 「・あん…・」 唇を離された後、私は思わず甘い声を上げてしまう。 「そんな声を出したら、また君を欲しくなってしまう。夕べは5回も君を抱いたのにね…」 「もう…」 私が恥ずかしさの余りにまっkさになると、雅也さんは、くすくすと笑ってくる。 意味深に腰のラインを撫でられて、私は烈しく喘いだ。 「待っていて…。ご飯を食べたら、また…、判っているね?」 艶やかな眼差しを向けられても、私は恥ずかしくて俯くしかなかった。 私は不作法にも、ガウン姿のまま雅也さんが腕を振るうところを椅子に腰を掛けてみる。 彼がそうしても良いと言ったから。 雅也さんは牛挽肉とタマネギを炒めたものに、精力が付くと笑って大量のニンニクをすって混ぜ、塩こしょうに、水煮のトマト缶を入れて煮詰めていく。スタンダードなミートソースだ。 大きな寸胴鍋にはお湯を滾らせて、500g入りのパスタの袋を丸ごと茹でている。 アメリカのアパートメントは、キッチンはとても充実している。 立派なガスコンロとオーブン、皿にはディッシュウォッシャーも着いているのだから、侮れない。 ここで料理するのは楽しいかも知れないと、私はひとりほくそ笑んだ。 この二年で、とても料理も旨くなったのよ、雅也さん? 雅也さんは手際よく作業を進めていく。 まったく、出来る男性が手際良く料理をするのを見つめるのは、最高のアペリティフと思う。 パスタは茹で上がったところでお湯を切り、バターを絡める。更にパスタのソースを上からかけて、大量の粉チーズと乾燥をパセリを乗せればできあがり。 雅也さんは、シャンパンとインスタントのスープを添えて食卓に持ってきてくれた。 「美味しそう!」 「藤村が作ったものよりも美味いと思うけどね」 雅也さんは、まるで子供がテストの点を母親に自慢するように、弾んだ声で言ってくる。 お母さんのそばによって甘える少年のような無邪気な笑顔がそこにあった。 正直、可愛いと思ってしまう。 「食べてくれ」 「じゃあ、遠慮なくいただきます!」 私は匂いに引かれてパスタを頬張る。味はと言えば、文句なく美味しかった。 「美味しいわ!」 「だろう? 桜塚に帰ったら、イタリアンレストランを開店しないとね? 藤村は途端に閉店だよ」 「そうね!」 ご褒美を貰った子供のようににんまりとする雅也さんが可愛いと思いながら、お代わりをしながら食べた。 食べ終え合うと、私は口に周りをトマトソースで紅くして、ランチに満足をして椅子にもたれかかった。 「お腹いっぱい!」 「そうだね。チャージも済んだし、俺としては甘いデザートが欲しいところだ」 言うなり、雅也さんは私を抱き上げる。 「きゃん!」 「俺にとっての最高のデザートは、君以外に考えられないけれどね?」 私だってそう。 私は返事の代わりに雅也さんに抱き付くと、そのままベッドに連れて行って貰った---- 幸せで甘い日常が始まる。 |
| コメント 古賀さんの短編です。 アメリカのお話。 古賀さんは3年アメリカにと言っていたので、恐らくロースクールに行くのかなあと、何となく思いました。 ちなみに。 雅也にぴったりのロースクールをチョイスしました(笑) |