*愛人契約*

15


 ここが何処なのかは、香穂子は解っている。

 だが、キスを止めることが出来ない。

 それほどまでに、この熱い想いに溶けてしまいたくなった。

 吉羅と自分の想いが、とろとろに溶け合ってしまえば良い。そんなことを強く思わずにはいられない。

 お互いに唾液がベタベタになってしまうぐらいにキスをして、まるで夢のなかを散歩しているかのようなふわふわとした気持ちになる。

 お互いの呼吸と時間を奪うように、何度も何度も繰り返しキスをする。

 いつまでもキスをしていたいとすら思った。

 お互いにしっかりと抱き合う。

 抱きしめあわなければ、身体を支えられないのではないかと思ってしまうほどに、吉羅のキスは激しかった。

 吉羅の鍛えられた逞しい背中と胸、そして腕が、しなやかに香穂子の柔らかな身体に密着してゆく。

 柔らかさとしなやかさがしっとりとして、かつ激しく融合する。

 それが香穂子にはドキドキしてしょうがない。

 こんなにも甘くて緊張する感覚は、他にはないのではないかと、香穂子は思った。

 唇がぷっくりと腫れ上がってしまうぐらいに、激しいキスをした後で、ふたりは見つめあう。

「うちに戻ろうか?戻っても、まだ、魔法がとけないようにしようか……」

「私も魔法から抜け出したくないです」

 香穂子が呟くと、吉羅もまた頷いてくれる。

 そのまま手をしっかりと繋いで、駐車場に向かった。

 車に乗り込む時間がもどかしい。

 いつもならば、吉羅とのドライブは最高に楽しいことなのだが、今日に限っては、早く帰りたくてしょうがなかった。

 信号待ちですら、もどかしいと吉羅も香穂子も思わずには、いられない。

 信号待ちをしている短い時間も、吉羅は香穂子の柔らかな太股に優しく触れてきた。

 何度かしっとりと撫でられるだけで、香穂子は心も身体も最高に潤んでくるのを感じた。

 思わず熱い吐息を宙に舞わせてしまう。

「……そんな、息を出さないでくれ」

 吉羅は冷たい低い声で、香穂子を咎めるように呟いた。

 香穂子はドキリとして、身体を小さく縮めた。甘い吐息を溢すなんて、淫乱な女だと思われたかもしれない。

 それが切ない。

 香穂子は切なくて苦しくて、黙り込んだ。

 甘い気持ちが段々と泣きそうな気持ちに変わって行く。

 香穂子は苦しくてたまらなかった。

 

 車が家に着く。

 吉羅は、車を降りるなり、香穂子の手をしっかりと握り締めて離さない。その強さに、香穂子は逃げられないと感じた。

 逃げたくもなかった。

 そのまま吉羅の家に入るなり、香穂子はいきなり抱きすくめられた。

 息が出来なくなるぐらいにきつく抱きしめられる。

 それほどまでに切迫するほど、吉羅が求めてくれているのが分かる。

 香穂子にはそれが嬉しくてしょうがなかった。

 こんなにも嬉しいことはないのではないかと思ってしまうほどだった。

 吉羅は貪り尽くすようなキスをしてくる。激しくて、香穂子の唇は火をつけられたのではないかと思うほどに、熱くなった。

 激しく唇を吸い、吉羅は香穂子が自分のものだということを知らしめるかのように、激しいキスをしてくる。

 これ程までに激しくキスをされたのは初めてだ。

 吉羅は更に身体を密着させてくる。男としての逞しさを感じる。

 吉羅が欲しい。

 欲しくて堪らない。

 香穂子は吉羅をしっかりと抱きしめた。

 頭がぼんやりとするほどにキスをされて、香穂子はもう、吉羅以外のことは考えられなかった。

 唇を離した後、吉羅は香穂子を更に抱き締めてくる。

 吉羅には珍しく、情熱的に囁いた。

「……今夜の君は素晴らしく美しい……。私は、誰にも渡したくはない……」

 吉羅は感情がにじんだ低い声で呟く。

「君を見ている男たちが多くて、私は腹立たしかった……。君は私のものだ」

 愛人契約をしているのだから、香穂子は吉羅のものだ。

 そして、心はすでに吉羅に奪われてしまっている。吉羅以外の男性は、もう心の中に入ることが出来ない。

 吉羅以外には誰も考えられないのだ。

「……君は本当に綺麗だ……」

 吉羅は賞賛するように囁くと、香穂子の身体のラインを掌でゆっくりと触れる。肌が悦びにざわついていた。

「……君がヴァイオリンに夢中になっている時は、流石に妬けたよ……。君が勉強するようにしたのは私だと言うのにね……。だからずっと君の手を握り締めてた……」

 吉羅の情熱を感じながら、香穂子は胸がいっぱいになる。

 同じように情熱を高めてくれているのが、嬉しい。

 吉羅はもう一度香穂子にキスをする。

 今度は、柔らかくて優しいキスだった。

 そのまま香穂子を抱き上げて、ベッドへと連れていってくれる。

 お姫様抱っこだなんて、ついときめいてしまう。

 吉羅は香穂子をベッドへと寝かせてくれる。

 今度は、吉羅のものになりたい。その想いが強くなる。

 前回のこのようなことが起こった時には、最後まではいかなかった。

 また、そのようなことが起こってしまうのだろうか。

 少しだけ不安だ。

 もう、総てを捧げても構わないと思うぐらいに、吉羅のことを想っていた。

 吉羅はネクタイを素早く乱暴に外す。その様子を見ているだけで、香穂子はときめかずにはいられなかった。

 なんて艶やかな仕草なのだろうかと、思わずにはいられない。

 吉羅はカッターシャツのボタンだけを外した後、ゆっくりとベッドに乗り、香穂子の髪に指先を這わせた。

 髪を一気に崩されて乱される。

「私はずっとこうしていたかったんだよ……」

 吉羅は甘く笑うと、香穂子のドレスに指先をかける。

「ずっと脱がせることばかりを考えていたけれどね……。私は……」

 吉羅はクスリと笑うと、香穂子のドレスを、楽しむようにゆっくりと脱がしていった。

 恥ずかしい。

 だが、早く吉羅と抱き合いたくて、もどかしくもなる。

 吉羅は一気にドレスを脱がしてしまい、そのうえ下着まで取り払ってしまう。

「君の素肌をいち早く見たかったからね……」

 吉羅の囁きに、香穂子は身体を小さくさせた。

「……本当に綺麗だね、君は……」

 吉羅は称賛の声と眼差しを香穂子に贈ってくれる。

 見つめられて、香穂子は想いが高まるのを感じていた。

 吉羅は香穂子の華奢な身体を抱き締めると、再び激しく唇を塞いできた。

 激しいキスに、香穂子は自分自身の情熱をぶつける。このまま化学変化が起これば良いと思った。



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