ずっとジューンブライドになることを憬れていた。 ジューンブライドになれば、幸せになることが約束されているような気がするから。 香穂子は憬れのジューンブライドになれたら良いのにと思う。 相手は大好きな人であれば良いのにと思わずにはいられなかった。 学院近くのカトリック教会で結婚式をしているのを見掛ける。 まさにジューンブライドだ。 教会から出て来た新郎新婦は本当に幸せそうで、とても素敵だと思う。 二人ともキラキラと輝いているように見える。 香穂子は思わず見入ってしまう。 いつか大好きな男性とこの教会で結婚式を挙げられたら良いのにと思わずにはいられない。 その時はこうして、六月の青空だったら良いのにと思ってしまう。 香穂子はすっかり自分の姿と重ね合わせていた。 華やいだ雰囲気を感じて、吉羅は顔を上げた。 山手カトリック教会から幸せそうな歓声が沸き起こっている。 吉羅もまた幸せな気分を分け与えられたような気分になっていた。 今日は姉の月命日だ。 いつものように花を持ってやってきたが、思わぬ幸せな風景に出くわした。 姉も楽しんで見ているかもしれない。 こういう真っ直ぐな考え方を取り戻すことが出来たのは、恋人のお陰だと、吉羅は思わずにはいられなかった。 吉羅が教会に近付くと、うっとりと見つめている女性に気付く。 直ぐにそれが誰かに気付いた。 「どうしたのかね…? こんなところで」 声を掛けると、香穂子がはにかんだように振り返った。 その姿に、吉羅は花嫁よりも美しいのではないかと思ってしまう。 恋人の欲目であることは、充分なぐらいに解っている。 だが、そう思わずにはいられないほどに香穂子が綺麗に思えた。 いつかウェディングドレス姿で、自分の横にいてくれたら良いのにと思わずにはいられない。 吉羅は澄み渡る青空よりも香穂子が輝いて見えた。 振り返った先には、香穂子が大好きでしょうがない男性がいる。 いつかこのひとの横でジューンブライドになれたら良いのにと、心から思うひとがいる。 吉羅がフッと香穂子を見て微笑んだ。 「結婚式のシーズンだね」 「そうですね。女の子なら、ジューンブライドで幸せになるという魔法を信じたくなりますよ」 香穂子が華やいだ気分でうっとりと言うと、吉羅がさり気なく腰を抱いてくれた。 「…あ…」 「もう少しだけ見て行こうか…」 「…はい…」 香穂子ははにかむように吉羅を見ると、満更でもなさそうな雰囲気で式を眺めていた。 式が一通り終わったようで、吉羅は香穂子を見た。 「これから姉のお参りに行くが、一緒に来ないかね?」 「はい。有り難うございます」 香穂子は吉羅にしっかりと頷くと、墓地へと歩いて行こうとした。 すると花嫁に手招きをされる。 最初は自分ではないと思っていたのに、「私ですか?」と指を指すと、頷かれてしまった。 何があるのだろうかと行ってみると、参列女性のメインイベントである、ブーケトスが行われようとしていた。 「ブーケトスを始めます。独身女性の出席が少ないから、是非、参加して下さい」 花嫁に言われて、香穂子は笑顔で頷いた。 有り難いと思いながら、香穂子もブーケトスの一員になる。 澄み渡る素晴らしき蒼をたたえた空に、パステルとホワイトが美しいブーケが投げられる。 誰もが青空に向かって手を伸ばして、それを受けとろうとする。 ブーケは緩やかな放物線を描いて、香穂子の近くに落ちてきた。 香穂子はそれを思い切り手を伸ばして、手に入れた。 まさか自分のところにすんなりとやってくるなんて、香穂子は思ってもみなかった。 幸せがやってきたような気分になり、嬉しくてしょうがなかった。 「有り難うございますっ!」 花束を大切に抱き締めると、香穂子は深々と礼をした。 ブーケを持って吉羅の元にやっていくと、そっと抱き寄せてくれた。 「良かったね」 「はい。嬉しくてしょうがないです」 「じゃあ姉のところに行こうか」 「はい」 吉羅とふたりで幸せな気分に浸りながら、墓地へと向かった。 白いカサブランカの花束を墓前に置いて、しっかりと祈る。 ここに吉羅と一緒に来ると、いつも温かな気持ちになれる。 それがとても嬉しかった。 ふたりでゆったりとした気分で墓地から出ると、式はもう終わっていた。 「香穂子、少し教会の中を見ていかないか?」 「そうですね。嬉しいです」 ふたりでしっかりと手を繋いで、教会の中へと歩いていった。 ブーケを持って、吉羅の横にいる香穂子は本当に綺麗で、花嫁に見える。 ついうっとりと見惚れてしまう。 ここまで綺麗に女性はいないと思う。 このまま祭壇の前で、永久の愛を誓いたいと思ってしまう。 「香穂子、私の腕に君の腕をしっかりと絡めてくれないか?」 「はい」 香穂子は言われたようにすると、ほんのりと照れくさい幸せを噛み締めているようだった。 ふたりで腕を組んで、ヴァージンロードを歩いていく。 前に進む度に、本当の結婚式のように思えてくる。 このまま永遠に香穂子を自分のものにしてしまいたいと、吉羅は強く思った。 こうして吉羅とヴァージンロードを歩いていると、本当にリハーサルをしているのではないかと思う。 このまま、吉羅と一緒に永遠を誓ってしまえたら良いのにと、香穂子はつい思ってしまう。 祭壇の前に来た時、ふたりは見つめ合う。 本当にこのまま永遠に愛を誓いたい。 「…香穂子、折角ブーケを持っていることだし、リハーサルをしないか?」 吉羅の言葉に、香穂子はつい涙ぐんでしまう。 リハーサルをしたい。 本番がよりスムーズにいくように。 「…では…、リハーサルをしようか…」 「はい…」 香穂子はゆっくりと頷くと、吉羅を見つめた。 「病める時も健やかなる時も、死がふたりを…、いや…死んだとしても、日野香穂子に永遠の愛を誓います」 吉羅の宣誓の言葉に、香穂子は瞳を涙いっぱいに潤ませた。 「…私も…、病める時も健やかなる時も、たとえふたりが死を迎えたとしても、吉羅暁彦さんを永遠に愛することを誓います」 香穂子が高らかに宣誓すると、吉羅の唇が近付いてきた。 触れるだけの厳かなキス。 心から愛を誓うには相応しいキスだ。 唇が離れた後、お互いに照れくさい気分で笑う。 「…これでもう神様に嘘を吐けないからね。覚悟したまえ」 「暁彦さんこそ、掴まえたら放しませんから、覚悟して下さいね」 香穂子の言葉に吉羅はフッと瞳に柔らかな笑みを滲ませる。 「覚悟しているよ」 吉羅の言葉に香穂子は笑顔を向けた。 「君と来年の今時分には本番を挙げたいものだね」 吉羅に甘い声で囁かれる。 背中を貫くような甘い声に、香穂子は熱い吐息を漏らした。 「…暁彦さん、楽しみにしていますね…」 「もう来年だからね。これからきちんと準備をしなければならないね」 「…はい」 香穂子がはにかんで微笑むと、吉羅は躰をそっと引き寄せる。 「…本当に“ブーケトス”の伝説は本物ですね…」 「そうだね。君が文字通り、次の花嫁になるのだからね」 くすぐったい幸せに、まるで雲の上をほわほわと歩いているような気分になる。 香穂子はフッと笑みを浮かべると、吉羅に甘えるように寄り添った。 外は美しい青空。 来年の今ごろは、麗しい青空の下で、香穂子は大好きな男性の花嫁になる。 |