2
|
まさか小松がいるとは思ってもみなくて、ゆきは目を見開きながら見つめる。 「随分と賑やかだったけれど、そんなにも楽しかったの?」 小松は冷ややかに言うと、ゆきを厳しい眼差しで睨み付けた。 こんなにも冷酷で厳しい眼差しで見つめられると、ゆきは暗い気持ちになる。 恐らくは、ゆきたちが騒いでいたのが、迷惑だったのだろう。 「ごめんなさい、小松さん。私たちが煩くしていたから御迷惑でしたよね……」 ゆきはしょんぼりとした気持ちになりながら、小松を見た。 「……ごめんなさい、申し訳なかったです」 ゆきは、友達の分までしっかりと謝ろうと、深々と頭を下げた。 だが、小松は更に不機嫌な表情になる。 余程気に入らなかったのだろう。 ゆきは切なくて泣きそうになった。 小松はゆきが嫌いだから、どんなことでも気に入らないのかもしれないと、思ってしまう。 大好きなひとにそこまで嫌われたのかと思うと、ゆきは倒れてしまいそうになる。 こんなにも辛いことは他にはないと思う。 「別に謝らなくても良いよ」 小松の声は固くて冷たい。 「ゆきくん、私の質問に答えて。楽しかったの?」 何を聞くのだろうかと、正直、ゆきは思った。 「……楽しかったですけれど……」 「……そう」 小松は相変わらずとりつくしまがないぐらいに、素っ気ない。 「同世代と話すのはそんなに楽しい?」 「楽しいです。少なくとも緊張はしないですよ……。今みたいに……」 追い詰められるように言われて、ゆきは拗ねるような気分にはなる。 確かに煩くしていたかもしれないが、きちんと謝った。なのに小松は謝罪を認めてはくれない。 本当に複雑怪奇だ。 「……いつから、そんな風に言うようになったの?」 「元からです。帰りますね。これからは、小松さんがお楽しみな時には、騒がないように注意をしますよ」 ゆきは小松に背中を向けると、そのまま駆け出してゆく。 本当に腹が立つ。 段々腹が立ってきた。 理不尽に怒られるのが嫌だった。 暫く歩いて振り返ると、小松は勿論、着いてきてはくれなかった。 当然といえば、当然であるのだが。 確かに今日は小松に迷惑をかけたのは事実なのだから。 大好きなひとに拒否されるのは、辛かった。 小松にはきっともう嫌われてしまった。 ゆきは思い知らされた気分なり、惨めな気持ちが込み上げてきてしまい、泣けてきた。 大好きなひととはまれにしか会えない。 なのに怒らせてしまったから、もう会えないかもしれない。 ゆきは、どんどん気持ちが暗くなってゆく。 今回のことは悔やんでもくやみきれなかった。 だが、しかたがない。 ゆきは泣きそうになりながら、なんとか家に戻った。 ゆきが今まで恋人を作らなかったのは、ひとえに小松の存在があったからだ。 小松をずっと好きだったから、他のひとを考えられなかった。 本当にそれだけなのだ。 ゆきは、そろそろ小松から卒業しなければならないと、心のなかで思わずには、いられなかった。 小松にはきっと恋愛する相手は沢山いるだろうから、ゆきなんて子供を相手にはしないのかもしれない。 春からは大学生になるけれども、小松にとって、ゆきは子供のままなのだろう。大学生なんて子供だと、小松なら言い放つだろう。 だからゆきは切ないのだ。 小松にとって、ゆきはただの子供なのだ。 早く大人になりたい。 だが、ゆきが大人になった頃には、小松は結婚しているかもしれない。 結婚はしていないかもしれないが、ゆきを恋愛対象として見てはくれないような、そんな気が強くしていた。 大学生になったら、大人っぽくなろうと思う。 大人の雰囲気を出して、小松に大人の女性だと認めさせたかった。 大人の女性に見えるようにはどうしたら良いのかと、いろいろと考えてみる。 やはり、お化粧をして、洋服を大人びた落ち着いたトーンのものに変えてみようと、先ずは思った。 ゆきは、大学生の前に準備する資金を前倒しで使って、色々と準備をすることにする。 雑誌などで研究をして、基礎化粧品やメイク道具を買い揃えた。 また、自分の手に届く範囲で、大人びた清楚さを生むワンピースなどを買い揃えた。 小松に綺麗だと言って貰いたい一心で、ゆきは総てを買い揃えた。 「このカチューシャ、可愛いな……」 ゆきはカチューシャをじっと見つめた後、ニットで出来たカチューシャも選んだ。 子供っぽいのは解っている。 だが、どうしても好みで欲しかったのだ。 「……ずいぶ可愛らしいものを選んでいるね。君は……」 呆れるような溜め息とともに、冷たい声が背後から聞こえる。 もう誰かは、振り返らなくても分かってしまう。 ゆきの大好きな、手の届かないひとだ。 こんなにも切なくて苦しい出会いなんてない。 「私は私の欲しいものを買いますよ。それだけですから」 ゆきは、それだけを言うと、小松から離れるようにレジに向かった。 だが、小松がゆきの後ろを着いてくる。 ついてきて欲しいくせに着いてきて欲しくない。 そんな複雑な気分だ。 ゆきが買い物を終えると、小松はそれを待っていたかのように、腕をつかんだ。 しつこい感じではなく、本当に然り気無くだった。 「その、カチューシャに似合う服を見に行こうか」 小松はそれだけを言うと、大人の可愛さと気品さが滲んだブランドショップに、ゆきを連れていってしまった。 「ここのワンピースは、君に似合うと思うよ。その、カチューシャに似合う服と靴、小物を選びなさい」 いきなり言われて、ゆきは戸惑うことしか出来ない。 「あ、あの」 「私からの入学祝いだよ。受け取って」 「有り難うございます……」 戸惑いながらも、ゆきはカチューシャに似合うようなワンピースを探す。 「そのワンピース似合うんじゃないの?」 小松が指差したワンピースは、柔らかなベージュを基調にしたワンピースを指差した。 程なく気品があるのに可愛く、そして大人の女性の雰囲気も出ている。 「可愛いですね……」 「だったらこれにしなさい」 「小松さん、どうして、私にお洋服をプレゼントして下さるんですか?」 ゆきは素直に訊いてみる。 すると小松は、フッと意味深に微笑むと、耳許に唇を掠めてきた。 「……考えてごらん?男が服を女性に贈る理由を……」 小松は意味深に囁くと、フッと甘く綺麗に笑った。 |