*ワインの似合う年になれば*


 お酒を飲めるようになったら……。

 そんなことを、愛するひとに言われたのは、まだ十八の頃。

 そして、ゆきは、お酒が飲める年になった。

 ようやく、愛するひとと、ワインをたしなむことが出来るようになったのだ。

 なんて甘くてロマンスに溢れているのだろうか。

 小松が絡むと、不思議なことに、何でもロマンティックに思えてしまう。

 今夜は、ゆきの二十歳の誕生日を祝うために、小松がひいきにしている、高級レストランに連れてきてくれた。

 ゆきも、このレストランは気に入っている。

 小松に、上質なことを色々と教わった場所でもあるからだ。

 食前酒が先ずは出される。

 ゆきはドキドキしながら、初めてのお酒に口付けた。

 食前酒らしく、程好い甘さのお酒で口当たりもよく、ゆきもさらりと飲むことが出来た。

「このお酒、美味しいですね」

「そうだね。まあ、食前酒だからね。前菜を頂こうか」

「はい」

 正式なフルコースだから、ゆきは緊張しながら食べる。

 なかなか美味しくて、ゆきは食を進めた。

 いつも以上に美味しく感じるのは、やはりお酒のお陰だろうかと、ゆきは思った。

「さあ、お待ちかねの儀式だね」

 肉料理の前に赤ワインが運ばれてくる。

 憧れのワイン。

 大人の女性の象徴のようだ。

 初めてのお酒は赤ワイン。

 何だか、かなり大人になったような気分だ。

「ようやく、君とワインを飲めるようになったね」

「嬉しいです」

「では、乾杯しようか。誕生日、おめでとう、ゆき」

「有り難うございます」

 ゆきが笑顔で頷くと、ふたりでグラスを重ねた。

 本当の意味で大人になったのだ。

 ワインを口づける。

 すると芳醇な味がする。

 まだ、馴れていないから、美味しいとは思えなかったが、満足出来る味だった。

「美味しいとは、思えないですけれど、濃厚な味ですね。慣れたら、好きになりそうです」

「そう。ワインぐらいはたしなめるほうが良いからね」

 小松は柔らかく笑うと、ゆきを見た。

 肉料理が運ばれてきて、ゆきはにっこりと笑う。

「料理とワインの相性を確かめられるのが、嬉しいです」

「それは良かった。君には、きちんとした席にしっかりと馴れて貰わないとね。これからは、会食が増えるのは確かだから」

 かつて、小松にプロポーズまがいのことをされたのを思い出す。

 あのときは、小松に、ワインがたしなめる年になってからだと言われた。

 だが、今は、ワインが飲める年になった。

 ゆきのドキドキが止まらない。

 だが、小松はそれ以上触れようとはしなかった。

 赤ワインを楽しみながら、肉料理を食べてみる。

 すると味わいが更に深みを増すような気がした。

「美味しい!」

「でしょ?魚料理の時は、白ワインが出るから、楽しみにね」

「はい。だけど、こんなにもアルコールばかり飲んでいると、酔っ払ってしまいそうになります」

「酔っ払い、ね。まあ、今夜は酔っ払いになっても構わないよ。私が責任を持つから」

 小松はフッと意味ありげに官能的な笑みを滲ませた。

「だったら、安心ですね」

「……さあ?最も、安心出来ないかもしれないけれどね?」

 小松の笑みの艶やかさに、ゆきは、ドキドキしてしまい、これ以上、何も言えなくなってしまった。

 肉料理と赤ワイン。

 そして魚のポワレには白ワイン。

 料理によってお酒を変える意味を、ゆきはようやく理解する事が出来た。

 いよいよ、デザート。

 素晴らしい大人のディナーは、これでお開きになってしまうのが、柔らかな夢が消えてしまうかのようで切なかった。

「バースディプレゼントだけれど、この後、少し付き合って貰えるかな?ふたりきりになって渡したいから」

「はい」

 これまでの誕生日は、デザートのタイミングでバースディプレゼントを渡してくれていた。

 だが、今夜は違う。

 それは、今夜が、ゆきにとって、大人への第一歩だからだろう。

 切なさが一気に甘い喜びに代わる。

 ゆきは、甘いデザートと一緒に、それ以上に甘いときめきを感じずにはいられなかった。

 

 小松に手を引かれて連れて行かれたのは、高級ホテル。

 まさかの展開に、ゆきは驚く。

 だが、何処かでその展開を期待していたところもある。

 ゆきは、小松に素直について行く。

 小松はずっと待ってくれていたのだから。

 だからこそ、素直についてゆくことが出来た。

 小松は、ゆきを夜景が最高に美しい部屋に誘ってくれる。

「ふたりきりになって、バースディプレゼントを渡したいからね」

「はい」

 小松は、セクシャルな意味ではなく、純粋にバースディプレゼントを渡すためだけに、部屋を用意してくれた様子だった。

 部屋に入ると、目が覚めるほどに夜景が美しく、ついうっとりと見つめてしまう。

 これだけでも、ゆきが大好きなロマンティックがたくさん詰まっている。

 宝石箱の中よりも美しいと思える夜景を眺めながら、ゆきは、最高の誕生日だと思った。

「……ゆき……」

 背後から小松に覆うようにしっかりと抱き締められる。

 力強くしっかりと抱き締められて、ゆきは息が出来なくなる。

「……ワインを飲める年になったね、ようやく……。もう、私は充分すぎるぐらいに、君を待ったんだよ……。だから、願わくは、私を拒絶しないで欲しい……」

 小松は低く魅力的な声で、ゆきの耳元に唇を寄せた。

「……ゆき、私の妻になって欲しい……。なるべく早く……」

 小松は透明でかつ魅力的な声で、艶やかに囁く。その声は誠実さも滲ませている。

 小松の妻になる。

 未来確定図のように、ゆきの中にずっとあったこと。

 ゆきは静かに頷いた。

 夢見た未来を、叶えるために。

「有り難う、ゆき」

 誕生日にプロポーズをされる。

 なんてロマンティックで素敵なことなのだろうか。

 ずっとずっと夢見ていた。

 大好きなひとと結ばれることを。

 それが叶えられて、ゆきは幸せの泪を流した。

 これ以上に幸せなことなんてない。

「誕生日プレゼントは別に用意しているけれど、左手を出して」

 小松に言われた通りに左手を出すと、目映いのに、上品なダイヤモンドの指輪が、左手薬指にはめられる。

「これで逃げられないから、覚悟をして」

 小松は、ゆきの瞳を見つめた後、唇をしっとりと重ねてくる。

 熱いキスが、とても神聖に感じられた。

 最高の誕生日。

 キスの後、小松は微笑むと、ゆきを抱き上げてベッドへと運んだ。




 モクジ ツギ