ゆりかごのように新幹線に揺られながら、私は隼人さんの肩に頭を凭れさせていた。心地よい疲労が躰を満たして、私はとても幸せを感じる。 私たちは大型連休を利用して、関東にある巨大テーマパークに遊びに行った。 私が「行きたい」と強請った場所を、、隼人さんは笑って連れて行ってくれた。 ふたりで過ごした数日間は、とても楽しくて、甘い日々だった。 「楽しかった…。いっぱい遊んで、いっぱいお土産を買えたしね」 私は足下にあるお土産が沢山入った袋を見て、満足する。勿論、その中には、私と隼人さんのお弁当箱だとか、自分たちで使う物も沢山入っているけれども。 「そうだね。僕もかなり楽しかったよ。君と一緒に小旅行をするっていうだけで、本当に楽しかった」 隼人さんは満足そうに微笑むと、私の手の甲を撫でてくれる。甘い行為が本当に心地が良くて、私は甘さの溜め息を何度も吐いた。セックスじゃなくたって、私たちは愛を深く感じられる。二人でいる時は、愛のあるスキンシップが欠かせないぐらい、私たちはお互いを必要としている。 この間、そのことをぽろりと春子たちの前で言ったら、「バカップルよ、あなたたちは!」と言われて笑われてしまった。 この連休中、私たちはずっと触れあっていた。 テーマパークで遊んだり、新婚さんのように寝不足になりながら愛し合って、また遊んで…。本当に最高の連休だった。 「本当に楽しかったよ…」 私が心の底から呟くと、隼人さんは甘い微笑みを浮かべて手を握ってくれる。私は場所も弁えずに、隼人さんの精悍な肩にしっかりと甘える。華奢に見える隼人さんだけれど、流石は体力の使う外科医の仕事をしているだけあって、しっかりと鍛えられていて、実は逞しい。 それは私だけが知っている秘密…。 そんな優越感に浸りながら、私は隼人さんにべったりとする。 車内には、もちろん私たち以外に沢山の人がいるが、そんなことはどうでも良い。ただ幸せな甘さに浸りたかった。 「疲れたのかな…。ちょっと眠い…」 「散々遊んだからね。僕らが降りるのは終点だし、着いたら起こして上げるよ。少し休んだら、今夜も君に癒して貰えるからね」 意味深に笑う隼人さんに、私は真っ赤になりながら目を閉じた。 暫く、私は柔らかな惰眠を貪る。 隼人さんの温もりに躰を預けながらうとうとしていると、終点近くで車内にアナウンスが耳に入ってきた。新幹線でこんなことは希なせいか、私は少し緊張した。 「ただ今、8号車に於きまして、急病になられたお客様がいらっしゃいます。お医者様か医療関係者の方がいらっしゃいましたら、至急8号車両にお越しくださいますようお願い致します」 8号車と言えば、私たちがいる車両だ。緊張感が増す。辺りをきょろきょろとすると、3つ前のシートで車掌さんたちが集まってきているのが見えた。 「隼人さん…」 「ちょっと様子を診てくるよ」 隼人さんは颯爽と立ち上がると、急病人のいるシートに向かう。 私に向けた背中が、本当に逞しく見える。 誰かを守ることが出来る男の背中だ。 人の命を守ることが出来る…。 「僕は医師ですが」 その言葉に、一緒にいたご家族の方や、車掌さんたちのスタッフが少し安心したような表情になる。 やはり隼人さんのようなお医者様は、必要とされているんだと、私はつくづく感じた。 隼人さんは直ぐに急病人の診察に当たる。今回は完全にオフだったので、診察するための器具を持っていなかったにもかかわらず、やはりその手際の良さは見事と言って良かった。 怜悧な隼人さんを私はじっと見つめる。 これが私の愛する男性です…。 世界で一番誇らしい気持ちになった。 直ぐに患者さんに楽な姿勢を取らせて、脈を取る。その間も隼人さんは、患者さんに優しく問診を続ける。 隼人さんの親身になった診断に、患者さんもようやく落ち着きを取り戻しつつあるようだった。 「軽い狭心症の発作のようです。詳しくは心電図を撮ってみて、正確な判断をして貰った方がいいでしょう。新幹線から降りたら、直ぐに病院へ向かってください。僕も付き添いますから」 隼人さんは出来る範囲内できちんとした診断を下した後、患者さんを安心させるように穏やかに微笑む。 「恐らく心配はないでしょう。脈拍も戻ってきていますから。ですが、念のために、病院に行ってください」 「有り難うございます」 患者さんもその後家族も、本当に安堵の表情を浮かべている。 彼を見ていると、やっぱり凄いお医者さんだって事が判る。患者さんやその家族に、安堵を与えることが出来る医者なんて、早々いない。隼人さんは、やっぱり素晴らしい医師なんだと思う。 本当に素敵だ…。 隼人さんのことを、もっともっと好きになっている自分を感じながら、私は彼が戻ってくるのを待っていた。 隼人さんは車掌さんに話をしてから、一旦、席に戻ってきてくれる。 「未来、患者さんに着いていくことになったから…。駅で待ってくれていても良いし、先に帰ってくれても良い。ただし、帰る場合は、僕の家に戻っておいてくれよ」 隼人さんはとても済まなさそうな顔で私を見つめてくる。優しい医者である隼人さんの為に、私は柔らかく微笑んだ。 「待っているわ。新幹線が着くのも9時前だし、1時間ぐらい喫茶室で本でも読んでるから、隼人さんは患者さんに付き添って上げてね?」 「有り難う」 隼人さんの笑顔を見ていると、私までが癒される。笑顔一つでこんなに安心感を与えられる医師は、きっと、隼人さんしかいない。 「家に帰ったら、僕の心と躰を癒してくれるかい?」 小さく隼人さんは言い、私の躰のラインを一度だけ撫でてきた。 意味深な甘い微笑みに、私は小さく一度だけ頷く。 再び放送が入る。 「乗客の皆様にご連絡申し上げます。先ほどの急病人の方ですが、先生の診察の結果、予定通りに終点で降りて頂き、そこから病院へ向かって頂くことになりました。ご協力、有り難うございました」 誰もが安堵の溜息を吐き、車両全体がほっとした空気に包まれていた。 「じゃあ、行くから。喫茶室で待っていて」 「うん。行ってらっしゃい、隼人さん」 隼人さんは甘い微笑みを私だけに向けてくれた後、患者さんのシートに向かう。その背中は凛としていて、頼りにたる背中だった。 誰かを護ることが出来る背中。私はいつもあの背中に護られている。そう思うと、涙が出るほど隼人さんを愛しているんだって、改めて感じることが出来た。 ゆっくりと新幹線が到着し、隼人さんが先ずは患者さんに付き添って降り、その後をご家族が続く。 私は隼人さんの荷物も含めて沢山荷物があったので、とりあえずは最後に降りることにした。 車窓からはベンチで一旦腰掛ける患者の方が見えて、私に軽く会釈をしてくれた。きっと、私が隼人さんと一緒にいたことを覚えてくれていたのだろう。 私は両手に沢山の荷物を持って、よたよたと新幹線を降りた。ほとんど隼人さんが持ってくれていた物なので、自分で何とか頑張って持って行こうと思う。 私はよたつく姿を隼人さんに見られたくなくて、逆の所から降りようとすると、患者さんのご家族の方がひとり走ってきた。 「相馬先生の奥様!」 そう呼ばれて、私は正直ビックリしたけれども、悪くはない響き。それどころか、くすぐったくて甘い感覚だった。 「はい」 「今回は主人が先生にお世話になって有り難うございます。奥様にはこんなに沢山お荷物を持って貰って申し訳ないです」 「大丈夫ですよ?」 少しよたついてしまうけれども、本当にそう思っていたから私は自然な笑顔で返すことが出来る。 「少しだけ、先生をお借りします」 私は笑顔で女性に頷き、軽く頭を下げた。 私が下に降りようとすると、丁度、消防局の人たちが担架を持って行くところだった。 何もなく、隼人さんが診断したように軽い物でありますように、私はそう祈りながら、ひとり、駅の喫茶室に向かった。 雑誌を読みながら、私は1時間近く時間を潰していた。 隼人さんと患者さんを心配しながら、落ちつかない時間を過ごす。 ようやく待望の携帯が鳴り、私は直ぐに出た。 「はい?」 「未来、僕だよ。とりあえず、引き継ぎも済んだから、駅に向かっている。喫茶室までもうすぐだから」 「うん」 「患者さんは、僕の診断通り軽い狭心症だったから、今晩一晩泊まるだけで退院出来そうだよ」 「よかった!」 「じゃあ後で」 「うん」 携帯を切って、私は心の底からほっとしていた。良かった…。 ホット胸をなで下ろしていると、隼人さんが喫茶室にやってくる。 「お待たせしたね? 直ぐに車を出して帰ろう」 「うん!」 今度は隼人さんが荷物を持ってくれて、私たちは一昨日車を停めた駐車場に向かう。 車に辿り着くと直ぐに荷物をトランクに詰めて、私たちは車に乗り込んだ。 「お疲れ様…。隼人さん」 「有り難う…」 先ほど人が沢山いて出来なかった甘いキスを、隼人さんはくれる。とろけそうになって、私は瞳をとろんとさせた。 「僕の疲れは君が家で癒してくれるだろう? たっぷりね」 隼人さんは意味深に笑い、私は俯くことしかできない。 隼人さんが大好き…。 それを心に秘めて、彼に甘いキスを送ると、ゆっくりと車が出た。 また緩やかな車の揺れに私は身を委ねる。 目を閉じると、幸せな温かさで包まれて、不思議なほど幸福だ。 隼人さん…。またあなたを惚れ直したよ? 本当に大好き。 私は、家に戻って起こるだろう甘い奇跡を楽しみにしながら、深く目を閉じた。 |
| コメント 同人誌再版にボーナスとして収録したものです。 GWでの新幹線の出来事は、ノンフィクションです。 |