9月末大嵐。それは夏の終わりを告げる嵐でもある。 望美はテレビのニュースと、窓を交互に見ながら、溜め息を吐ききながら朝食を取っていた。 「今日、ガッコあるのかなあ」 「さあ、まだ学校から連絡来ていないんでしょう?」 母親は朝食後の家事に追われながら、適当に答えてくる。 「うん。うち近いからさこういう連絡網は最後なんだよ」 望美は朝食を取り終わり、大きく深呼吸をする。 テレビで可愛いお姉さんが繰り返し伝えている天気予報は、関東地方は台風の暴風域にすっぽりと覆われており、午前中に再接近すると伝えている。 腹を括って立ち上がると、望美は鞄を手に取った。 「望美、どうするの?」 「うん。やっぱり行くよ。念のため。将臣くんを起こしに行ってくる。将臣くんが連絡網の前走者で私がアンカーなんだよ」 「そうね、確認のために起こしに行ってあげたらどうかしら?」 「うん。そうする」 望美はいつも通りの時間に、有川家を訪ねるためにドアを開ける。 「うわっ!」 ドアを開けると、横殴りのあめと風がきつくと、一瞬怯んでしまう。 「…これじゃあ、休校かなあ。ま、とりあえずは将臣くんを起こしに行きますか」 望美は歩いて十歩の有川家に向かい、いつものようにクラシカルな引き戸を開けた。 「ごめんください。望美です。将臣くんをお越しに来ました」 大きな声で声を掛けた後で、望美は有川家がまるで自分の家のように入っていく。 先ずは必ず、有川家のおじいちゃんとおばあちゃんの仏壇に手を合わせる。 「おじいちゃん、おばあちゃん、いつも見守ってくれて有り難うね」 線香を上げると、いいつも将臣たちの祖母であるスミレのことを思い出してつい柔らかな笑顔になる。 「おばあちゃん、まだ、約束した通りにはなっていないよ。だけど、私、しつこいぐらいにまだ将臣くんが好きなんだよね」 望美はいつものようにスミレに報告をした後で、いつも通りに将臣の部屋へと向かう。 スミレが亡くなる前に約束したこと。それは『将臣と恋人同士になって、結婚する』 こと。 まだまだ恋人すらにもなっていないから、約束を果たす道程はかなり遠いのだが。 望美はゆっくりと階段を上がり、いつものように将臣の部屋のドアをノックする。 「将臣くん、時間だよ。学校に行こう!」 声を掛けても、いつものように反応はない。ならば実力行使に出るだけだ。 「ったく…。毎回、毎回、将臣くんはしょうがないなあ」 望美は溜め息を吐きながら将臣の部屋のドアを開ける。案の定、将臣は薄手の布団を抱えて就寝中だった。 「寝る子は育つっていうけれど、本当に、まあ、にょきにょきとよくお育ちになったよね」 望美は、最早自分よりもずっとずっと逞しく男らしくなってしまった将臣の寝顔を、ベッドの端に掛けて微笑みながら見つめる。 顎のラインはシャープになりより男らしくなり、腕も胸も逞しい男性的なラインになっている。 こちらがうっとりとしてしまうほどに完璧なボディラインだ。 男らしい香りもどこからか仄かに香ってくる。 寝姿と香りに、ドキリとした。 もう男の子じゃない。男の人なんだ 胸が軋むほど痛くなって、望美は苦しくなった。 あどけなさと男らしさが交錯する将臣の寝顔に、ドキドキさせられっぱなしだ。 「…本当に、いつの間にかこんなにも素敵になっちゃったんだね…。何だか悔しいかな」 望美は、どこか寂しい気分になりながら、将臣の目にかかる長めの前髪を柔らかく払う。 「本当に、綺麗なのに逞しい顔だよね…」 将臣の顔をじっと見ているだけで、最近泣きそうになるのは、きっと成長の度に恋情を募らせていった結果なのだろうと思う。 「…ん…」 将臣の瞼が僅かに揺れて、望美は思わずその手を引っ込めた。 「…あ、何だよ…」 将臣の瞳が開かれて、望美は思わず手を引っ込めてしまう。 「あ、あのさっ、学校、誘いに来たんだよっ!」 望美が誤魔化すように早口で言うと、将臣は訝しむように見つめてくる。 「…誘いに来るって…、今日は台風が来てるんだろ?」 将臣は面倒くさそうに言うと、躰をゆっくりと起こし、気怠く髪をかき上げた。 「そうだけれど…」 「学校も、スキンダイビングも、今日は休みだ…」 将臣は欠伸をしながら、もう一眠りするとばかりのとろんとした瞳を向けてきた。 「台風は確かに来てるし、暴風域にも入っているけれど、だけど休校の連絡は来ていないよ」 「…何!?」 将臣は一気に目が覚めたようで、瞳を大きく見開く。 |