後編
点灯式の後、ふたりでデートをする約束をしたので、かなではよりテンションを高めて、点灯式の準備をする。 ロマンティックな夜になるようにと、夕食を一緒にするのだ。 点灯式の夜にデートなんて嬉しくてしょうがない。 それは、ふたりの恋が確実に大人へとステップアップしているということだった。 大地には最もロマンティックな点灯式にして貰いたいとは思うが、それと同じぐらいに点灯式コンサートに来て下さる人々にも、温かい気持ちでいて欲しかった。 そうなるような選曲を、かなでは一生懸命頑張る。 アヴェ・マリア、クリスマスは我が家で、ウィンター・ワンダーランド、ホワイト・クリスマス、きよしこの夜、カノン。 よく知られている温かな曲を中心に選んだのは、しっかりたっぷりと楽しんで欲しかったからだ。 勿論、恋人たちが少しでも楽しめるようにと、ロマンティックな定番クリスマスソングもちりばめた。 やはり、クリスマスというスペシャルな夜には、特別にロマンティックが必要だと、かなでは思った。 いよいよ点灯式当日。 かなでは朝からかなり緊張していて、落ち着けなかった。 今日の点灯式は、理事長、校長、学長をはじめとして、様々な人々が参加するのだ。 かなでの憧れである日野香穂子までもが聴きに来ると聞いて、更に落ち着かなかった。 緊張し過ぎてどうにかなりそうだ。 だが、素晴らしい点灯式コンサートだからなのだろうか。 かなでは、楽屋に与えられた応接室て着替えを済ませて、コンサートの準備にかかる。 もうここまで来てしまったら、逃げるわけにはいかない。 かなではリラックスをするために、ありとあらゆることをしたのは、言うまでもなかった。 「小日向さん、そろそろ準備をお願いします」 「はいっ!」 かなではのんびりと、点灯式会場に向かう。 毎年、大学と高校の生徒の中の代表が、コンサートで演奏をするのだ。 今年は高校から、かなでが選ばれたのだ。 プロとして活躍する名だたるヴァイオリニストが、点灯式のヴァイオリンを弾いてきたのだから、身がひき締まる。 かなでが憧れている日野香穂子もかつては演奏をしたのだ。 光栄だと思いながら、かなでは背筋を伸ばすと、会場に向かった。 会場は、学院の生徒やOBやその家族でいっぱいになっている。 理事長の横には、日野香穂子が座っていた。 その姿を見るだけで、かなでの緊張はマックスになった。 ドキドキし過ぎて喉がからからになってしまい、どうして良いのかが分からなかった。 すると視界の先に大地の姿を認める。 優しいまなざしでこちらを見つめてくれているのが解る。 そのまなざしを見つめているだけで、かなではホッとする。 優しく見守ってくれているのが解っているから、かなではこうしてのびのびとしていられるのだ。 もう一つ、かなでを温かなまなざしで見つめてくれているひとがいる。 日野香穂子だ。 日野香穂子は、かなでがずっと憧れているひとだ。 今日は理事長の隣の関係者席で、かなでを温かなまなざしで見守ってくれている。 こうして尊敬する大好きなひとに見守られていると、不思議と安心するものだ。 こうしているだけで、安心して、嬉しくて、かなでは点灯式コンサートに向かい合えた。 もう大丈夫だ。 緊張なんて何処かへ行ってしまった。 先ずはクリスマスツリーの点灯式が始まる。 理事長、校長、学長と、学院の代表者がクリスマスツリーの点灯スイッチを押す。 すると見事なまでにきらびやかなイルミネーションで、クリスマスツリーが輝く。 見事なまでの美しさで、かなでは思わず見惚れてしまっていた。 本当になんてロマンティックなんだろうか。 後で、大地と一緒にゆっくりと眺めてみたいと思った。 いよいよかなでの出番だ。 ここにいる総てのひとたちに、ロマンティックで温かな時間が訪れるように。 そんな想いを込めて、かなではヴァイオリンを奏でる。 クリスマスツリーの点灯式に相応しいコンサートになるようにと、かなでは心から祈りながら、ヴァイオリンを奏でた。 ヴァイオリンを弾いているだけで、温かな気持ちになる。 かなでにとっては、ロマンティックな気分でヴァイオリンと向き合える時間となった。 ヴァイオリンを温かな気持ちで奏でると、本当にそのような音になるのが、かなでには驚きだった。 ヴァイオリンを奏で終わり、頭を深々と下げて挨拶をすると、そこにいる誰もが、かなでに対して喝采をくれた。 本当に嬉しくて、かなでは泣きそうになる。 温かな拍手は、かなでにとっては最高の報酬だった。 ステージを下りると、先ずは日野香穂子がやってきてくれた。 「小日向さん、素晴らしかったわ。良いものを聞かせてくれて有り難う」 「こちらこそ、聞いて下さいまして有り難うございます」 日野香穂子に声を掛けて貰える。 かなでにとっては最高に素敵なことだ。 「私も、この子も、お腹の赤ちゃんも気に入ったのよ。良いものを聞かせてくれて有り難う」 日野香穂子は手をつないだ小さな娘に目を配る。 かなでは嬉しくてつい笑顔になった。 一通りの挨拶が終わると、大地がそばにきてくれた。 「ひなちゃん、コンサート、良かったよ。たっぷりと楽しませて貰った」 大地の言葉が嬉しくて、かなではつい笑顔になる。 「有り難うございます」 「日野さんにも褒められて良かったね」 「はい!」 かなでが元気いっぱいに言うと、大地はスッと目を細めて甘くなった。 「…ひなちゃん、行こうか」 大地は手をそっと差し延べてくれると、ギュッと握り締めてくれる。 それがかなでには甘くて嬉しい。 「はい」 しっかりと手を握り合って、ふたりは歩いてゆく。 本格的なディナーデートが嬉しくて、かなでは笑みを零した。 「寒くない?」 「心が温かいから平気ですよ」 「俺も平気だ」 大地が連れて行ってくれたのは、学院の近くにあるフレンチレストラン。リーズナブルで美味しいディナーが食べられるのだ。 しかも雰囲気がロマンティックで、遠くにはみなとみらいの夜景も見える。 ふたりはレストランで、ロマンティックな食事をする。 「大地先輩、こんなにも素敵な所に連れて行って下さって有り難うございます」 「気に入ってくれて嬉しいよ」 ふたりで他愛ないことを話しながらする食事は、とても美味しくて楽しかった。 レストランから出て、家に向かう途中で学院の前を通り掛かる。 ツリーは先ほどよりも更にロマンティックに輝いていた。 「さっきよりも綺麗に見えますね。同じクリスマスツリーのはずなのに…」 「そうだね。確かに」 大地は言うと、じっくりとクリスマスツリーを見つめる。 「ねえ、ひなちゃん、知ってる? クリスマスツリーの前で恋人同士がキスをすると…」 大地はそこまで言ったところで、かなでを抱き寄せて唇を重ねてくる。 甘い口付けに、鼓動が一気にマックスになって高まってきた。 甘くて深いロマンティックなキスの後、大地は艶やかなまなざしで真直ぐかなでを見つめる。 「…ひなちゃん…。キスをした恋人同士は、永遠に結ばれるんだよ…」 「本当に?」 「ああ」 「信じます」 ふたりは額をくっつけて微笑み合う。 きっとその甘い伝説は叶う。 かなでと大地は、自分達が身を持って実証してみせようと思いながら、もう一度甘いキスを交わした。 |