前編
第二日曜日は母の日。 母親の香穂子が太陽として回っている吉羅家では、最大のイベントのひとつだ。 暁慈を始めとする子供たちも、母の日に合わせて色々と考えている。 いつも家族のために頑張ってくれている母のために、色々なことをしてあげたかった。 兄弟で色々と話し合いをする。 「ママにはいつもいつもお世話になっているから、いっぱいいっぱいプレゼントをしないといけないね」 あさひは勿論とばかりに頷きながら言う。 「こどもの日にもかなり素敵なお祝いをして貰ったからね。そのお返しはきちんとしないといけないね」 暁慈は兄としてしっかりと呟いた。 「お母さんは何が喜ぶと思う?」 暁愛は躰を乗り出して言う。 母親に喜んで貰いたいという気持ちが、心から溢れている。 「肩たたき券とか、お買い物券とか?」 ゆうひは幼稚園で教えて貰ったのだと嬉しそうに言っている。 「それは確かに定番だけれどね」 あさひはもっとひねったものが欲しいらしく、小首を傾げていた。 「母さんのことだから、皆が健康で幸せなことが一番のプレゼントだって、言いそうだ。だから先ずは健康で明るくいること」 暁慈は兄弟たちに、体調が悪くならないようにと、さり気なく釘を刺しておいた。 「ママはとーしゃんがちゅきーだから、だいちゅきなママととーしゃんがふたりでいっちょにしゅごす」 一番下の暁美が、確信を突くようなことを言ってくる。 「確かにそうだね。母さんは父さんが本当に大好きだからね」 暁愛は頷きながら言う。 「じゃあさ、パパとママとふたりきりで映画鑑賞か、クラシックコンサートをプレゼントして、その間に、私たちがお料理を作ってご馳走するのは良いんじゃないかな」 あさひの提案に誰もが頷く。 「本格的な招待状を作ってさ。父さんにも協力をして貰って…。本格的な肩たたき券、お買い物券、お掃除券のお手伝い券を作ってプレゼントはどうだろうかな」 皆の意見の良いところを取るように、暁慈はまとめる。 「じゃあそうしようか」 「うん!」 兄弟たちはそれが素晴らしいアイディアとばかりと、誰もが頷いていた。 先ずはお手伝い券を、おチビ組と作ることにする。 チビ組が絵を描いて、暁慈がスキャナーで、それをパソコンに読み込んで加工を行なうことにしたのだ。 小さな兄弟は一生懸命にカードに使うイラストを描き続ける。 本当に楽しそうにイラストを描いているので、スキャナーをするのが楽しみだった。 「ママとパパには恋愛映画かクラシックコンサートが良いと思うんだけれど…、あっ! このさ、クラシック音楽と映画っていうのはどうかな?」 あさひは情報誌を暁慈に差し出す。 「どれ? ああ、これが良いかもね。ただ母さんがあのお腹だから、長時間は苦しいんじゃないかな」 「そうか…。あ、これは? マタニティクラシック。時間も短くて、値段も手頃だよ」 「ああ、これなら良いかも」 「うん、そうしよう!」 あさひと暁慈はにっこりと笑って、お互いに満足げな顔になっている。 「俺が学校の帰りにチケットを買ってくるよ」 「うん。じゃあチケット代金はみんなで出そうか。あきちゃんはお小遣いを貰っていないからなしね」 「そうだな。だけど100円ぐらいは出したいって言うかもしれないから、100円貰おうか。その後は、俺がこっそりと補充しておくよ」 「うん、お兄ちゃん、有り難う」 暁慈とあさひで商談がまとまった。 ふたりがコンサートに行っている間に、兄弟みんなで協力をして、食事を作ることにした。 香穂子の喜ぶ顔を想像するだけで嬉しかった。 作戦開始だ。 暁慈は学校の帰りにみなとみらいで途中下車をして、マタニティクラシックコンサートのチケットを買い求めた。 そ れを食事時に、両親に手渡す。 「今度の母の日に行ってくると良いよ。俺たち兄弟からのプレゼント」 ふたりにチケットが入った封筒を渡すと、母親が既に泣きそうになっている。 「有り難う、みんな。母の日はゆっくり楽しませて貰うわ」 「うん。ランチとか食べてゆっくりしてきて。夕食は私たちに任せてくれたら良いから」 あさひの言葉に、香穂子はまた瞳から涙を滲ませている。 「有り難うみんな…」 母親の言葉に、暁慈たちは微笑んだ。 母の日。 両親がコンサートに出かけた後、吉羅家の子供たちは大騒ぎになる。 両親のための料理。 シーフードサラダ、ポタージュスープ、鯛のポワレ、デザートは簡単ティラミス。 簡単そうなレシピをあさひがインターネットで見つけてきて、それをみんなで作ることになった。 いつも本当に有り難う。 兄弟たちはその感謝をプレゼントに込めた。 一番下の暁も一生懸命頑張ってくれ、ゆうひもティラミス作りに一生懸命だ。 小さなふたりも大活躍してくれたお陰で、食事の準備もきちんと終わった。 後は両親が帰って来るのを待つだけだ。 テーブルをセッティングしながら、どの顔にも幸せな笑みが滲んでいた。 香穂子と吉羅は、コンサートの後、みなとみらいで甘いデートを楽しむ。 しっかりと手を握り合って、幸せな時間を過ごした。 「こんなに素敵な時間をプレゼントしてくれた子供たちに感謝ですね」 「そうだね」 吉羅は優しく微笑むと、柔らかく頷いた。 夕方になって、両親が帰ってきた。 兄弟たちは一斉に迎えにいく。 「お帰りなさい」 「ただいま」 母親はきらきらと輝いていて、とても素敵な笑顔だ。 「夕食の準備が出来ているよ。みんなで食べよう!」 ゆうひと暁美が、両親の手を引いていく。 それを、兄たちが続いた。 食事はとても和やかな雰囲気で行われた。 母親は本当に嬉しそうにしている。 少し早い夕食だが、兄弟がみんな仲良く過ごせる、とても楽しいひと時だった。 「本当に楽しいわ。美味しくって、嬉しいわ。みんなどうも有り難う」 香穂子が笑顔でここまで言った時だった。 不意に表情を曇らせて、痛みに耐えるような顔をする。 「…っ!」 「香穂子…!?」 「母さん!?」 「ママッ!」 誰もが香穂子に寄り添う。 「陣痛が来たみたい…」 香穂子は痛みに耐えながらも、幸せそうに微笑む。 直ぐに吉羅が指示を出す。 「暁慈、直ぐにクローゼットに準備してあるお母さんの入院用のスーツケースを出してくれ。あさひ、お母さんに着いて、時計で陣痛の間隔を測ってくれ。私は病院に電話をしてくるから」 吉羅は素早く立ち上がると、幼いふたりを見つめる。 「暁愛、お前は暁慈と一緒に荷物を車に運んでくれ。ゆうひと暁美はお母さんに着いているんだ」 兄弟たちはそれぞれの持ち場につく。 吉羅が病院に連絡をして戻ってくると、直ぐに車に乗り込む。 家の戸締まりは、暁慈と暁愛わが手分けをして責任を持って行なった。 家族皆で香穂子に付き添って、産婦人科医院へと向かう。 香穂子は流石に6人目なので馴れてしまっているので、落ち着いてしまっている。 暁慈や吉羅も表面上は落ち着きを払っていた。 だが、小さな兄弟はやはり緊張しているようだ。「パパ、ママの陣痛の間隔が短くなってきたよ」 「解った。直ぐに分娩室かもしれないね」 吉羅は少しだけ緊張する声で言うと、ハンドルをしっかりと切った。 車が産婦人科医院に到着をすると、吉羅は直ぐに香穂子の様子を医師に伝えた。 先ずは病室に向かう。 緊張が伴う母の日になった。 |