頭がぼんやりとした。 躰が以上に熱くて、だるい。 起きあがるのもやっとのところだ。 早朝の坂本城は、琵琶湖からの幾分か湿気の含んだ心地よい風が吹きそそいでくる。 ひんやりと躰を包み込んで、熱のある身には気持ちが良かった。 この時代は、私がいる温暖化が叫ばれた現代じゃないことを、風の温度で気付かされる。 空調もない時代だけれども、不思議と心地よい暑さの夏だ----- 便利さに囲まれて、私は本当の季節を忘れているかもしれないと、つくづく思う。 庭の木々は青々トゲっていて、幾分か湿気を含んで朝露に濡れている。 本来の自然の美しさがそこにあった。 いつものように散歩をしたくて、また躰を起こそうとすると、今度は頭がくらくらする。 私は観念して、そのまま寝具の上に横たわっていた。 耳を澄ませば、静かだが、小気味がよい足音が聞こえる-----アヤさんだ。 「姫様、失礼致します」 「どうぞ…」 声をかけてアヤさんが入ってくるなり、私を見て驚く。 「どうかされたのでございますか!?」 寝ているままの私に駆け寄り、アヤさんは駆け寄ってきてくれた。 「-----ちょっと熱っぽくて…」 力無く言うと、アヤさんは心配げに眉根を寄せる。 「失礼致しますね…」 優しくて柔らかなアヤさんの手が私の額に置かれる。 気持ちがよい…。 私はほっと安堵の溜息を吐いた。アヤさんの人柄を表すように、優しい手。 「-----少し熱があるようですね…。殿にお知らせしないと…」 「あ、光希様には!」 私が慌てて止めようとしたところで、襖が開いた。 もう誰か解る-----光希様以外にいない。 「-----姫、今朝は起きてくるのが遅いから心配で…」 そこまで言い掛けて、ぐったりとした私を見ると、表情が変わった。 「大丈夫か!? 姫!」 「大丈夫です…、少し熱があるだけですから…」 私は光希様に笑って見せたが、彼の表情は曇るばかりだ。綺麗な顔立ちが心配で煙っている。 不謹慎かもしれないけれど、そんな光希様の表情も、私は大好き。 「どれぐらい熱が出ている…?」 「そんなに大したことはありません…」 私は務めて明るく穏やかに言ったが、光希様は余計に怒った表情になる。 整った人の怒った表情は本当に恐ろしい。私は少し怖くすら感じた。 「見せてみろ」 「あ、や…、光希様…!」 光希様に額の熱さを知られたくない。だが、抵抗する前に熱を計られてしまった。 「-----随分熱いな…姫…」 「…だって…」 光希様に知られてしまってばつが悪くて切ない。私が俯くと、光希様は頬を優しく触れてきた。 「…姫。今日はおとなしく寝ているのだぞ。薬師に薬湯を煎じるように言っておく」 「光希様…」 光希様は静かに立ち上がると、私に背を向ける。 行かないで-----私は涙目で光希様を見つめ、袴の裾を思わず引っ張る。 「姫…」 甘い呼び子絵と共に、光希様がゆっくりと振り返ってくれる。 優しくて、少し驚いている綺麗な表情がそこにある。 「いつもとは違うのだな、姫?」 瞳に甘い笑みを滲ませて、私の手を握るために跪いてくれる。 「----直ぐに帰ってくる。そうしたら一緒にいるから、少しだけ我慢してくれ…」 「光希様…」 困ったような表情の光希様に、これ以上の我が儘は言えない。 私は光希様の手を握りかえし、小さく頷いた。 「待っています…」 薬師が薬湯を調合して呑ませてくれ、アヤさんが吉野葛で葛湯を作ってくれたので、それを飲んだら眠くなってしまった。 うとうとして微睡んでいると、優しい足音が聞こえた----光希様だ。 木に滑る足袋の音を極力無くして、気を使って歩いてくれている。 本当に大好き…。 「----姫、氷室から氷を持ってきたぞ?」 甘くて低い心地の良い声に、私は目をゆっくりと開ける。 そこには大好きな光希様が映し出される。 「…氷室から…」 この時代、氷がどれほど貴重かは、良く判っている。 今のように冷蔵庫なんてない時代なのだから----- 「早く姫の熱が下がって欲しいからな…」 「有り難う…」 お礼を言い終わると、光希様は心配そうに私の頬を撫でる。 本当にとろけてしまいそうになる。 熱の暑さか、それとも光希様の指の甘さか…。 光希様は無造作に氷を口に含み、私の唇に近付いてくる。 唇が重なり、ほのかに口を開けると、氷が滑り込んできた。 口の中が冷たくて気持ちが良い…。 冷たいけれど、心は何よりも甘くて温かい。 私が氷を飲み下すまでの間、光希様は何度もキスをしてくれた。 切なくて、冷たくて、温かくて、甘いキス。 喉が通る感覚が気持ちがよい。 総てを飲むと、唇が離れた。 わたしはもっと欲しくて、光希様の唇を目線で追う。 「光希様、もっと欲しい…」 正直に甘えると、甘いキスがまた下りてきた----- こんな夢なら、もっと、もっと欲しい----- |
| コメント 光希様だから書けるネタか(苦笑) 教授だととてもじゃねえが(笑) |