愛するひとを待つというのは、たとえ一分であったとしても、永遠に感じられる。秒針がとても重くて、鉛でも付いてしまったのかと思うぐらいだ。 吉羅が仕事で行っていたニューヨークから、五日ぶりに帰ってくる。 一日千秋の想いで待った香穂子は嬉しくてしょうがなくて、朝から華やいだ気分で落ち着きなく過ごしていた。 空港には迎えには来なくて良いと言われているので、ひたすら部屋で吉羅の帰りを待つ。 吉羅に早く逢って抱きしめられたい。抱きしめたい。 興奮し過ぎていたのか、香穂子は気分が悪くなってしまい、いつしか溜め息を吐きながらソファに横たわっていた。 躰が重くて酷い倦怠感に襲われる。その上、急に込み上げてきた吐き気に洗面所とソファの往復になってしまう。 目眩と倦怠感、吐き気。 折角、吉羅が帰ってくるというのに、こんなタイミングで気分が悪くなることはないのにと、香穂子はがっかりと肩を落とした。 今夜は吉羅とゆっくり過ごせると思っていたが、これでは難しいようだ。 香穂子は不意にカレンダーを見つめ、ひとつの事実に行き着く。 生理が来ていない。 予定を既に十日以上過ぎているが、一向に来る気配がない。 「…まさか…」 身に覚えなんていくらでもある。吉羅と一緒に暮らすようになってから、ずっとベッドを共にしていたのだから。 香穂子にとっては初めての経験であったが故に、吉羅には避妊を求めたりは出来なかった。 香穂子はお腹に手を宛てると、深呼吸をする。 もし、妊娠したことを吉羅に告げたら、喜んで貰えるだろうか?それとも、吉羅に冷酷に命令されるだろうか。中絶を。 そんなことは考えられないと香穂子は思った。 折角授かった子どもなのに、愛して止まない男性の子どもなのに、中絶なんて、産まないなんて選択をすることは出来ないと香穂子は思った。 吉羅がどのような選択を香穂子に突きつけるかは、本当に言わなければ解らないことだ。 意外に喜んでくれるかもしれない。ふたりの絆が更に強いものになるかもしれない。 時計を見れば、吉羅が帰ってくるまではまだ時間がある。香穂子はドラッグストアに行き、妊娠検査薬を買い求めることにした。思い悩んでいるよりは、妊娠しているかいないかだけは、きちんと結果を出しておかなければならないと、思ったからだ。 香穂子はミッドタウン内にあるドラッグストアで妊娠検査薬を買い、家に戻って早速試すことにする。 こんなことをするのは初めてだから、本当にどうして良いかが解らない。それに、結果によっては、ひとりの人間に責任を持つという大きなものを抱えなければならないのだ。それ故に、神経がすり減るかと思うほどに緊張してしまう。 香穂子は、緊張と失敗出来ないという気持ちから、説明書を穴があくほどに読んだ後で、香穂子は心深く試した。 結果は直ぐに出た。 香穂子が母親になる。吉羅暁彦との愛の結晶を身籠もっている。 不思議と母親になる喜びが大きく、不安は霧散していく。吉羅の子どもを身籠もった。それは香穂子の短い人生で最も愛したひとの一部を得たことに他ならなかった。 吉羅に知らせよう。知らせたら、喜んでくれるだろうか? もし、香穂子と同じように愛してくれているのならば、きっと喜んでくれるはずだ。 共に暮らし始めて一年。何度も歓喜と絶望の中で揺れて暮らしてきた。愛されているのか不安になる日々も少なくはなかった。だが、子どもを得たことで、ふたりの絆は更に強くなるはずだ。 香穂子はそう信じて、吉羅が帰ってくれば、この事実を告げようとこころに決めた。 |