*愛人契約*

17


 吉羅は、この先もしてくれるのだろうか。

 今まではしてはくれなかった。

 香穂子だけを気持ち良くさせて、それだけで終わってしまっていた。

 だが、それでは物足りない。

 誰よりもそれは香穂子が自覚していることだ。

 香穂子は、吉羅を泣きそうな気持ちになりながら、見上げた。

「……どうしたのかね?」

「……今度は……、ちゃんとしてくれますか……?」

 自分でもはしたないことを言っているのは、解っている。

 だが、それでも吉羅とひとつになりたかった。

 吉羅を自分のものにしたい。

 そんな想いが強かったのかもしれない。

「……良いのかね?」

 吉羅は香穂子をまっすぐ見つめる。まるで自己責任と言いたげに。

 だが、香穂子はそれでも構わないとすら思う。それほどまでに吉羅のことを求めている。

 誰かをこれ程までに求めたことは他にない。

「……はい。私は、吉羅さんのものになりたいです……」

 香穂子は素直に、かつ情熱的に呟いた。

 すると吉羅は、いきなり息が出来ない程に強く抱き締めてきた。

「……吉羅さん……」

「君を壊したくなるよ……。そんな可愛いことを言われると」

 吉羅は情熱的に囁いてくる。

 吉羅の紡ぐ情熱に、このまま溺れてしまいたくなる。

 いや、既に溺れてしまっているのかもしれない。

 ドキドキして、香穂子は吉羅に潤んだ瞳を向けた。

「香穂子、君は私のものだ。誰のものにもならないように。これは私からの命令だ」

「私は既に吉羅さんのものです」

「そうだね、そうだった……」

 吉羅は、一瞬、切なく寂しそうな表情を見せる。それがどうしてなのか、香穂子には分からなかった。

「……香穂子……」

 吉羅が愛しげに名前を呼んでくれる。

 吉羅に名前を呼ばれると、世界一素敵な名前を持っているような気持ちになる。

 香穂子は嬉しくて、泣きそうな表情をした。

 吉羅は香穂子の頬を愛しげに撫でてくれる。

 たとえ錯覚でも、世界で一番吉羅に愛されているような気持ちになり、香穂子は嬉しかった。

 吉羅は香穂子の入り口を確かめるように、指先で撫で付ける。

「……私を受け入れる準備は出来ているようだね……」

 吉羅は嬉しそうに耳元で艶やかに囁いてくれた。

 吉羅に触れられるだけで感じてしまい、香穂子の息が上がる。

 その様子を見つめながら、吉羅はフッと甘く微笑んだ。

 吉羅はあからさまに欲望を滲ませたものを、香穂子に見せつける。

 このようなものを見せられて、香穂子は喉がからからになった。

 吉羅の中心は猛々しくなっており、香穂子にその欲望を明確に見せている。

 こちらが緊張してしまうほどに生命がみなぎっている。

 吉羅の分身だと、香穂子は強く感じずにはいられなかった。

 これを受け入れる。

 受け入れなければ、吉羅のものにはなれないのだ。

 香穂子は緊張し過ぎてしまい、思わず喉を鳴らした。こんなにも緊張してしまうなんて、あり得ないと思うほどだ。

 吉羅を受け入れたい。

 吉羅のものになりたい。

 それは香穂子にとっては絶対だ。

 だが、こんなものを受け入れたら壊れてしまうのではないかとも、思ってしまう。

「……どうした?」

「……吉羅さんが、私の胎内に入ってきたら、壊れてしまうかなって、思ってしまって……」

 素直に恐ろしさを口にする。すると吉羅は、クスリと薄く笑った。

「……大丈夫だよ。君は私を受け入れるために出来た。準備もちゃんと出来ているよ……。だから、心配しなくても大丈夫だよ……」

「……吉羅さん……」

 吉羅の言葉を素直に飲み込むと、香穂子は浅く呼吸をする。

 怖い。

 だが、吉羅がそばにいるから大丈夫だ。

 香穂子は吉羅の鍛えられた身体を抱き締めた。

 吉羅は抱き締め返してくれると、香穂子の太股を柔らかく開いてくる。

「……吉羅さんっ……!」

 吉羅は、香穂子の入口に自分自身の熱い部分を宛がってくる。入り口をやんわりとなぞられて、香穂子はうっとりとした気持ちになった。

 身体の奥底から吉羅を求めているのだと、感じずにはいられなかった。

 吉羅は入り口を慎重に押し広げるように、ゆっくりと確実に、香穂子の胎内に入ってくる。

 痛みがじわじわと広がり、香穂子は息が上手く出来なかった。

 苦しくてしょうがない。

 痛みが鋭くて、香穂子は浅い呼吸を繰り返す。

 顔をしかめながら呻くと、吉羅は宥めるようなキスをくれた。

「……痛いかな?」

「……はい……」

「……我慢できる?」

「出来ます……」

「そう。だったら、続けるよ。ここまで来たら、私は止められなくなるからね……」

 吉羅は苦しげに囁くと、更に腰を進めていった。

「……吉羅さんっ……!」

 苦しくてたまらない。

 だが、吉羅を完全に受け止めたいという気持ちは募るばかりだ。

 吉羅の背中にすがりついて、香穂子は涙を滲ませながら、痛みに耐える。

 相手が愛するひとでなければ、きっと耐えられないだろうと、香穂子は思った。

 吉羅は香穂子を完全に支配すると、大きく呼吸をした。

「……香穂子……」

 名前を呼びながら、吉羅は香穂子の瞳から滲んだ涙を唇でそっと拭ってくれる。

 なんて甘い行為なのだろうかと、ついうっとりとした気持ちになった。

 吉羅はゆっくりと気遣うように動いてゆく。痛みがやはり身体を貫いてくる。

 香穂子は涙を流したが、それでもやめて欲しいとは思わなかった。

 吉羅が動く度に、結合の痛みで息も出来なくなる。

 だが、嬉しい痛みだとも香穂子は思った。

 吉羅が、胎内で更に力を増してくる。息が出来ないぐらいに力強い。

 吉羅が動く度に、段々痛みが鈍くなってきた。

「……んっ、あっ……!」

 甘い声がつい漏れる。

 鈍い痛みが、まるで幻想のように甘くなる。

 痛いのに甘いのは、どうしてだろうか。

 吉羅の突き上げが激しくなってくる。

 香穂子はすがり付きながら、無意識で腰を動かしてしまう。

 吉羅を締め付けてしまう。

 苦しいぐらいに甘い感覚に、香穂子は細胞レベルで甘さを感じた。

 吉羅は息を乱しながら、突き上げてきた。

 もう何も考えられないぐらいに、意識がぐちゃぐちゃになる。

 身体が弛緩して、頭の奥が痺れてきた。

 もう何も考えられない。

 吉羅が渾身の突き上げをした瞬間に、香穂子は意識を手放した。

 熱くて幸せなものが胎内に放出される。

 なんだか光を感じて気持ちが良い。

 生命力がみなぎっている。

 幸せな失いかただった。



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