*Love Poolside*

前編


「やっぱり来たか」
 衛藤は半ば面白がっている。
 香穂子はやはりプールサイドにいれば良かったと、思わずにはいられなかった。
 吉羅は香穂子と衛藤の前で泳ぐのを止めて、立った。
「ちゃんとプールサイドにいるようにと言ったはずだが?」
 吉羅は冷徹に香穂子と衛藤を見つめてくる。
「…吉羅さん…、泳ぎたかったんです…」
 香穂子は素直に理由を話す。だが吉羅は厳しいまなざしを変えやしない。
「俺が誘ったんだ、暁彦さん」
 衛藤は悪びれることなくあっけらかんと言うと、香穂子に耳打ちをする。
 不意に香穂子に耳打ちをしてきた。
「…言った通りだよ。暁彦さんは香穂子さんのことを誰にも見せたくはなくてやってきたんだよ」
 衛藤は楽しそうに再び泳ぎ始めた。

 残された吉羅と香穂子はプールの中央でぼんやりと見つめるしかなかった。
「あれほど言っただろう…」
 吉羅は呆れたように言うと、香穂子を腕の中に閉じ込めてしまった。
「しょうがない、一緒に泳ごう。ただし、私からは絶対に離れないように…」
「はい」
 吉羅は香穂子にかなり密着をした後、一緒に泳ぐために、ペースを合わせてくれた。
「先ほどのように、ひとりにはならないように」
「…はい…」
 香穂子は吉羅がそばにきてくれたのが嬉しくて、思わず笑みを零した。
「全く…桐也は何を考えているんだか…」
 吉羅は不機嫌そうに言いながら、香穂子のそばに着いて離れない。
 吉羅がこうして密着してくれるのは、香穂子にとっては嬉しかった。
 嫉妬したのだろうか。
 それならとても嬉しいのにと、香穂子は思わずにはいられなかった。
 吉羅と一緒にひと泳ぎする。
 香穂子は五十メートルを泳ぐのが精一杯だから、吉羅はそのペースに合わせてくれている。
 素直に嬉しいし、また有り難いとも思っている。
 泳いだ後、プールサイドで少しだけ休憩をした。
「とても楽しいです。吉羅さんと一緒に泳げて嬉しいです。有り難うございます」
「それは良かった。私も君と一緒に泳ぐことが出来て楽しいからね」
「連れてきて下さって有り難うございます」
 香穂子が笑顔で言うと、吉羅は一瞬熱いまなざしでじっと香穂子を見つめた。
「…私も君と過ごせるのが何よりも幸せだ」
 吉羅の言葉と落ち着いた笑顔が嬉しくて、香穂子は更に笑顔になった。
「もうひと泳ぎしたら食事に行かないか?」
「はい」
 吉羅は頷いて立ち上がると、香穂子の手を強く握り締めてゆっくりとプールへと向かう。
 その横顔を見ていると、かなり厳しいことに香穂子は気付いた。
 何だか威嚇しているような気がする。
 それがどうしてか、香穂子には解らなかった。
 プールに入り、ふたりは再び泳ぎを楽しむ。
 先ほどよりも、吉羅が更に密着をしてガードするかのように泳いでくれる。
 五十メートルを一本流したところで、突然、吉羅に手を握られた。
「上がろうか…」
「あ、はい…」
 吉羅が強引過ぎるぐらいに手を握り締めてくるものだから、香穂子はそれに従うことしか出来なかった。
「香穂子、今夜はずっと一緒にいても平気かな?」
「はい、大丈夫です」
「…だったら良かった…」
 吉羅は先ほどまでの威嚇をするような表情を解いて、柔らかな笑みを浮かべる。
 今夜は吉羅と過ごす。
 初めてではないが、毎回緊張してしまうのだ。
「…香穂子、着替えよう」
「はい」
 ふたりでそれぞれの更衣室に向かう。
 香穂子はシャワーを浴びて、ホテル特製のボディシャンプーやシャンプーの香りに癒されながらリラックスする。
 とても心地良い時間だった。

 香穂子が身仕度を終えると、既に吉羅が待っていてくれた。
 香穂子の姿を見るなり、手をしっかりと握り締めてくる。
「レストランで軽く食事をしようか」
「はい…」
 吉羅とふたりの、甘い甘い時間が始まりを告げた。
 夏の美しい夕闇を見ながらの食事は、とてもロマンティックだ。
 香穂子は食事の美味しさとロマンティックさを楽しんだ。
 いつもよりも食事のペースが早いような気がする。
 特に吉羅がそうだ。
 いつもならば食事を優雅に楽しんでいるのだが、今日は淡々としていた。
 あっという間デザートの時間になり、お楽しみのそれすらも早目に食べてしまう。
 吉羅はスッと立ち上がると、香穂子の手を引いて、客室階へと向かった。
 夜景が美しいとてもロマンティックな客室に着いた途端に、吉羅は思い切り抱き締めて来た。
「…あっ…!」
「早く君をこうして抱きたかった、抱き締めたかった…」
「…吉羅さん…」
 吉羅は切迫したようなキスを香穂子に浴びせると、そのままベッドへと香穂子を連れていく。
 熱い情熱に、香穂子は全身が甘くてとろとろに溶けてしまうのではないかと思った。

 激しく愛し合った後、吉羅は少し落ち着いたのか、香穂子を優しく抱き締めてくれる。
「…君がプールサイドで余りに綺麗だったから…、ついがっついてしまったね…」
 吉羅は苦笑いを浮かべると、香穂子のボディラインを撫で付ける。
「水着姿の君が余りに綺麗だったから…、つい、桐也を監視につけてしまった。君が泳いでいるのを見て、本当に綺麗だったから、私は…ああやってずっとそばにいたんだ。誰にも君を譲れないし、綺麗過ぎる君を見せたくはなかったからね。男達の不躾な視線をいくら威嚇しても、皆、止まらなかったからね、困ったよ…」
 吉羅は苦笑いを浮かべながら、更に香穂子を抱き締めた。
 吉羅が独占欲を口にしてくれたのが嬉しくて、香穂子は思わず微笑む。
「嬉しいです、暁彦さん。暁彦さんにそのように思って頂けるのがとても…」
 香穂子がにっこりと笑うと、吉羅は唇に甘いキスをくれた。
「大人だから、君には余裕を見せなくてはならないと思い過ぎるところがあるのかもしれないね。今日は君が 余りに美しかったから、とても欲しくなってしまって…、…その…、食事もつい慌ててしまった」
 吉羅はばつが悪そうに言っていたが、香穂子にはそれが嬉しくて、また、可愛いと感じた。
「吉羅さんが可愛いです」
 香穂子はフッと笑うと、吉羅の額に口付けた。
「しかし…、君の水着姿は出来たら私ひとりで独占したいなんて思ってしまうのは、いけないことだね」
「いいえ。私が水着になるのは、やっぱり吉羅さんに一番に見て貰いたいと思っているんからなんですよ」
「香穂子…」
 吉羅はフッと笑うと、再び香穂子を組み敷いてくる。
「君はどうしていつもそんなに可愛いことばかりを言うんだ…」
 吉羅の声が甘く掠れて、聞いているだけで嬉しくなった。
 恥ずかしいが嬉しい。
 香穂子はそのまま吉羅を受け止めると、愛の世界に溺れた。

 翌朝、ふたりは幸せな気分で快適に目覚めて、お互いに微笑み合う。なんて幸せな時間なのだろうかと、 香穂子は思った。
 吉羅とホテルのラウンジで朝食を取り、ゆったりとした時間を過ごす。
 こうして吉羅と朝を共有出来るなんて、これ以上に幸せな時間はないと思った。
 この時間がずっと続けば良いのにと、香穂子は思わずにはいられなかった。

 ふたりで愛情たっぷりな幸せな時間を過ごした後、ホテルを出る。
 こんなにも幸せな時間は他にはないと思いながら、ふたりは手を繋いでみなとみらいを歩いていた。
「今回の幸せは桐也のおかげかもしれないね」
「そうですね」
 香穂子が笑顔で頷くと、そっと吉羅に寄り添った。



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