*今日という日は*

後編


 吉羅のためなら、何をしても構わなかった。
 何をされても良かった。
 香穂子は、息が苦しくなる程の愛を感じながら、吉羅を見つめた。
 吉羅はご褒美とばかりに香穂子の下着を抜き取ると、脚を大きく開いてくる。
 綺麗で力強い吉羅の指先に花芯を触れられただけで、酷く震えるのを感じた。
「…あっ…んっ…!」
 甘い声を上げれば、吉羅の指先は更に快楽を生む動きをしてくる。
「…余り触れていないのに、もう準備が出来ているんだね、君は…」
「…んっ…! だっ…!」
 吉羅の指先の動きに翻弄されながら、香穂子は激しい息遣いをする。
「…もっと、私も楽しみたいからね…」
 吉羅は薄く笑いながら呟くと、香穂子の中心に顔を埋める。
 舌先で、香穂子の形を確かめるように蜜を舐めとられて、頭がおかしくなる。
 吉羅の指先が、熱く痙攣を始めた香穂子の胎内に入り込むと、容赦なく掻き混ぜられた。
「…やっ…あっ…!」
 欲しいのはこんなに鈍い快楽なんかじゃない。
 もっと熱くて激しい吉羅が欲しい。
 情熱的な欲望を滾らせる吉羅を香穂子は識ってしまったから。
 香穂子は吉羅を求める余りに、細い腰を揺らした。
 吉羅が与えてくれる快楽を知ってしまったから、もうどうしようも出来ない。
 あの快楽が欲しい。
 優しく甘い愛撫なんていらない。それ以上の情熱と吉羅の総てが欲しい。
 香穂子は甘い女の吐息を吐き出しながら、狂おしいまでに吉羅を求めた。
「あ、暁彦さん…っ!」
 吉羅の指先の動きが早くなり、感じ易い部分をくすぐってくる。
 躰がゾクゾクと震えて、気持ち良さの余りに涙が零れ落ちる。
 吉羅に高みまで押し上げられて、香穂子は激しく躰を揺らした。
 吉羅に愛撫されるだけで、なんて気持ちが良くなるんだろうか。
 目を開けていられなくなって、香穂子は吉羅の肩に強く縋った。
 快楽の痙攣が大きくなり、自分ではどうすることも出来ない。
「…んっ! ああっ!」
 一瞬頭のなかがスパークしたかと思うと、そのまま崩れ落ちてしまう。
 汗と涙に塗れて息を乱していると、吉羅が強く抱き締めてくれた。
 熱くて弾むような筋肉が心地良い。
 吉羅が躰を開くと、香穂子は迷うことなく受け入れる。
「あっ、あっ、ああっ!」
 吉羅が力強く、香穂子の胎内に入り込んできた。
 求めていた歓喜の熱が躰に入り込む。
 圧倒的な圧迫と力に、香穂子は大きな嬌声を上げた。
「あっ、あっ、ああーっ!」
 吉羅の硬くて大きな質量に、香穂子は強く締め付けてしまう。
「…香穂っ…!」
 吉羅は香穂子の奥深い場所に自身を突き刺すと、息を乱した。
 躰のなかがおかしくなってしまいそうな熱さに、香穂子の躰は劇的に変化する。
 総てが吉羅色に染め上げられて、自分とは違う自分になってしまうような、変化を感じた。
「…暁彦さ…っ!」
 吉羅は香穂子をより近く求めるように抱きよせると、総てを奪い去ってしまうかのように動き始めた。
 気持ちが良くてどうにかなってしまいそうなのに、苦しい。
 吉羅の焦らすような動きに香穂子は呻き声を上げた。
「暁彦さっ…!
 吉羅は、香穂子を抱いたまま上半身を起こすと更に下から突き上げる。
「あっ、あっ、ああっ!」
 激しく喘げば、吉羅に唇を塞がれた。
 吉羅は舌を深い角度で入れ込むと、胎内と同じ動きをする。
 生々しい快楽に、我慢が出来ないほどに感じた。
「…香穂子…っ!」
 吉羅も汗を光らせながら、香穂子を貪るように抱いてくる。
 吉羅の総てが欲しい。
 吉羅をもっと深く熱く感じたい。
 香穂子は吉羅の屹立を奪ってしまうほどに強く締め付けて、離さなかった。
「…キツいな…」
 吉羅の声は乱れてとても艶やかに聞こえ、香穂子の欲望を煽り続ける。
「…限界だ…」
 苦しそうな甘い声が聞こえたかと思えば、吉羅の突き上げが激しくなった。
「あっ、あっ、ああっ…!」
 これ程までに激しく突き上げられれば、もう何も考えられない。
 快楽が全身に走り抜けて、香穂子は自分で自分をコントロール出来なくなる。
「香穂子っ…!」
「あっ、暁彦さんっ…!」
 香穂子のしなる躰を吉羅が抱き留めると、そのまま強い突き上げを受ける。
 躰がバラバラになってしまうのかと思う程に香穂子は感じると、そのまま崩れ落ちて意識を手放した。

 お互いの鼓動しか聞こえない。だがそれが極上の音楽となって、ふたりを包み込んでくれる。
 お互いの熱で塗れた躰をすりあったまま、ふたりはしっかりと抱き合っていた。
「…有り難う、香穂子…」
「私も凄く嬉しかったです」
 ふんわりと微笑む香穂子が愛しくて、吉羅は華奢な躰を強く抱く。
 もう切なさだとか、やるせなさを感じない。
 姉の命日の前日には、いつも後悔ばかりだったが、今日はそんな気分にはならなかった。
 香穂子がそばにいるから。
 だから何も怖くない。
 だから何も後悔なんかない。
「…香穂子、私はね、いつも姉の命日の前日は、やぶれかぶれな気分になっていたんだが、今夜は不思議と、姉のことを懐かしいとしか感じなくなったよ…。君が癒してくれたから、君が私に温かな温もりをくれたから、私は穏やかな気分でいられる…。こんなことは初めてなんだ…」
 吉羅は訥々と話しながら、香穂子の手触りが良い髪を柔らかく撫でた。
「初めてだよ。姉の命日前日に眠れそうなのは…。君がいるから、安心出来るんだろうね…」
吉羅は素直な気持ちを香穂子に告げると、額に唇を寄せた。
 香穂子を見つめれば、泣き笑いの顔を浮かべている。
「…暁彦さん、私で良ければ、何時でもそばにいますから。何時でも呼んで下さいね。駆け付けます」
にっこりと微笑む香穂子を、吉羅は抱きよせる。
「ずっと一緒にいてくれるか?」
「ずっと一緒にいます」
 香穂子は迷いなどないかのように言うと、吉羅を抱き締めてくれた。
「暁彦さん、愛しています」
「…私も、君だけを愛しているよ…」
 愛するという意味を初めて教えてくれた女性(ひと)。
 吉羅の生涯の中で、香穂子は価値ある唯一の宝物ではないかと思う。そして、いつか、自分にとって大切な宝物を増やしてくれる女性であるだろう。
 今夜はグッスリと眠ることが出来そうだ。
 愛しい者が共にあるから。
「…暁彦さん…眠くなってきました…」
「ああ。おやすみ。良い夢を見るといい…」
「…はい…」
 香穂子は瞼をとろんとさせながら、眠りの世界にひきづられていく。
 愛し合う時は女の顔をしているのに、こうして眠る時は、あどけない少女のような顔になる。
 吉羅は、まだ幼さが仄かに遺る香穂子の頬を撫でて、幸せな気分を味わっていた。
「しかし、君は気持ち良さそうに眠るね」
 吉羅は苦笑しながら、香穂子を見守る。
 香穂子がいるから、命日の前日は、重苦しい日ではなくなった。
 香穂子は吉羅にとって掛け替えのない女性となっている。
「私も眠くなってきたよ」
 吉羅も香穂子に釣られるように目を深く閉じた。


 翌日の姉の命日には、香穂子とふたりで墓参りに行く。
「姉も喜ぶよ。君が来ることにね。私は女性と一緒に墓参りに来るのは初めてなんだけれどね」
「一緒に来られて、凄く嬉しいです」
「私もだ」
 姉の墓前に手を繋いで立つと、カサブランカの花束を置いた。
「香穂子、姉のために、“ジュ・トゥ・ヴ”を弾いてくれないか?」
「喜んで」
 香穂子は名残惜しそうに吉羅から手を離すと、ヴァイオリンを奏で始める。
 姉がこの上なくない美しく奏でた、“ジュ・トゥ・ヴ”を、香穂子が温かな音色で演奏してくれる。
 誰よりも甘い旋律に、きっと姉も喜んでくれているだろう。
 香穂子が演奏し終えると、少しだけ不安げに吉羅を見上げた。
「喜んで下さっているでしょうか?」
「喜んでいるよ」
 吉羅は香穂子を抱き寄せると、顔を近付ける。
「…お、お姉さんが見ていますよっ…」
「姉はきっと微笑ましいとぐらいにしか思ってはいないよ? 君を一生大切にすると誓うためにもね」
 香穂子は頬を染めると、この上なく幸せな笑顔を見せてくれる。
「…私も、一生暁彦さんを大切にします…」
「有り難う」
 吉羅は目を閉じると、香穂子の唇に唇を重ねる。
 幸せな時間が動き始める。
 愛する者と重ねる、かけがえのない時間が----



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