後編
香穂子は、かなでにかつての自分を重ねていた、 幸せな恋は何よりもの恋の糧になることを、香穂子は何よりも知っている。 だからこそかなでには良い恋をして欲しかった。 恐らくは、かなでもとても素敵な恋をしていると思う。 その証拠にとても輝いている。 まだスーツ姿に若々しさが漂っている大地も、あっという間に、素晴らしい男性になるだろう。 そしてかなでも同じように成長した時に、幸せでしょうがない音色を奏でることが出来るのだろう。 香穂子は、ふたりを見つめながら、そう思わずにはいられなかった。 「…香穂子、君は随分と小日向君を可愛がっているのだね」 「…はい。いずれは良い意味でライバルになって貰えたらって、思っています」 「それだけ期待する価値があるということだね」 「はい」 香穂子は、大地とかなでを見つめながら、ほんのりとした幸せを噛み締めていた。 パーティ会場に入り、気を遣ったのか、響也が草々にビュッフェに走っていったため、ふたりは手をしっかりと繋ぎ合った。 ちらりと横にいる大地を見る。 本当にうっとりとしてしまうぐらいに大地は素敵だ。 スーツも着こなしていて、とても似合っている。 かなではついうっとり見つめてしまう。 大地はどんどん素敵になっていく。 それに比べて、自分はなんて進化がないのだろうと、かなでは思ってしまう。 これなら釣り合いが取れないのではないかと、ついしょんぼりとしてしまった。 「…ひなちゃん、後で庭に行こうか。夜だから涼しいし、ライトアップがされた薔薇がとても綺麗だよ」 「有り難うございます。是非、見たいです」 かなでは、大地と薔薇の花が見られるなんて、ロマンティックの最上級だと思った。 いよいよ理事長の挨拶が始まる。 理事長が、かなでたちアンサンブルメンバーを従えて、祝辞を述べてくれた。 かなでたちはジュースで乾杯したが、理事長夫妻も同じようにノンアルコールだった。 「ひなちゃん、二連覇おめでとう。来年はきっとハルが三連覇を成し遂げてくれるよね」 軽く大地がウィンクをすると、かなではつい笑顔でみた。 「ひなちゃん、食事を楽しんだら、庭でのんびり散歩をしよう」 「はい」 挨拶の後、のんびりと食事をする。 立食だが、どの料理もかなり豪華で美味しかった。 デザートもうっとりとするぐらいに、充実している。 かなでは大地と一緒に、ケーキとコーヒーを楽しんだ。 香穂子は挨拶が終わると、子供たちの様子を見に行く。 機嫌よくしていてくれて助かったのは言うまでもない。 香穂子は子供たちを連れて、薔薇が見られる庭へと向かった。 子供たちと一緒に。 すると吉羅もやってきてくれた。 「香穂子、今日は色々と有り難う。お前たちも着いて来て貰って済まなかったね。特に、香穂子、いつも有り難う」 「こちらこそ、幸せな時間を有り難うございます。幸せです」 吉羅は香穂子の手をしっかり手を握り締めてくれる。 なんて甘くて幸せなのだろうか。香穂子は、吉羅にそっと寄り添った。 「あら、あのふたりは?」 香穂子は薔薇の庭の先にかなでと大地がいることを視線で認める。 「あちらには近付かないほうが良いですね」 「そうだね」 ふと娘がこちらを見ている。 「パパとママはしゅごく仲良しだね!」 娘に明るく元気に言われて、香穂子はつい真っ赤になってしまう。 吉羅はふと甘く笑った。 「そうだ。お父さんとお母さんは仲良しだ」 吉羅は、娘を軽々と抱き上げると、笑顔で頷いた。 「あのお兄ちゃんとお姉ちゃんのように?」 娘に言われて、つい指示す方向を見る。 すると、かなでと大地がおり、香穂子たちは微笑んだ。 「あのふたりはあのままにしてあげよう…」 「そうですね」 香穂子はくすりと笑うと、かなでたちを見守るように見る。 「いつかこの子もああいう風な素敵な恋に出会うんでしょうか」 「まだ早いとは思うけれどね。だが、ああいう風な恋をしたら、君は慰めてくれるかね?」 吉羅は、家族にしか見せない甘い笑みを浮かべる。 香穂子は僅かに口角を上げると、わざと惚けたような表情をした。 「さあ、どうでしょうか?」 「奥さんにはたっぷりと慰めて貰いたいものだけれどね」 吉羅の言葉に、香穂子はほんのり微笑んだのは言うまでもなかった。 大地はかなでを薔薇が咲く麗しき庭に連れていく。 「ひなちゃん、早くこうしてふたりきりになりたかった…」 大地はかなでの小さな手をしっかりと握り締めながら、真直ぐ見つめた。 パーティ会場の照明よりも、ましてやステージの照明よりも、月の光にナチュラルに照らされたかなでが、何よりも美しいと大地は思った。 逢う度に美しくなる。 これが大人への階段を昇り始めた女性の美しさなのだろうか。 周りにいるどんな女の子よりも、大地は可愛いと思った。 可愛いという言葉では言い尽くせない。それ以上に美しいのだろうと、大地は思わずにはいられなかった。本当に綺麗過ぎて、大地はつい見つめてしまう。 「…ひなちゃん、今日はとても…綺麗だ…。今日でも、今が一番綺麗だと思うよ」 大地はストレートに、自分が思っていることを口にした。 胸が熱くなるほどに苦しい。 息が出来なくなるぐらい、かなでは綺麗だ。 大地はうっとりとしてしまうぐらいに、かなでを見つめる。 余りにも熱く見つめてしまったからだろう。 かなでは耳まで真っ赤にして俯いていた。 それがまた可愛いと、大地は思う。 「有り難う…」 「本当に…綺麗だよ…」 大地は甘く低い声で言うと、かなでを抱き寄せる。 誰に見られたって構わない。 かなでは自分のものであるということが、強くあったから。 「大地先輩も素敵です…。スーツ姿もよく似合ってますね。カッコいいデス…」 かなでは照れながら言うと、上目遣いで大地を見る。 まるでキスをねだられているような気分だ。 本人にはそのような自覚はないだろうから、余計に始末に負えないと、大地は思った。 大地は唇をゆっくりと近付けていく。 そのまま甘いくちづけをかなでに送った。 ローズガーデンで甘いキスが受けられるなんて、最高にロマンティックだ。 かなでは極上のジュースを飲むような甘い気分を味わいながら、大地のキスを受け止めた。 ふわふわとした幸せなキスの後で、かなではギュッと大地に抱き付く。 「…大地先輩のことが…大好き…」 まるで甘い呪文のように囁くと、大地は更に強く抱き締めてくれた。 「…あ…」 ふと遠くに理事長一家のシルエットが見える。 「先輩、理事長一家ですよ」 「…え?」 大地は、吉羅たちの姿を確認すると、やんわりと抱擁を解いた。 「本当に日野香穂子さんも理事長もお幸せそうですよね。憧れちゃいます」 かなではうっとりとした気分で、理事長一家のシルエットを見つめる。 「…いつかああなると良いな…」 ポツリとひとりごちると、大地が眩しいぐらいの笑顔を向けてくれた。 「大丈夫だよ。絶対に、俺たちもああなれる。ああなるように頑張ろう…」 「はい!」 大地の言葉が嬉しくて、かなではついうっとりと見つめる。 いつか理事長一家のような幸せな家族を、大地と築けたら良い。 かなでは大地と見つめあう。 きっとそうなれる。 かなでは強く信じながら、大地を抱き締める。 強く願ったものはきっと叶えられるから。 |