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高杉と付き合うようになってから、そろそろ三年が経過する。 高杉とは穏やかな付き合いをさせて貰っている。 だが、最近は、もう少しステップアップしたお付き合いをもと考えてみたり、まだまだ自分には無理だと思ってみたりと、複雑な気持ちが交差している。 いつまでもこのままなのだろうか。それはある意味切ない。 ゆきは、高杉が本当に、この先もずっと愛してくれるのだろうかと、そんなことを考えては不安になってしまう。 その原因は、やはり自分がいつまでも経っても子どもで、高杉が大人だからだろう。 「愛している」と、なかなか言って貰えないことも原因なのかもしれない。 高杉は愛の言葉が苦手で、なかなか言葉をくれない。 しかも、高杉の周りには、仕事関係の魅力的な女性が、沢山いて、ゆきよりも余程お似合いなのではないかと、思わずにはいられない。 子どもだから。 そんなことを自覚してしまうぐらいに、高杉は大人で魅力的だから。 大学生になり、大人の入口に立っているからこそ、このように悶々と考えているのかもしれない。 高杉とデートの日、ゆきは大人びたワンピースを着て、美しくメイクをした。 メイクをすれば少しは大人びて見えるようになるだろうか。 そんなことを考えながら、ゆきはほんのりと化粧をした。 春らしいサンダルも履いて、ゆきは何度も自分の格好を確認してから、デートへと出掛ける。 最近、高杉の仕事はかなり忙しくて、なかなかデートにも行けない。 この世界に来てから暫くは、のんびりとしていたのだが、仕事をするようになってからは、やはり第一線でこなしている。 人を統率する力に優れている高杉は、やはり仕事も上に立ってテキパキとやるのが似合っている。 かといって、派手さはないのだが、カリスマ性で事業を引っ張っていっている。 ゆきは、そんな高杉を誇らしく思いながらも、何処か寂しくも思う。 きっと、なかなか逢えないからだろう。 ゆきは、待ち合わせ場所である、高杉のオフィスへと向かった。 オフィスに入ると、高杉は熱心に仕事をしているのが見える。 横顔を見るだけで、素晴らしく素敵だ。 しかし、一緒に仕事をしている女性の存在が気にかかってしょうがなかった。 ゆきは、高杉の仕事の邪魔をしないようにと、そっと、オフィスの隅で待っていた。 何も特にすることがなくて、窓辺を見つめる。 春の夕暮れはとても美しくて、ゆきはつい見惚れてしまう。 高杉が好きな夕暮れは、ゆきも大好きだ。 ついぼんやりと見つめてしまうぐらいに好きだ。 ゆきはじっと空を見上げながら、切ない美しさを眺めていた。 ゆきが外を見つめていることに気付いたのか、高杉がクールに声を掛けてきた。 「ゆき、来ていたのか?」 「高杉さん……」 ゆきが微笑むと、高杉は柔らかい微笑みをくれる。 それが嬉しくて、ゆきはつい笑顔になってしまう。 「ゆき、行くぞ」 「はい」 高杉にいきなり腕を掴まれたかと思うと、そのまま連れて行かれてしまう。 「あ、あのっ、高杉さん」 こんなにもしっかりと腕を掴まれるなんて思わなくて、ゆきは戸惑いながら高杉に着いてゆく。 高杉は駐車場に出ると、ゆきを直ぐに車に乗せる。 そのまま高杉は無言で車に乗り込むと、駐車場を出た。 高杉が無言のままだから、ゆきは怒っているのではないかと思う。 高杉のオーラが恐ろしくて、ゆきは無言のまま、車に揺られる。 切ないぐらいに苦しい。 ゆきは胸が痛むのを感じながら、窓の外を眺めた。 ひょっとして、先程の女性といるのを見て、拗ねるように外を見ていた事が気に入らないのだろうか。 子どものように拗ねていたのは確かだから、ゆきは何も言えなかった。 苦しい。 高杉のことが大好きだからこそ、ゆきは拗ねてしまったのではあるが。 高杉のオフィスを出て暫くしてから、ゆきの手を握り締めてきた。 力強いそれに、ゆきはドキリとする。 「待たせたことを怒っているか?」 「え? そんなことでは怒ってはいないですよ。それよりも高杉さんこそ、私のことを怒ってはいないですか?」 ゆきはつい不安になり、高杉に訊いた。 「怒ってはいない」 高杉の言葉はあっさりとしたもので、ゆきは驚いてしまった。 すっかり怒っているのとばかり思っていたからだ。 「今夜は座敷で食事が出来るところにした。お前はそのほうが良いだろう?」 「はい。お座敷は好きですよ」 「それに今日は個室のほうが良い」 高杉は苦悩するかのように溜め息を吐きながら言うと、ゆきの手を更に握り締めた。 高杉がこんなにもゆきに固執するような態度は珍しいから、ゆき自体が驚いてしまった。 車は和風懐石料理が食べられるレストランの駐車場に入る。 車から降りると、ゆきは思い切り手を掴まれたまま、店へと連れていかれた。 人前でゆきをこんなにも捕まえるなんてことは、今まであり得なかった。 つい何かあったのだろうかと、ゆきは思ってしまった。 予約をしていた座敷に連れていかれて、ようやく手を離された。 高杉のことを世界で一番好きだからこそ、ゆきは不安になる。 何かあったのだろうかと。 「高杉さん、あの、何かありましたか?」 ゆきが不安な気持ちで言うと、高杉は驚いたように目を開いた。 「特に何もないが……。だが……」 高杉は何処か困ったように言うと、ゆきを見た。 「お前は気にしなくても構わない」 高杉は何かを誤魔化すように言うと、それ以上は何も言わなかった。 「ゆき、食事が来る」 高杉は誤魔化すように言うと、そのままゆきにそれ以上のことは訊かせないようにしてしまう。 ゆきはそれが切なくて苦しい。 ひょっとして、あの綺麗なひとを好きになってしまって、ゆきとは別れなければならないとでも思っているのだろうか。 それだと余りにも切ない。 ゆきが溜め息が出そうになっていると、高杉は心配そうに見つめてくる。 「お前こそ、何か隠しているんじゃないか?」 高杉に指摘されて、ゆきはドキリとする。 「何でもないですよ、本当に」 ゆきはそれだけを言うと、押し黙ってしまった。 何だか重いデートだ。 それ以上はない。 高杉の雰囲気もいつもよりも険しい。 ゆきはどうしたものかと思いながら、障子窓の向こうに見える景色を見つめていた。 「今日は随分と空ばかりを見つめているな」 「春の空が好きなんです」 「では、“春風”はどうなんだ?」 “春風”。 それは高杉のもう一つの名前だ。 ゆきは意識しながら、ドキドキしてしまう。 「……好きです……」 ゆきが真っ赤になりながら言ったものだから、きちんと意味は理解していると、高杉は取ったようだった。 「だったら、春風の好きなお前は、今日に限って、どうして切ない顔をする?」 高杉にストレートに訊かれて、ゆきは言葉が上手く繋がらないと思った。 「……高杉さんが怒って苛々しているから、私とのデートが嫌なのかなあって……。綺麗な女のひとも一緒で、仕事をするのが楽しそうだったから」 ゆきが本当のところを言うと、高杉は驚いたように息を呑んだかと思うと、鋭い視線を向けてきた。 「ゆき、どうしてそんな考えになるんだ?」 責めるように厳しく言われたかと思うと、高杉はゆきを鋭い目で睨んでくる。 嘘は吐けない。 「……高杉さんは私のことをもう好きじゃないのかなって……」 ゆきが泣きそうになりながら言うと、高杉にいきなり抱き締められた。 |