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天海と付き合うようになって、三年が経過する。 ゆきは大学生になり、確実に大人へのステップを上がろうとしていると自分では感じているのだが、周りはなかなかそう取ってはくれない。 皆、ゆきのことは子ども扱いだ。 当然、天海も子ども扱いだ。 天海は神様だから、余計にゆきを子ども扱いにしてくる。 これはこれで、なんとなく切ないと、ゆきは思う。 早く一人前の女性として扱って欲しいと思うのに、天海にかかれば、ゆきはいつまでも小さな子どもなのだ。 それが少しばかり切ない。 ゆきはデートの時ぐらいは、大人の女性として扱って欲しいと思うのに、なかなかそうはならない。 ゆきは切なくて、苦しく感じる。 大好きなひとには一人前の女性として扱って貰いたいのが乙女心だ。 ゆきは天海にひとりの女性として扱って貰いたくて、背伸びをしてお洒落をする。 雑誌を見て必死に研究しながら、大人女性の綺麗メイクをして、落ち着いた花柄のワンピースを着る。 着飾った姿を天海に見せて、ゆきは大人の女性として認めて欲しいと思ってしまう。 ゆきは何度も鏡をチェックをして、綺麗に着飾っているかを確認してから、天海との待ち合わせ場所に向かった。 天海は神様だけれども、今はゆきの恋人としてこの世界にいてくれている。 それがゆきにとっては最高に幸せなことであるということを、天海もまた解ってくれている。 ゆきは、そんな天海だからこそ、大人の女性として認めて貰いたいと思わずにはいられない。 ゆきが少しばかり背伸びをしたスタイルで天海を待っていると、大学生風の男が近付いてきた。 ゆきが知り合いなのかもしれないと、無防備に小首を傾げていると、男は突然、動けないとばかりに立ち止まってしまった。 そのタイミングで天海がやってきた。 「……お待たせしましたね、ゆき……」 「天海」 魅惑的な笑みを湛える天海にゆきはにっこりと笑いながら、直ぐに寄ってゆく。 やはり大好きなひとがやってくると、気持ちは華やぐものだと、ゆきは思わずにはいられない。 天海はゆきの手をゆっくりと取ると、静かに歩き始めた。 天海はいつ見てもミステリアスな魅力で、ゆきを魅了してくる。 本当になんてロマンティックだろうかと思わずにはいられないぐらいに、ゆきをうっとりとさせてくれる。 ゆきと天海が手を繋いで歩き出した途端に、先程の男性が動き出した。 「さっきのひと、知り合いなのかなあって思って思いだそうとしたんだけれど、思い出せなかった」 「知り合いなわけがないないでしょう……。全く……。最も、私の君に不埒なことを考えているようでしたから、それ相応の報いを受けて貰ったまでですけれどね……」 天海はこちらがゾクリとしてしまうぐらいの笑みを浮かべると、平静としていた。 「……今日は、君が大好きな植物を見つめながら、ゆっくりと食事を楽しむことにしましょう」 「有り難う、天海」 天海としっかりと手をつないで、ゆきは嬉しく思いながら、歩いてゆく。 時折、美しい天海を見ては、美しい女性たちが頬を赤らめているのが解る。 大人の女性が、天海をじっと見つめているのが、ゆきは気が気ではなかった。 天海は本当にうっとりとしてしまうぐらいに綺麗で、しかも男らしい優しさを持っている。 神様だから恋には無頓着かと言えばそうではなくて、ゆきと恋愛しているのだから、そのあたりも普通の男とは変わらない。 現に、この世界では、普通の男として一緒にいてくれているのだから。 ゆきは、だからこそ、普通の男の人と同じように、他の女性を好きになる事もあるのではないかと、時折、不安にすらなってしまうのだ。 ゆきは不安に嫉妬を織り交ぜながら、天海を見上げた。 「ゆき、どうかしましたか?」 甘くて優しい声とまなざしが、ゆきだけに下りてくる。 ゆきを見守ってくれているのは解る。 本当に親が娘を見守るような優しさが滲んでいる。 だが、ゆきが欲しいのはそんなものではない。 もっと欲しいものがある。 それが何かは、ゆきが一番よく解っているのだ。 「……ゆき?」 天海には一人前の女性として見られたい。 ゆきが余りにもじっと見つめるものだから、不安だと感じて、天海はフッと柔らかな慈愛に満ちた笑みを浮かべた。 本当に欲しいのはそんな微笑みなんかじゃないのに。 「……天海は、女のひとにモテるんじゃない?」 「どうしてそう思うんですか?」 「優しいし綺麗だし、守ってくれるから」 ゆきが拗ねるようにぶっきらぼうに言うと、天海はまた子どもにするように、くすりと笑った。 「……さあ、私にはよく分かりません。あなたしか要らないですから」 天海は時々、こちらがドキリとしてしまうようなことを平気で言う。 ゆきは思わずドキリとした。 「それは大人の女として、私を見ていてくれているの? それとも、私のことは、ひとりの女の子として子どものように見ているの?」 ゆきにとっては大きな問題だから、率直に訊いてみた。 だが、天海は深い笑みを湛えるだけで、特には何も言わない。 「ゆき、予約時間に遅れますから、参りましょうか」 天海は誤魔化しなどしていないとばかりに、いつもと同じように言った。 ゆきの手を更にしっかりと握り締めると、天海はレストランへと向かった。 天海は落ち着いた雰囲気のレストランに連れていってくれた。 お洒落さもシックで、大人な雰囲気が漂っている場所だ。 大人の男女が似合うレストランだ。 ゆきはこのような雰囲気を選んでくれた天海に感謝をする。 食事も品がある味で美味しかったし、ゆきが満足いくものだった。 だが、綺麗な女性が天海を見つけては、ついうっとりと見つめているのが印象的だった。 ゆきは心の奥底に燻る嫉妬に苦々しく感じながら、食事をした。 食事が終わると、天海はいつもよりもかなり密着をしながらレストランを出た。 こんなにもしっかりと密着をしてくるのは初めてかもしれない。 それぐらいに天海がかなり近かった。 「ゆき、私からは絶対に離れないで下さい」 「はい」 ゆきも天海からは離れたくはなかった。 綺麗な女性が、先ほどから天海のことばかりを見ていたからだ。 天海は自分のものだということを、ゆきはその女性に教えてあげたかった。 レストランから出ても、天海はゆきから離れようとはしなかった。 ドキドキするけれども、ゆきにとっては最高に甘くて素敵なことのように思えた。 「私からは絶対にはぐれないで下さい。後が面倒ですからね……」 天海は優しい声ではあるのに、何処かゆきに釘をさすように言った。 それはゆきのことを子どもだと思っているからだろうか。 そう思うと泣けてくる。 天海にだけは、小さな女の子のような扱いはされたくはないから。 ゆきは泣きそうな気持ちになりながら、ふと立ち止まって天海を真っ直ぐ見上げた。 「どうかされましたか? ゆき……」 「ね、天海……。あのね、私のことを子どもだと思っている? 大人の女性だとは思ってはいない?」 ゆきは、自分自身が不安に思っている部分を、思い切って天海に訊いてみた。 すると天海は急にゆきを抱き締めてくる。 いきなりのことで、ゆきの心臓は止まりそうになる。 「……そんなことはある筈がありません……。私は君をひとりの女性として見ていますから……」 天海は低く艶のある声で囁くと、唇を近付けてきた。 |