月子の妊娠が解ってからというもの、郁はかなり気遣ってくれる。 躰を障らないようにと、様々な気遣いをしてくれているのは、とても嬉しい。 時折、過保護ではないかと思うぐらいだ。 まさに郁はイジワルな過保護と言っても過言ではなかった。 そのせいか、月子は郁の行動が微笑ましくて、つい笑ってしまう。 「月子、余り無理をしたらダメだよ。良いね。僕はこれでも一人暮らしをしていたから、家事は色々と出来るから、やれることは沢山あるよ。だから、余り無理をしないようにね」 郁は懇々と言い聞かせるように言うと、月子の手を握り締めてくれた。 「大丈夫だよ、郁。病気じゃないんだから。自分で出来ることは、全部やりたいって思うんだよ」 月子は笑顔で郁を見つめて言う。 本当にそう思っている。 郁には妊娠中はかなり甘やかせて貰っているのだから、出来たら、郁にはこれ以上は様々な気遣いをして欲しくはなかった。 最初は、料理も上手く出来なくて、悪戦苦闘をしたけれども、今は、何とか食事も作ることが出来るようになった。 家事もきちんとこなすことが出来るようになった。 だからこそ、出来る限りのことをしたいのだ。 「なるべく自分でやりたいんだ。だって、子どもが産まれたら、もっともっと大変になるんだからね」 「まあ……確かにそうなんだけれど……」 郁はちらりと大きくなった月子のお腹を見つめる。 月子のお腹は、普通の妊婦よりもかなり大きい。 そのせいか、郁も心配しているのだ。 太ったかと言われたら、本当は太ってなんかいない。 お腹には郁と同じ双子がいるのだ。 よく双子が親だと双子が産まれやすいという、都市伝説があるが、月子はまさにそれを地でいっていた。 郁が双子だから、月子のお腹の中の子どもも双子なのだろうか。 月子はついそんなことを考えては、くすぐったい気持ちになった。 「しかし随分とお腹も大きくなってきたね……。歩いたりするのは、大変じゃない?」 郁は恐る恐る月子のお腹に触れている。 瞳はとても優しくて、喜びを噛み締めているようにも思えた。 「双子妊娠のことなら、お義母さんに色々と訊いているから大丈夫だよ。やっぱり近くに先輩がいると、とても助かるね」 月子が笑顔で言うと、郁は何処か照れ臭そうな表情になる。 「だけど、このお腹の中に、僕たちの子供が二人もいるなんて信じられないね」 「そうだね」 月子はお腹を慈しみ溢れた気持ちで、そっとなぞった。 こうしているだけでなんて幸せなのだろうか。 愛するひととの愛の結晶を、こうして二人も授かることが出来るなんて、こんなに幸せなことはない。 「双子の妊娠って大変でしょ? 僕と姉さんを妊娠した時の母さんは、かなり大変だったんじゃないかなって、思っているよ。君を見て、ようやくお母さんが頑張ってくれたんだって解ったよ。今は感謝している」 郁は懐かしい過去を見つめるように、優しい温かなまなざしを宙に向けた。 こうして姉のことを静かに語れるようになったのだ。 それが月子には嬉しくてしょうがなかった。 「……だけど双子ちゃんって、喜びがいつもの倍なの。だから、本当に嬉しいの。何でも倍で喜べる私たちは、とても幸せだって思うよ」 「そうだね。幸せが二倍……。素敵だね、それは」 郁は本当に幸せそうに笑うと、月子をお腹ごとしっかりと抱き締めた。 父親に抱き締められて嬉しいのか、子供たちは一気に月子のお腹を蹴飛ばした。 「あっ! ふたりともお腹を蹴ったね!」 「うん。きっとお父さんにお腹を抱き締められて、嬉しかったんだよ」 「それは嬉しいね……」 郁は本当に幸せそうに微笑むと、月子のお腹に耳をあてがってそのままじっとしていた。 「こうしていると本当に幸せだね。僕たちが育んだ命が、こんなにも近くに感じられるなんて……。本当に嬉しいよ……」 お腹に耳を宛てたまま、しっかりと目を閉じて抱き締めてくる郁を愛しく思いながら、月子は郁の癖のある髪を撫でた。 「郁と私の赤ちゃんだよ。きっと幸せになれるよ」 「そうだね……。僕たちの子供だからね……」 「そうだよ。逢うのが楽しみだね」 「うん」 郁は本当に心から愛しいと思ってくれている。 二人の子供だから当然だ。 郁とふたりの愛の結晶である子供たちに、月子も早く逢いたくてしょうがない。 「月子、だけど、君は僕のものだからね。悪いけれど子供たちにはママは渡せないと、ちゃんと言っておかなければならないね」 郁はイタズラっぽく笑うと、月子を今度はしっかりと抱き締めてきた。 随分と大きくなったお腹が邪魔をして、以前のようなしっかりとした抱擁を、今は出来ないけれども、それでもこうして抱き合えることが幸せだ。 「お前たち、良いかい? ママはパパのものだからね? いくらお前経ちの頼みでも、それだけは聞けないからね。覚えておいで」 郁は優しく幸せそうに笑いながらも、何処か真剣に言い聞かせている。 その姿が、月子には可愛くて堪らなくて、ついくすくすと笑ってしまった。 「大丈夫、郁。子供たちもとっても大切なんだけれど、やっぱり郁が一番だから」 月子が素直な気持ちを伝えると、郁は嬉しそうな顔をした。 「有り難う。僕も子供たちもとっても可愛いけれど、あくまでも君が一番だからね」 「有り難う、郁」 郁にギュっと抱き締められると、月子は家族に愛されている幸せに、笑顔を零してしまう。 「こうしていると僕たち家族はしっかりと結ばれているのが解って嬉しいね」 「うん」 子供たちがいれば、もっともっと幸せになれる。 そう確信せずにはいられなかった。 「琥太にぃも陽日先生も、自分の子供たちが産まれるみたいに楽しみにしてくれているよ。何だか、逐一君の様子を聞いてくるよ」 「何だか楽しみにして下さっているのは嬉しいね」 「うん。だけど、何だか子供たちを近付けるのは怖いな……」 郁が真剣に言うものだから、月子は不思議に思って小首を傾げた。 「どうして?」 「うん。だって、子供たちが娘だったら、今から狙っているような気がするんだよねえ。特に陽日先生!」 郁が余りにも真剣に力強く言うものだから、月子はつい苦笑いを浮かべてしまった。 「それはないよ。だって親子以上に年が離れているんだよ?」 「いいや、有り得る! だって僕たちの子供たちだからね、可愛いに決まっているじゃん。それに、陽日先生は何でもありだからっ!」 郁の言葉に月子は苦笑いを続けてしまう。 確かにそれはあるかもしれない。 「……まあ、陽日先生も星月先生が何でもありっていうところは、私も認めちゃうところだけれど……」 月子の言葉に、郁は「でしょ?」と、得意顔で言った。 小さな子供たちを、こんなにも誇らしく自慢に思っているということは、きっと郁は、かなりの親バカになるに違いないと、月子は思った。 それがまたおかしくて、同時に可愛くてならなかった。 それが月子にはおかしくてならなかった。 「どうしたの? 何か、僕はおかしいことを言った?」 郁は驚いたような不思議そうな顔をしてこちらを見ている。 「郁はとても良いお父さんになるんじゃないかって思ってたんだよ。しかもかなりの親バカのね」 月子の言葉に郁は意地悪な甘い笑みを浮かべる。 「それは僕が嫁バカだからね」 そう言って、郁は甘い甘いキスをした。 |