*誘惑のワルツ*


 全身が鈍く痺れるのを感じながら、香穂子はゆるゆると意識を戻した。
 目を開けると、吉羅が慈しみあるまなざしで見つめてくれているのが解った。
「…吉羅さ…ん…」
 その名前を呼ぶと、吉羅は香穂子の頬を親指で撫でながら、愛しげに見つめてくる。
 まなざしだけで愛されていることを知った。
 こころが吉羅への想いで溢れそうになり、香穂子は泣きそうになる。熱い想いに瞳を潤ませていると、吉羅が額にキスをして心配そうに見つめてきた。
「大丈夫か?」
「…大丈夫です…。吉羅さんのことを想っていたら泣きそうになっただけです…。好きなんて言葉じゃ足りないぐらいに大好きだから…」
「…香穂子…」
 吉羅は欲望にくぐもった声で名前を呼ぶと、香穂子を力一杯抱き締めてきた。
 いつの間にか生まれたままの姿になった吉羅は、熱い肌をすりよせてきた。
「…香穂子、君が欲しい…」
 こころが痛いぐらいに幸せな気分に満たされて、感きわまる余りに、香穂子は泣きそうになった。
「…私も…吉羅さんが欲しいです…」
「香穂子…」
 吉羅は香穂子の脚を大きく開くと、その間に鍛えられた躰を入り込ませる。
 早く吉羅のものになりたかったから、香穂子は素直に脚を開いた。
 もの凄く恥ずかしかったが、吉羅のものになれるのならば、それも厭わなかった。
 吉羅は確認するように頷くと、香穂子の瞼にキスをくれる。
「…私は限界だよ…。君が欲しくて、欲しくてしょうがない…。…理性を上手くコントロール出来なかった許してくれ…。ようやく…君を手に入れられるから…、私は嬉しくてしょうがないんだよ…。充分慣らしたが…、香穂子…痛かったら、私を殴っても良いからね?」
「…大丈夫です…。だって、吉羅さんだから…」
 香穂子が柔らかく抱き寄せると、吉羅は理性のたがを外したように、強く、強く、抱き締めてきた。
「…あっ…!」
 欲望たぎる熱くて硬い大きなものが、入り口に押し当てられる。
 その圧倒的な熱さと存在感に、香穂子は全身を震わせた。
 吉羅の屹立が香穂子の入り口を押し広げて、緩やかに胎内に入って来る。
 鋭い痛みが下半身を走り抜けて、香穂子は瞳に涙を滲ませた。
 今まで何も知らなかった場所が、男の逞しい欲望によって新たに目覚める。
 頭の先を突き抜けてしまうほどに痛いのに、吉羅には止めて貰いたくない。
 大好きで大好きで堪らないひとだから、鋭い激痛に耐えられる。
 痛みの余りに、香穂子は歯を食いしばり、顔をしかめた。
「香穂子…平気か…?」
 吉羅が呼吸を乱しながら心配そうに訊いてくれる。
 その不安そうな気遣うような色をまなざしから、早く取ってあげたかった。
「…大丈夫です…っ! 吉羅さんだから、平気っ…!」
 苦しいくせに、痛いくせに、香穂子は何とか吉羅に微笑み掛ける。瞳には痛みで涙が滲んだが、それでも吉羅を最後まで感じたかった。
「…香穂子…っ! 君は…、私をとことんまで夢中にさせるね…。止められないよ…? もう」
 吉羅の声は甘く苦しそうで、艶やかだ。うっとりと聞き入ってしまいたい程に、吉羅の声は魅力的だった。
「止めないで下さい…」
「…ああ…」
 吉羅は気遣うように腰を進めてくれる。
 奥に行けば行く程痛みが増す。だが、痛みよりも、吉羅と一つになれる喜びのほうが勝り、総ての苦痛を凌駕した。
「…ああっ…!」
 吉羅の欲望が力強く押し進んだ瞬間、香穂子は今まで感じたことのない痛みに、躰を震わせる。
 吉羅の背中にしがみついて、思わず爪を立てる。
 吉羅はその痛みを和らげるように、香穂子の顔中にキスをして、涙を唇で吸い上げてきた。
「…あ、ああ…」
 鋭かった痛みが、鈍く変化する。
 破瓜の瞬間、涙が瞳から零れ落ちて、それを吉羅が愛しいそうに吸い上げてくれた。
 こころがじんとして、嬉しさの余りに涙が再び込み上げてくる。
 吉羅は先ほどよりも息を乱しながら、香穂子の唇にキスをくれた。
 悩ましいほどに艶やかな姿に、香穂子は魅了されずにはいられない。
 細胞の奥深いところまで吉羅への恋心が浸透して、もう離れることなんて出来ないと思った。
「…君のなかに入りきったから…」
「嬉しいです…。吉羅さんとひとつになれて…」
 香穂子が微笑みかけると、吉羅は熱く艶やかな溜め息を吐いた。そこには沢山の愛情が籠っていて、愛されているのだということが実感出来る。
「…香穂子…愛してる…」
「わ、私も愛しています…あ、ああっ…!」
 吉羅が香穂子を気遣うように動き始めた。
 痛みを取るように、繋がった場所を指先で刺激をしたり、肉芽を指先で捏ねてくる。
 痛みが徐々に鈍い快楽に変わり始め、香穂子は甘い吐息を吐き出す。
「…あっ…! 吉羅さ…っ!」
 先ほどまでの痛みは霧散し、代わりに快楽が頭を擡げてくる。
 苦しいのに、どうしようもないほどに気持ちが良い。
「…吉羅さん…っ! 吉羅さんっ…!」
 自分の声であるはずなのに、艶やかな女のものにしか聞こえない。こんな声を出すことが出来たのだと、香穂子は自分でも驚いていた。
 同時に吉羅に文字通り女にされたのだ。子供から大人へと大きくステップアップしたのだ。
「…香穂子…っ!」
 吉羅が欲情の籠った声で名前を呼んでくれる。躰もこころも、声を聴くだけなのに感じてしまっていた。
「…吉羅さ…っ!」
 吉羅の抽送が徐々に力を増して来る。先程まででもかなり圧迫されていたのに、吉羅の勇剣は、更に逞しく大きくなっている。
 尖端で奥をくすぐられると、背中に電流が流れたかと思う程に快楽を感じた。
 香穂子が背中をのけ反らせると、吉羅は抱き締めながら更に突き上げて来る。
「吉羅さ…っ!」
「香穂子、“暁彦”と呼んでくれないか…?」
「あ、暁彦さん…っ!」
 香穂子がたったひとりの愛しいひとの名前を呟くと、突き上げはきつくなる。
「あっ、ああっ…!」
 今聞こえるのは、擦り合う淫らな水音と、お互いの激しくも甘い息遣いだけ。
 髪を乱しながら、香穂子を何度も舞い上がらせる吉羅が、とても綺麗に思えた。
 本当に綺麗過ぎて、香穂子は思わず吉羅を抱き寄せる。
 このひとの総てが欲しい。
 このひとを自分のものにしたい。
 欲望が全身から湧き上がり、香穂子は吉羅を離さないように無意識に締め付けていた。
「…香穂…っ!」
 吉羅は快楽を感じる余りに息を乱すと、香穂子への突き上げを更に加速させてくる。
「あっ…! あっ! ああっ…!」
 気持ち良過ぎて涙が零れる。
 全身の隅々まで、吉羅が与えてくれた快楽が行き渡り、香穂子を溺れさせた。
 もう目を開けてはいられなくなる。目を閉じると、光が明滅を繰り返し、香穂子を高みへと連れて行ってくれた。
「あっ、ああっ…!」
 吉羅の欲望が香穂子の最奥に突き刺さると、全身が弛緩する。
 頭の先から爪先まで痺れるような快楽に、香穂子は息を呑んだ。
「香穂子……クッ…!」
 苦しげな吉羅の声と共に、熱いものが放たれたことを、薄いものごしに感じられる。
 その熱さを気持ち良く思いながら、香穂子はゆっくりと意識を手放した。

 吉羅は欲望を出し切った後、躰を大きく震わせる。
 香穂子の淫らで無意識な腰のダンスに、すっかりと溺れてしまっていた。
 温かくて心地好い香穂子の胎内に、もう少しいたかったが、自分自身を引き抜いた。
 香穂子の顔を見ると、あどけない表情で気絶している。
 吉羅は温かな気持ちで香穂子の頬を撫でた後で、目覚める前に後始末をした。
 こんなにセックスに溺れてしまったのは初めてだ。
 気遣う余裕もなく、香穂子を欲望の赴くままに奪ってしまった。
 こんなことは今まではなかったのに。
 気遣ってやれない吉羅に、香穂子は痛みを堪えながらも何度も微笑んでくれた。
 あの瞬間、獣になった。
 香穂子の総てを奪ってもまだ足りないと思うほどに求めてしまった。
 一度抱いてしまえば、腕のなかで閉じ込めて離したくなるほどに欲してしまうと思ってはいた。だが結果はそれ以上で、束縛出来なくなるほどに可愛くて、愛しくて堪らなくなった。
 離したくはない。
 だが香穂子を自由にしたくなるほどに、酷く溺れている。
 吉羅は香穂子の華奢な躰を優しく抱き締めながら、その髪と頬をなぞった。
 香穂子の白い肌には一面、吉羅がつけた紅い所有の痕がある。自分の欲望と独占欲の強さに苦笑してしまう。
「…有り難う…香穂子…」
 本当にこころから愛している。
 こんなにも愛せる女に巡り合えるとは、思ってもみなかった。
 吉羅は幸せに満たされた気分でフッと微笑む。
 離したくない。
 だが束縛出来ないほどの大きな愛を、香穂子に感じていた。





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