後編
香穂子の力が抜けた足を立てて開かせると、吉羅はその間に躰を押し込める。 切迫してしまう程に欲しいと思ったのは、香穂子だけだ。 今まで吉羅も女とは付き合ってきたし、経験もある。いつも冷静ななかで行為に及ぶことが出来たというのに、香穂子だけはいつも理性を飛ばしていた。 吉羅を求めてひくついている香穂子の入り口に自分を押し当てると、誘うように動かす。 「…あ…暁彦さ…」 香穂子は、暁彦の燃えるように熱いモノに気付き、やるせない溜め息を吐く。 吉羅を求めるように潤んだ瞳を向け、誘うように腰を押し付けてきた。 「香穂子、私が欲しい?」 香穂子は真っ赤になりながら僅かに頷く。だが吉羅は明確な答えが欲しくて、香穂子の耳たぶに唇を押しつけながら囁く。 「…私が欲しいとちゃんと言って欲しい…」 香穂子の極上な声で囁いて欲しい。吉羅が欲しいと。誰よりも欲しいと。 香穂子は浅く呼吸をすると、唇を震わせながら開いた。 「…暁彦さんが…欲しいの…。暁彦さんは…?」 香穂子の声に、欲望に潤んだ瞳に、吉羅の背中はざわつく。 欲望が高まり過ぎて、息が出来なくなった。 「…香穂子、私も君が欲しいよ…」 「あっ、ああっ…、暁彦さんっ!」 吉羅は欲望が赴くままに、香穂子の胎内に、笠が張った自分の欲望を突き挿れる。 もう我慢が出来ない程に香穂子が欲しかった。 香穂子の胎内に入るだけで、狂ってしまいそうになるほどに気持ちが良くなる。 香穂子は吉羅をしっかりと包み込み、離さないとばかりに強く締め付けてきた。 蠢く襞の動きが気持ち良い。 こんなに気持ちが良いのは、愛する女が相手だからだ。一生離したくないと、離さないと決めた相手だからだ。 吉羅は大きく呼吸をしながら、香穂子の胎内に自分自身を挿れきった。 「…香穂子…っ!」 吉羅は快楽を止める余りに顔を歪める。 香穂子を抱き締めると、吉羅はゆっくりと動き始めた。 「あっ、暁彦さん…!」 香穂子の肩や白く豊かな乳房に、唇を押し当てて紅い所有の痕をつけていく。 「香穂子…っ」 自身を締め付けられて、くらくらしてしまう程に気持ちが良い。 我慢が出来ない程に、香穂子を常に欲しかった。 吉羅は香穂子の胎内に自身を擦り付けながら、一番感じ易い場所に勇剣を突き立てた。 「あっ、あっ、ああんっ!」 乱れる香穂子が可愛くてしょうがない。こんなに可愛いと思う女は、他にいないと吉羅は思った。 もう焦らすような動きに耐えられなくなり、吉羅は動きを早めた。 「やっ、あっ…!」 いつもは無邪気な吉羅の恋人も、誰よりも艶やかな女になる。香穂子を色のある女にしたのは自分だ。快楽も官能も、総て吉羅が教えたものだ。 香穂子が可愛い。 香穂子が愛しい。 吉羅は激しく香穂子の最奥を突き上げ、総てを貪っていく。 「あっ、ああんっ!」 長い髪を乱してすがりつく香穂子が愛しい。 吉羅にすがりついて背中に爪を入れると、躰を大きく震わせた。 「大好きっ! 大好きです…っ!」 「…香、香穂子…っ!」 吉羅も、香穂子も限界に近付いてくる。 吉羅が最奥を突き上げれば、香穂子は激しく乳房を揺らして弛緩を始めた。 強く締め付けられて、吉羅の快楽臨界が近くなる。 「あっ、あっ、ああっ!」 香穂子は激しく肌を揺らすと、そのまま快楽の淵へと崩れ落ちる。 「…クッ…! ああっ…!」 吉羅もまた背中をのけ反らせると、そのまま大きく躰を震わせた。 頭が一瞬真っ白になった。 吉羅は、香穂子から自身を抜き取り、後始末をする。 温かな香穂子の躰を抱き締めると、その額にキスをした。 香穂子はゆっくりと腕のなかで目を開くと、にっこりと花のように微笑んだ。 「すまないね。君が余りにも綺麗だから、つい夢中になってしまった。大丈夫?」 「大丈夫ですよ…」 香穂子はふんわりと微笑むと、華奢な躰を吉羅に擦り寄せてくる。 愛しい者。 吉羅は香穂子を抱き締めると、その髪をなで付けた。 「本当は一緒に富士山を見るだけで止めておきたかったんだけれどね。君が余りに可愛いから、…ついね…」 吉羅は自分の欲望が抑えられなかったことを苦笑しながら、香穂子の瞼や頬にキスをする。 「…だけど、暁彦さんが沢山愛情をくれたから、私は嬉しかったんですよ…。ひ、昼間からあんなに明るい時に、その…、恥ずかしいなあ…っと…」 香穂子が頬を赤らめながら、吉羅の胸に顔を埋めてきた。 「ここで沢山、暁彦さんをチャージして、またヴァイオリンを頑張ろうって思います。暁彦さんが、私にとってはいつも最高のエネルギーになっています」 香穂子がくすくすと幸せそうに笑うと、吉羅に更にだきついてきた。 茜色の陽射しが部屋に差し込み、窓ごしに見える富士山が真っ赤に燃えたように輝いている。 「暁彦さん…、富士山がとても綺麗です」 香穂子はにっこりと笑うと、夢中になって富士山を見ている。 吉羅は富士山の夕焼け風景を見るというよりは、それを見る香穂子を見つめてしまう。 本当に綺麗だ。 いつまでも見つめてみたいと思う程に綺麗だった。 離せない。 だから手に入れる。 香穂子が大学を出るタイミングで一緒になろうと思ったが、我慢が出来ないようだ。 捕まえる。 自由にさせても、必ず自分のところに戻って来るように、香穂子を捕まえて離さない。 「香穂子、躰を起こさないか?」 「はい」 吉羅が躰を起こすと、香穂子も同じように躰を起こした。 「暁彦さん! こうして見たほうが、もっと富士山は綺麗に見えますね!」 屈託なく笑う香穂子を見守るように吉羅は笑うと、その躰を抱き寄せる。 「香穂子…」 「あ…」 躰を密着させて、吉羅は頬にキスを贈る。 「…いきなりで驚いてしまうかもしれないが…」 香穂子は何がいきなりなのだろうかと、大きな目を不思議そうに見開いて吉羅を見る。 「…結婚しないか…?」 一瞬、香穂子は言葉を失ったかのように息を呑むと、吉羅を見上げる。 本当にいきなりだとばかりに、こころの準備なんて出来ていないというような顔をしている。 「…あ、あの…」 「君も二十歳だし…、私も意外に待てないようだからね…。私と結婚してくれないか?」 もう一度、吉羅はゆっくりとしたリズムづ香穂子に言った。 香穂子はなかなか返事をしない。 緊張しているのか肌を震わせているような気がした。 心臓が痛い。 待つというのは、こんなにも痛い瞬間だとは、吉羅は今まで感じたことなんてなかった。 「…私…、暁彦さんと…結婚…し、したいです…」 香穂子は顔が真っ赤になり、酸欠寸前なのではないかと思うほどに、たどたどしく言う。 肌と瞳は潤んで、今までで一番綺麗だと思った。 「…有り難う…。香穂子。幸せにする」 「私も、暁彦さんをいっぱい幸せにしますからね」 香穂子は嬉し涙を浮かべながら、力強く返事をしてくれる。 こころが満たされる。 香穂子とつきあいを始めてから、たっぷりとこころを満たして貰っていたのに、更に限界を知らないほどに満たされる。 明日、横浜に帰ったら指輪を買いに行こう。 香穂子が自分のものであることを、みんなに知らしめるのだ。 「…暁彦さん、大好きです」 「私も愛しているよ」 ふたりは抱き合うと、唇を重ね合う。 離さない。 お互いに強く抱きながら、ふたりは新たな結び付きをスタートさせる。 もう誰も壊すことが出来ない硬い絆を。 |