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吉羅の言葉に、香穂子はもうどうして良いかが分からなくなる。 「…私は…ずっと…吉羅さんが特別でしたから…。これからもずっとそうだという自信はあります」 香穂子は素直な気持ちを吉羅に伝える。 ずっとずっとそうだった。 吉羅に恋をしたあの高校生の頃から。 香穂子は、吉羅を真っ直ぐ見つめた。 車が緩やかに停まる。 車が停まるのと同時に、吉羅に抱き寄せられた。 吉羅と密着するだけで、胸が高まっていく。 香穂子は緊張する余りに、喉がからからになった。 息を呑むほどに好きだ。 吉羅の“好き”が躰から零れ落ちてきた。 こんなに好きな男性は他にはいないのではないかと思う。 香穂子はぎこちない仕草でゆっくりと吉羅に抱き着いた。 「…あなたが…好きです…。ずっとずっと好きでした…」 香穂子が声を掠れさせながら愛を呟くと、吉羅は更に強く抱き締めてきた。 「…私も…君が好きだ…」 吉羅の声も掠れ、そこには想いの丈がしっかりと籠っているのが感じられた。 「…香穂子…」 名前を呼ばれて、香穂子は顔を上げる。 吉羅が名前を呼んでくれたのは初めてだ。 ずっとこうして名前を呼ばれたかった。 「私…嬉しいです…。理事長にこうして名前を呼んで貰えて…」 「私も嬉しく思っているよ…」 吉羅は静かに言うと、香穂子の頬を両手で包み込む。 優しい感覚に目まいを覚えそうだ。 香穂子は、吉羅をじっとみつめると、まなざしで“愛している”を伝えた。 吉羅の顔が近付いてくる。 こんなにも素敵な男性が自分の男だと思うと、香穂子は夢見心地だった。 唇を重ねられる。 甘い角度に唇が重ねられて、香穂子はうっとりとした溜め息を吐いた。 こんなにも素敵で甘い感覚は他にはないのではないかと思う。 吉羅の唇がしっとりと香穂子のそれを支配する。 余りに熱い感覚に、香穂子はそのまま墜落してしまいそうになった。 吉羅の舌がゆっくりと香穂子の口腔内に入り込んでくる。 吉羅の舌は、口腔内を動き回り、上顎をくすぐってきた。 背筋がゾクリとするほどに感じてしまう。 香穂子は息が出来なくなるほどに、吉羅のキスに溺れてしまっていた。 唇が放されて、香穂子はぼんやりと吉羅を見つめる。 濃密なキスに頭の中がぼんやりとしていた。 総ての細胞に熱が籠っている。 ざわつきながら、吉羅を求めているのが解った。 「…暁彦さん…」 初めて呼ぶ名前に、声が掠れる。 香穂子は吉羅をただ見つめた。 「…私はもう少し…君のそばにいたい…。香穂子、君はどうなのかね?」 「私も…まだ…暁彦さんのそばにいたいです…」 「では決まりだね。一緒にいようか…。もう少し、ドライブを楽しもう」 「はい…」 吉羅はフッと官能的に微笑むと、運転席に躰を戻す。 ふわりと吉羅のコロンの香りが消えて、香穂子は甘酸っぱい想いを抱いた。 もっともっとそばにいたい。 もっともっと密着をしていたい。 そんな気持ちが、香穂子の心を甘く満たしていた。 車はみなとみらいの夜景が一望出来る場所に停まる。 なんて素晴らしい風景なのだろうかと、思わずにはいられなかった。 「車を降りて、夜景を眺めようか…」 「はい」 吉羅とふたりで肩を並べて夜景が見られるのが、こんなに幸せだとは思わなかった。 ふたりで寄り添って見つめる。 吉羅は、香穂子の躰を支えるように腰を抱いてくれた。 吉羅にとっては慣れていることかもしれないが、香穂子にとってはドキドキすることに違いはない。 勇気を出して、吉羅に甘えるうように立ってみた。 すると吉羅は更に甘く寄り添ってくれた。 「綺麗ですね…」 「ああ。そうだね」 吉羅は香穂子の頬を撫でてくる。 そっと顔を近付けると、甘い甘い触れるだけのキスをくれた。 キスの後、香穂子はロマンティック過ぎて泣きそうになる。 こんなにもロマンティックな瞬間は、他に知らない。 吉羅のことが本当に好き過ぎて、どうして良いかが分からなくなる。 本当に好きだ。 このまま離れたくなかった。 泣きそうになるぐらいに切なくて甘い想い。 これが恋でなければ、なんと言うとなのだろうか。 香穂子は潤んだ瞳をただ吉羅に向けた。 吉羅は香穂子を見つめ返すと、手を握り締めてきた。 「もう少し自分を抑えなければ…と、思っていたのだが…駄目だね。抑えられなかった…。これ以上…、君を待って見守ることは私には出来なかったんだよ…」 吉羅は苦しげに呟くと、香穂子を見つめた。 「…香穂子…。六本木までのドライブは如何かね…?」 六本木までのドライブ。 とても魅力的だ。 香穂子は素直に頷いた。 吉羅と一緒にドライブ出来るのが、とても嬉しかった。 車に乗り込んで、六本木まで目指す。 六本木には吉羅の家があることを、香穂子は知っている。 こうしてふたりで六本木までドライブが出来るなんて、何んて幸せなことだろうと香穂子は思った。 みなとみらいから高速に乗って、六本木までのドライブを楽しむ。 今までは近くて遠い場所だった。 今はとても素敵な場所だ。 パラダイスと言っても良い。 「こうして理事長の車で六本木に行くのが嬉しいです」 「うちはミッドタウンにあるからね、夜景という意味では素晴らしいよ。ただ、横浜ほどではないけれどね…」 「そうですね。私も東京の夜景よりも、やっぱり横浜の夜景が好きです」 吉羅も頷くと、香穂子は笑顔になった。 今から吉羅のテリトリーに行く。 香穂子は、緊張と期待で胸がいっぱいになっていた。 六本木で高速を下りて、いよいよミッドタウンに向かう。 香穂子が今まで知らなかった場所。 高嶺の花の場所。 いつも吉羅のいる世界に憧れていた。 香穂子は、吉羅の聖域に乗り込む気分で、ミッドタウンに入った。 車から降りた後、吉羅は香穂子の手をしっかりと握り締めて、ミッドタウンの居住スペースに案内をしてくれた。 それはとても嬉しい。 「どうぞ」 吉羅に案内をされて、そっと脚を踏み入れる。 香穂子は、うっとりとした気分と緊張を交互に感じながら、部屋に入っていった。 「飲み物は何か必要かな?」 「出来たら水を…」 「…解った。私も水が飲みたい」 吉羅はミネラルウォーターを冷蔵庫から取り出すと、香穂子に手渡してくれた。 「有り難うございます」 「ああ」 ふたりで肩を並べて水を飲む。 ひょっとして吉羅も緊張しているのではないかと思った。 「…香穂子、緊張しているか?」 「少し…。吉羅さんは…?」 「流石に少しね…」 吉羅とお互い様だと思うと、香穂子はほんの少し嬉しかった。 水を飲み終えると、吉羅が香穂子を抱き寄せて来る。 お互いに同じ想いが滲んでくるのが解った。 吉羅とそっと唇を重ねた後、しっかりと抱き合う。 このままではどうなるかを知らない香穂子ではない。 唾液で口の周りが濡れてしまうまで、ふたりはしっかりとキスをする。 香穂子はうっとりとした気分で、ただ吉羅を見つめていた。 吉羅は頬を優しく撫で付けてくれる。 香穂子はその仕草にうっとりとしてしまう。 まるで吉羅の魔法にかかってしまったようだ。 「…香穂子…」 「…吉羅さん…」 「君を永遠に私の特別にしたい…。構わないね?」 「はい…」 香穂子がはにかみながら頷くと、吉羅はフッと笑みを零した。 吉羅は香穂子の額にキスをすると、そのまま抱き上げる。 船出した。 |